事故の教訓: アンカーの喪失

Bulk carrier in port - cropped

船種: バルクキャリアー

事故の概要:

本船は、海図水深約90メートルの錨地で補油するよう指示された。錨地に近づくと、船長は当直航海士を従え、ブリッジで操船指揮をとり、チーフオフィサーは甲板部乗組員とともに、船首配置についた。天候は軽風とわずかな潮流という好条件であった。投錨準備のために、船長は、チーフオフィサーに対し、錨鎖の2節分(55メートル)が水中に入るまで、左舷アンカーを繰り出させ、次の指示あるまでウインドラスブレーキを効かせておくよう指示した。本船が指定された位置にあると船長が判断したとき、船長はチーフオフィサーに、投錨し8節が水中に入るようにし、その後ウインドラスブレーキで固定するよう命じた。 2分後、チーフオフィサーは、錨鎖の走出をウインドラスブレーキで制御することができないとブリッジへあわてて通報し、その直後に、全錨鎖が失われたと報告した。

分析:

こういった深海では、アンカーはこのようにウインドラスブレーキから投錨すべきではなく、必要な長さの錨鎖が繰り出されるまで、一貫してギアを入れた状態とし、ウインドラスモーターの制御下で送り出すべきであった。 この操作の間、船長はまた、海底に対する船首の動きが最小限に保たれるよう気をつけなければならない。 今回のケースでは、他の損傷としては錨鎖の末端(bitter end)およびウインドラスブレーキの付属部分に限定されており、本船は幸運であったといえるが、制御不能となった錨鎖の暴走は周辺の乗組員に大きな危険をもたらすことがある。 さらに、現地当局が船主に紛失したアンカーや錨鎖を回収するよう指示することも度々あり、多くの困難と多額の費用を伴うことがある。 これは、誤った操作方法や機器の欠陥に起因するアンカーおよび錨鎖の紛失に関連する多数の船舶事故の1つにすぎない。

事故の教訓

  • 船舶の錨泊は、現在の気象と予報、潮流、水深、他の船舶の近接状況、航行上の危険性及び投揚錨装置の能力を考慮して、極めて慎重に計画する必要がある。
  • 深海においては、アンカーはフリーフォールではなく、ウインドラスモーターの制御下で投錨すべきである。
  • 投錨作業計画は、アンカーチームを含め、入港前のブリーフィングで議論されるべきである。
  • 優れた訓練やクルー・リソース・マネジメントがなされていれば、当直航海士やチーフオフィサーは船長の意思決定に対して疑問を抱き、恐らく代わりの行動を考慮することが可能になったと思われる。

Captain David Nichol

Senior Loss Prevention Executive (Greece)

Date2018/02/28