QCR Spring 2020-1: 海賊の行為は、いつ、保険対象たる危険となるか?本船への攻撃はあったか?悪意をもって行為した者はいたか?野蛮な行為(vandalism)はあったか?本船の「破壊行為(sabotage)」はあったか?

事実

アデンから約10マイルの高度危険地域(High Risk Area)をドリフティング中、「BRILLANTE VIRTUOSO」号は、7人の銃器を持ちマスクをした者の乗る小さいボートに接近されました。船主は、本船は、ソマリアの海賊に攻撃されたものである、と主張しました。しかしながら、後に、船員は、本船を破壊する陰謀を了知し、海賊と主張する者が本船に火をつけることを補助したことが分かりました。本船は、推定全損を宣言し、不正直な船主は、戦争保険証券に基づく請求を行いました。

戦争保険者に対する請求は、船主とその抵当権者たる銀行の名前で行われました。船主の請求は、開示命令に対し、何度も、不誠実な理由で拒否したことから、却下されました。しかしながら、銀行は、自己の名義にて、保険金譲受人、損害被支払者、及び、共同被保険者として、請求を維持しました。

船主の故意の悪行を前提として、戦争保険者は、保険金譲受人、及び、損害被支払者としての銀行の請求に対しては、有効な抗弁を有しています。しかしながら、銀行は、船主が本船を自沈させたとしても、銀行は、a)船主の故意の悪行は、1906年海事保険法第55条第2項(a)に基づき、抗弁を生じさせないこと(Samuel対Dumas事件([1924] AC 431))、及び、b)自沈は、付保されるべき危険であることを根拠として、共同被保険者として、自己が適切な請求権を有することを主張しました。

銀行は、協会戦争ストライキ条項(Institute War and Strikes Clauses Hull-Time (1.10.83))における次の付保危険に依拠しました。1)海賊、2)悪意を持って(maliciously)行為した者、3)野蛮な行為、4)妨害行為(sabotage)、5)拿捕、又は、拘束、6)差押え、又は、抑留。

判決

本件は、商事裁判所のQueen’s BenchにおけるTeare裁判官により、審理されました。裁判所は、銀行は、共同被保険者として、請求を行うことができる、と認めました。船主の故意の悪行は、その請求に対しては有効な抗弁を生じさせませんでした。しかしながら、6つの危険を全て、検討した後、裁判所は、損害は、付保された危険以外の理由により生じたものであるから、銀行の請求は認められない、と結論付けました。

海賊として危険が構成されるためには、次の事情が存在することが必要です。
1)攻撃、又は、力の行使、若しくは、威嚇(「Andreas Lemos」号事件([1982] 2 Lloyd’s Rep. 483))
2)海賊としての目的の存在(強奪、又は、身代金の要素が必要である。)
3)一般的な、また、商業的な意味において、海賊と考えられるような行為の存在(Republic of Bolivia対Indemnity Mutual Marine Assurance Co.事件([1909] 1KB 785))

海賊との関係においては、裁判所は、本船に対する攻撃はなく、逆に、船主が本船を自沈させようという意図を助けるために、船長は、武装した者を船上に上げるための、海上での待ち合わせがなされた、と結論付けました。海賊としての目的はありませんでした。武装した者は、本船や船員を盗んだり、人質に取ったりするために乗船したのではなく、船主が、戦争保険者に対する詐欺を働くことを助けるためでした。一般の商業人(businessman)であれば、船主は海賊であるとは言わないでしょうし、保険者を騙そうとする船主である、と認めるでしょう。

B Atlantic号事件([2018])の最高裁判決によれば、裁判所が、武装した者が「悪意を持って行為する者」と結論付けるためには、その行為において「悪意(spite)、憎悪(ill will)、又は、同等のもの」が認められなければなりません。裁判官は、本船は、武装した者が本船や船主を害しようとしたために失われたのではなく、その行為によりお金を得ようとしたために、喪失したものである、と認定しました。経済的な利益を得る目的で、本船や貨物を自沈させる行為は、「悪意を持って行為する者」には該当しません。その危険は、財産に対する意図的な損害だけではなく、更なる何かが必要です。

裁判所は、また、本件は、野蛮な行為と考えられるとする船主の主張も棄却しました。「野蛮な行為」は、理由のない、又は、意味のない、財産に対する損害を示唆します。それは、保険者を騙すことなどの、一定の目的が損害の原因であることを要しません。

裁判所は、さらに、「妨害行為」は、財産をその意図された目的のために利用することを不可能にすることであり、また、本件での船主の目的は、本船を推定全損として、戦争危険保険からお金を得ようとすることであり、武装した者は、船主の意図する本船の利用方法を実行したものであるから、これを妨害するものではない、と判断しました。

コメント

本判決は、海賊の危険のために存在するべき要素、すなわち、協会戦争ストライキ条項において存在すべき悪意を持って行為した者、野蛮な行為、妨害行為、拿捕、又は、拘束、差押え、又は、抑留について、便益なガイドラインを提供してくれました。裁判所は、船主の請求が詐欺的であると認定しましたので、その結論は驚くべきことではありません。

弊クラブは、この機会においては、メンバーの皆さま方に、詐欺的な請求が船主により、又は、それを代理して、また、そのグループ関連会社により、提起された場合には、クラブ・ルール第5L条に基づき、船主その他すべての被保険者との関係において、保険契約を解除する権利を有することを申し述べさせていただきます。

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

Staff Author

PI Club

Date2020/04/09