QCR Spring 2020-2: サイバー詐欺-潜在的な問題点

事実

Aは、Kに対し、ヒマワリ粕を売却しました。支払い条件は、次のように規定されていました。「請求書の原本のコピーないしスキャンされたものが(買主)に示された後2銀行営業日以内に、売主の銀行に対して、100%のネットの現金を支払う。」

本件契約には、また、GAFTA書式119の文言が摂取され、その第18条には、「通知。本契約に基づき当事者に対して送付されるべき全ての通知は、読みやすい書式にて、直ちに送付されなければならない。…ブローカー又は代理人に対する通知は、本契約に基づく通知とみなされる。」と規定されていました。

Aは、貨物を船積みした後、中間のブローカーに対し、シティバンクのニューヨーク支店への支払いを指示する請求書を添付したイーメールを送付しました。しかしながら、ハッカーによるイーメール・アドレスのアカウントのハッキングにより、Kがブローカーから受領したイーメールは、シティバンクのロンドン支店の異なる口座への支払いを指示する虚偽の請求書が添付されたものでした。

Kは、虚偽の口座へ支払いを行いました。ハッキング行為は、その後、発見され、また、資金はAの口座に移転されましたが、為替レートの変動により、不足額が生じてしまいました。Aは、Kに対して、その不足額を回収しようと、仲裁手続を提起した。GAFTA不服委員会は、Aを勝訴させました。Kは、その裁定に対し、異議を申立てました。

判決

当事者の申立に資するため、GAFTA119の第18条に依拠することを再考することを委員会に許容したことを除き、英国の裁判所は、Kの申立を棄却しました。

裁判所は、Kの義務は代金を売主の銀行に支払うことのみであり、この義務は口座の詳細に関わらず、シティバンクに対する支払いにより満たされる、とするKの主張を、以下の理由に基づき、否定しました。

(1) 契約上の支払義務は、書面の提示から2日以内に、Aの銀行に対し、代金を「ネットの現金」により、支払うことである。現金による支払義務は、現代の銀行実務においては、商業上認められた資金の移転方法を、それが現金に相当する限り、すなわち、支払を受ける者が資金を直ちに利用する無条件の、又は、無制限の権利を与えるものである限り、承認するものである。

(2) 支払条項における「売主の銀行」との文言は、銀行への支払が、なすべきことの全てであること、及び、本件契約において資金を無条件に利用できるのは、Aではなく、銀行であること、を各々、意味するものではない。受取人、支店により指定された口座、及び、口座名や番号を特定することなく、銀行に対して資金を送金することは、商業上、不可能である。

(3) 支払われるべき口座の情報が正確に示されたかどうかに関わらず、資金へ無制限にアクセスする必要があるのは、銀行のみである、とするKの主張は、仮に、全く関係のない第三者の口座情報が示されたとしても、同じ銀行に口座が保有されていたことのみを根拠として、支払義務は満たされた、という結論を導くことになるものと思われる。これは、商業上、ばかげたものである。

コメント

本件は、流行し続けているサイバー詐欺が、メンバー各氏に影響を与えるものであることを再認識させるものです。従って、メンバー各氏におかれましては、サイバー詐欺から生じるリスクを最小限にするために、以下の手段をご検討されることもありうると考えられます。

1.通常ではない、又は、潜在的に詐欺的な取引を発見するため、銀行発行の明細を定期的にチェックすること。
2.可能な場合、契約において口座の詳細を特定すること。
3.透明性のある、また、確実な対話の方法を通じて、直接、組織との金融上の取り決めの変更を実証すること。
4.資金の支払を求める、異例な要求が真実かどうか、元来の送金者と個別に話すことにより、確認すること。
5.虚偽の口座に支払いがなされた場合、銀行に対して、考えられる詐欺について、直ちに通知すること。
6.支払いに係る詐欺についてのリスクを契約上、分配することが可能かどうか、また、望ましいかどうか、を検討すること。

UKPIクラブは、サイバー詐欺について、多くの関係誌を発行しており、本サイトにおいてご覧いただけます。サイバー被害一般については、本出版物を本サイトにてご覧いただけます。

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

Staff Author

PI Club

Date2020/04/09