QCR Spring 2019-1: フランス法における「Pay to be paid rule」-ドイツ海事仲裁機関の管轄を指定する仲裁約款を持つ責任保険契約

Cour de Cassation, Civil Chamber 1, 19 December 2018, 17-28951,  Decision Number: 11801235 - FRANCE

事実の要約

Voies Navigables de France社(「VNF」社)が運営するダムに、バージが衝突しました。

VNF社は、自己の請求権を担保するために、バージを差押え、Nancy商事裁判所に対して、バージの船主だけではなく、その船主の民事責任を付保する保険者に対しても、訴訟手続を提起しました。

Nancy控訴院は、バージの船主とその民事責任の保険者との間の保険契約において、全ての紛争をハンブルグの仲裁に付託するという仲裁約款が含まれていることを根拠に、裁判所の管轄を拒否しました。

VNF社は、その後、破棄院(「Cour de Cassation」)(訳者注:フランスにおける最高裁判所)に対し、自らは保険契約にとって第三者であるから、その契約に含まれている仲裁約款は、自らに適用されないことを根拠に、上訴しました。

判決

2018年12月19日付判決において、破棄院は、仲裁約款が保険契約に含まれているので、「仲裁機関の管轄は仲裁機関が決定する」(Competencez-Competencez)との原則に従い、同約款が無効、又は、適用不可能でない限り、仲裁人がその管轄権について判断するべきである、と判示しました。

破棄院は、仲裁約款は適用可能であり、それは訴権に付随するものであるから、第三者に対しても適用される、と判示しました。破棄院は、さらに、Nancy控訴院は、Nancy商事裁判所は管轄権を有しないと適切に判断したので、その決定に対する上訴を棄却しました。

コメント

その控訴を理由づけるものとして、VNF社は、自らは保険契約上、第三者であり、その契約を承認していないから、その契約に含まれている仲裁約款は自らに適用されず、従って、商事裁判所が管轄権を有しなければならない、と主張しました。

上記の判決において、破棄院は、仲裁約款は訴権に付随するものであるから、機械的に(mechanically)、第三者にも適用され、同約款は適用されないと主張できない、として、上記のVNF社の主張を退けました。

しかしながら、仲裁約款ではなく、管轄約款が保険契約に含まれている場合には、適用される法体系が異なります。

現に、フランス裁判所は、保険契約に含まれている裁判管轄約款は、被害者に対しては、その者は保険契約上の第三者であり、その約款を明示的に承認していないから、適用されない、と判示しています。

2018年12月19日付の破棄院の決定は、PIクラブに対して、フランス裁判所に提起された直接請求に関して、とても重要です。

フランス裁判所の多くの判決は、直接請求に適用される法は、保険契約上の法であるから、「Paid to be paid」ルールも適用されなければならず、従って、PIクラブに対して直接請求が提起された場合には、管轄権を否定する、と判示しています。

しかしながら、いくつかのフランス裁判所は、保険契約中の条項が、直接請求による保険者に対する被害者の権利を制限する効果を有する場合には、第三者としての被害者に対しては適用されない、とも判示しています。

2018年12月19日付の上記破棄院の判決によれば、「Paid to be pay」ルールが第三者に対して適用されるか否かは、もはや、争点ではありません。

現に、多くのクラブ・ルールが、ロンドンでの仲裁を指示する仲裁約款を含んでいますから、PIクラブに対して直接請求が提起された場合、フランスの裁判所は、上記の2018年12月19日破棄院判決を根拠として、「仲裁機関の管轄は仲裁機関が決定する」との原則を適用し、英国の仲裁人に利するよう、自己の管轄権を拒否するでしょう。

従いまして、クラブ・ルールに仲裁約款が含まれていれば、PIクラブへの直接請求訴訟は、もはや、フランスでは不可能です。

上記の要約は、Maitre Henri de RICHEMONT氏により、提供されました。

[1] not opposable  =  cannot be imposed against

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

Staff Author

PI Club

Date2019/05/21