QCR Autumn 2018- 11: 船舶の差押による損害に対する反対保証(Cross-undertaking) - 海事裁判所は現行の立場を支持

NatWest Markets plc v Stallion Eight Shipping Co SA (The Alkyon) [2018] EWHC 2033 (Admlty)

事実

原告である銀行は、2015年1月、長期ローン契約に基づき、 被告であるAlkyon号船主(以下「船主」)に15,700,000米ドルを貸し付けました。2018年3月22日、銀行は当該船舶の時価が15,250,000米ドルであり、これは貸付残高総額の112%であり、LTVレシオ(Loan-to-value ratio)である125%に満たないことを船主に通知しました。必要な追加担保の金額は1,750,000ドルでした。船主はこの査定金額に異議を唱え、より高い金額を銀行に提示しました。 銀行は、担保不足が解消されなければ債務不履行となると船主に警告しました。

2018年4月25日、銀行は、債務不履行事由を船主に通知し、さらに改善の余地を与えました。2018年6月15日、銀行は船主に、失期(期限の利益喪失)通知を送り、直ちに支払い期限が到来すると通知しました。2018年6月26日、本船はタイン港到着時に、海事裁判所の執行官により差押えられました。船主は、債務不履行事由を否定し、銀行が誠意をもってまたは合法的な商業目的を追求してその権限を行使していないと主張しました。

船主は、差押の間、1日あたり総額11,350ドルの傭船料と1日あたり3,500〜4,000ドルの利益を失うと主張しました。 また、船主はP&I保険ではローン契約に基づく紛争をカバーしないため、通常の方法で船舶を差押から解放させるためのP&Iクラブの保証状(LOU)を取得できないと述べました。さらに、船主は、船主の唯一の資産は船舶であり銀行の抵当権を設定しているため、保証状や債務保証の形での担保は提供することはできないと述べました。船主は、銀行が差押によって船主の置かれた立場を認識しており、船主にローン返済のため本船の売却に同意するよう、商業的プレッシャーを与えていると考えました。

船主は、拘留が最終的に不当であると判明した場合、拘留している抵当銀行は、資産凍結命令で通常行われている形で、船主が被っている損害に対する反対保証(cross-undertaking in damages)を提供しない限り、船舶を差押から解放する命令を求めました。

判決

Teare判事は、海事裁判所が船舶の解放や、差押を継続する場合にその条件を付すことを明じる裁量権を有していることを認め、その上で、この裁量の一部として、裁判所が船主が求める命令を下すことは原則として自由であるとしました。しかし同判事は、そのような裁量は「原則に従い行使されなければならない」と考えました。上記裁判所は、裁量権を行使して船舶を解放することは、以下の事を意味すると主張しました。

a) 権利としての差押の権限に逆行する
b) そのような損害賠償の反対保証(cross-undertaking)は不要であるという海事裁判所の長年の慣行と矛盾する、 そして
c) The Bazias 3 and 4 [1993] 1 Lloyd’s Rep 101における控訴裁判所の判例、並びにWillers v Joyce事件[2016] 1 WLR 477におけるLord Clarkeの判断に反する。

Teare 判事は、船主の申立を却下し、銀行が損害賠償のための反対保証を提供できないのであれば、船舶は解放されるべきであるという主張について、裁判所が同意することはできないと強調しました。同判事は、申立てられた命令を許可する権限は第一審裁判官に付与されておらず、そして現在の慣行に対するいかなる変更も、適切な協議の後に「立法府または規則委員会のいずれかが検討するべき問題」であると結論付けました。裁判所はまた、船主が船舶以外の他の担保を提供できないことについて主張することを望むのであれば、その貧困さ(poverty)を証明する義務があるのは、差押債権者ではなく、船主であり、本件では、その義務を果たさなかった、と明示しました。 さらに重要なことは、船主自身の資産だけでなく、船主内部の広範なシッピング・グループの資産が考察の対象となりうることが示唆されました。

本判決において、Teare判事は、対物管轄を認める国内法の根拠である1952年アレスト条約が審議中であったとき、英国代表団は差押をなす裁判所は担保命令の権限が付与されるという提案に反対し、その提案は却下されたことを付記しました。1999年アレスト条約にはその規定が含まれていますが、英国はその条約を批准していません。

船主は海事裁判所の許可を得て、上訴裁判所に上訴しました。

コメント

この判決は、20年以上に渡る、差押裁判管轄権に対する損害賠償の反対保証(cross-undertakings) の申立てについて、初めて、直接的な考察を示しましたものです。海事裁判所は、英国法の問題として、差押申立人が損害賠償の反対保証を要求されることなく船舶を差押することができすという、既存の法原則を再確認し、、それは、船舶の差押および抵当権の執行の管轄として英国の魅力を維持するものです。

この判断は、船主やその株主が真に彼らの貧困さを証明することを裁判書に満足させることができるような、まれなケースにおいては、銀行が適切な反対担保を提供するよう裁判所が命令する可能性を潜在的に残しています。しかし、裁判所は、この点に関するいかなる主張も、船主だけでなく、それが一員である広範なシッピング・グループの財務状況に関する明確な証拠によって裏付けられる必要があることを明らかにしました。

船主の代理人である弁護士は、損害賠償の反対保証を必要としない現在の英国の裁判所の慣行は、資産凍結命令および差止命令を含む暫定的差止命令に関する裁判所の慣行と比較した場合、支持できない、と強く主張しました。また、さらに、船主の立場にある当事者が損害賠償の反対保証という保護を与えられるべきであり、差押命令を取得した当事者が損害賠償の反対保証を提供すべきである、と主張しました。

現在のイギリス法の立場は不当であり、Teare 判事の決定は法律を正すための機会を失った、という見解については、多くの支持がなされています。 上記のとおり、控訴許可は船主に与えられ、控訴は11月に審理されます。 控訴裁判所の決定は、関心を持って待たれています。

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

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PI Club

Date2018/12/11