QCR Winter 2019-3: パッケージ・ツアー‐過失‐人的損害‐時折発生する事故

事実

原告は、第2被告である旅行代理店を通じて、第1被告に対し、クルーズ旅行を予約しました。クルーズ旅行に発つ前に、原告は、第1被告を通じて、St Maartenでのジェット・ボート・ツアー(「White Knuckle Jet Boat Thrill Ride」)を予約しました。そのツアーを予約する前に、原告は、その会社のウエッブ・サイトで、動いているボートの写真や、ツアーの内容を示すビデオを見ていました。

ジェット・ボート・ツアーの当日、安全確認のための説明が行われ、参加者にはライフ・ジャケットが渡されました。ツアーの最中、操縦者は、右舷側に360度の回転を行うことを話しました。安全確保のための説明で示されたとおり、原告は、足のボートの床に置き、その前の棒をきつく持つようにしていました。しかしながら、原告は、椅子から持ち上げられ、強く、その椅子に戻されてしまいました。椅子に戻された際、原告は、その右肘をボートの右舷のレールに打ち付け、右ひじの外側上顆に、治癒不能の破損と、小規模の断裂を被りました。

原告は、1955年パッケージ・ツアー法(Package Holidays and Travel Trade Act 1995、「1995年法」)第20条に基づき、訴訟を提起しました。原告は、ツアーに用いられたボートは、ツアーの一部として行われる過激な操作との関連において、安全でない、危険な状態であった、と主張しました。原告は、ボートには、固定されたハーネスかシート・ベルト、または、両舷のレールにそって、そこに固定された棒が設置されすべきであり、さらに、原告はボートの別の場所に座るべきであった、と主張しました。

被告は、自己は1995年法に定義されたパッケージ・ツアーの「主催者(organiser)」であることを認めつつ、次のとおり、主張しました。

1) 原告は、自発的にツアーに行くことを選択し、そこには、速度をもって、過激な操船が行われることを知っていたから、そのようなツアーの中で損傷を負ったとしてもその不服を言うことはできない。

2) 被告は、以下の1995年法第20条第2項の規定に基づき、主催者に課せられる責任の免除を受けることができる。「(a)契約の履行の際に発生した失策が消費者の責めに帰すべき場合」「(c)そのような失策が(i)不可抗力、すなわち、主催者、小売人その他の業務の提供者のコントロールが及ばず、その結果を注意義務を尽くしても避けられないような、異常な、かつ、予見不可能な状況、又は、(ii)主催者、小売人その他の業務の提供者が注意義務を尽くしても予見できないような事象による場合」

3)原告は、ツアーの遂行者側に過失、又は、注意義務違反があったことの証明責任を尽くしていない。

判決

裁判所は、次の原則が適用される、と判示しました。

1. 1995年法は、主催者に対して、それが委託した業務の提供者の過失、又は、注意義務違反について、使用者責任(vicarious liability)を課している。

2. 1995年法が課す責任は、絶対責任(strict liability)ではない。一般に、業務の提供者が全ての当該地域の規則や基準に従っていたことが立証された場合には、そのような基準が潜在的に欠陥のあること、又は、統一的に適用される国際的なルールに適合していないことが示されない限り、業務の提供者や主催者は責任を負わない。消費者が、一級の業務や先進国で見られるような基準にあった業務を受けることは、それを定める規定が主催者との契約中に存在すれば、可能である。そのような場合は、消費者、そのような契約の違反を主張することができるであろう。

3. 業務の提供者が、当該地域の規則や基準、又は、国際的に認められている規則に従った業務を提供していなかったことを証明する責任は、原告にある。

裁判所は、被告の最初の2つの主張を否定しました。裁判所は、リスクのあるツアーに参加することに署名しただけでは、また、そのようなツアーの中で生じうることが合理的に予想される傷害に同意したと認められるとしても、その者が、ツアーの遂行者やそれに関与した者が過失ある態様で行為することにまで同意したということはできない。と判示しました。

にもかかわらず、裁判所は、原告は、ツアーの遂行者がSt. Maartenにおいて適用される基準を順守していなかったことを立証していない、と判示しました。そのような基準がどのようなものかという証拠はありませんでした。また、アイルランドにおいて同様の業務を提供する者に適用される国際的な、又は、アイルランドの基準についての証拠もありませんでした。

裁判所は、当該ボートは、堪航性を有しており、また、ツアーにおいて行われるものとされた活動について安全な性質を有していた、と判示しました。裁判所は、原告が示唆するようなハーネスやシート・ベルトで乗客が椅子に固定されると、ボートが転覆した場合には悲惨なことになる、と判示しました。360度回転の際に乗客が持ち上げられてしまうリスクは、転覆のリスクよりも高いかもしれないものの、12名の乗客が椅子に固定されたまま転覆する事態は、悲惨であり、その使用を主張することはできない、とされました。裁判所は、また、レールに沿った棒を設置することも、船から脱出する際の重大な障害となりうる、と判示しました。レールに固定することも、また、それにより得られる利益を超える費用が必要となるとして、裁判所により否定されました。そのような手段を強制する規則は法廷に提出されず、また、世界的にみて、同様の操船を行うボートにそのような手段が講じられているという証拠もまた、認められませんでした。上記の状況により、裁判所は、原告が主張した安全策を提供しなかったボート所有者について、過失を認めることを控えました。

裁判所は、ツアー遂行者の側の過失の証拠を認めませんでした。従って、1995年法に基づき、被告らは、責任がない、と判示されました。裁判所は、本件においては、原告は、アドレナリンが高まるようなボート・ツアーを申し込んだものである、と判示しました。原告は、説明されたとおりに、自己を椅子に留めることができなかったことから、傷害を負ったものである、とされました。本件は、過激な活動の中で発生した傷害である、とされました。原告の請求は棄却されました。

コメント

本件は、原告が、業務の提供者、及び、主催者に対して、当該地域の、又は、国際的な規則よりも高度な基準を適用することを求めた事例です。本判決は、業務の提供者が全ての当該地域の規則や基準に従っていたことが立証された場合には、そのような基準が潜在的に欠陥のあること、又は、統一的に適用される国際的なルールに適合していないことが示されない限り、又は、契約中に、より高度な基準が適用される旨の明文規定がない限り、業務の提供者や主催者は責任を負わない、という点を再認識させてくれるものです。最後の、契約中に明文規定があった場合には、消費者は、契約違反に基づく訴訟が認められたでしょう。

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

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Date2020/01/30