QCR Summer 2019-4: 保険-公正な表明-開示請求の放棄-2015年保険法

事実

Young氏は、同氏とその会社、Kaim Park Investments Ltd社(「Kaim社」)が所有する商業施設に対する広範な火災による損害について、保険証券に基づき、720万ポンドの請求を提起しました。Young氏とKaim社は、保険証券中、共同の被保険者とされていました。

保険者は、被保険者が重要な情報を開示しなかったので、2015年保険法に基づく公正な表明の義務に違反したことを根拠として、請求を拒否しました。開示義務の不履行は、保険の申込書に記載されなかった情報に関するものです。

保険の申し込みは、ブローカーを通じて、そのオン・ラインの申込書を用いて、行われました。真実の記載に対してボックスの中にチェックを入れる、ドロップ・ダウン・メニュー の方式の書式の中に、モラル・ハザードに関する宣言がおかれていました。その記載の中には、「申込者、又は、当該契約の被保険者の役員、若しくは、パートナーは、今まで、破産、又は、倒産したことがなく、また、そのような手続に服したことがない。」というものがあり、そのボックスには、チェックが付されていませんでした。表明が保険者に送付された際には、ドロップ・ダウン・メニューの中の全ての記載について、「なし」との文言が示されていて、「なし」との文言がどの記載に関連するのかが明確ではありませんでした。

ブローカーの書式に示された情報に依拠して、保険者は、イーメールで、条件のリストと共に、見積もりを送付しました。その条件の一つには、「被保険者は破産、又は、倒産を宣言されたことがない。」ことが含まれていました。

Young氏とKaim社が破産を宣言されたことがないことは事実でしたが、Young氏は、かつて倒産したことのある他の4つの会社の役員でした。被保険者は、保険者のイーメールによれば、その4つの倒産したことのある会社について、保険者は、開示されなかった情報を受ける権利を放棄したものである、と主張しました。

判決

スコットランドの裁判所は、被保険者の主張を退け、保険者は、情報開示を得る権利を放棄していない、と判示しました。

裁判所は、さらに、権利の放棄は、典型的には、次の2つの内のいずれかの場合に認められる、と判示しました。
1.被保険者が、合理的な注意深い保険者であれば直ちに調査を行うであろう内容の情報を提出しながらも、保険者がそうしなかった場合、又は、

2.被保険者が、保険者は質問の範囲外の情報を知ることに関心を有していないものと合理的に推論できるような「限定的な質問(limiting question)」を保険者が求めた場合。

本件の事実関係によれば、2番目の場合が重要となります。

裁判所は、2015年保険法の者においてもルールには変更がない、と判示しました。第3条第5項(e)に基づく権利放棄の判断のテストは、前の法律の下でのそれと完全に同一であるとし、情報開示の義務を限定するような明示的な質問がなされたかどうかである、とされました。しかしながら、ブローカーのオンラインでの申込書書式は、保険者の申込書の代わりに用いられました。保険者は、ドロップ・ダウン・メニューにおけるオプションを知らず、従って、「なし」との文言がどの質問と関連しているのかが明確ではありませんでした。従って、権利の放棄はなかったもの、とされました。

保険者のイーメールは、単に、宣言の内容を求めようとしたものにすぎず、情報の開示を放棄しようとしたものではありませんでした。従って、この点においても、権利の放棄はなかったもの、とされました。

コメント

本判決は、我々の知る限りでは、2015年保険法に関する初めての判決です。同法は、商業的保険について、新たな、公正な表示義務を導入しました。

本判決においては、保険者は、ブローカーのオンラインでの申込書書式における質問に対してコントロールが及ばなかったことが重要です。商業的な保険の市場においては、ブローカーの書式が多用されていることを考えると、2015年保険法において、被保険者が上記第2の場合の権利放棄に基づく主張を行うことは、より困難なものとなったことが示唆されています。

保険者が、保険契約を締結しなかったであろうことを証明できれば、契約自体が否定されます。しかしながら、保険者は、保険契約を締結したであろうが、異なる条項や保険料に基づき締結したであろう場合には、そのような異なる条項や保険料が適用されるでしょう。

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

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Date2019/07/26