QCR Autumn 2018-7: 離路(deviation)があった場合は、ヘーグ・ルール上の出訴制限(time bar)は適用されない。

DERA COMMERCIAL ESTATE V DERYA INC [2018] EWHC 1673 (Comm)

事実

本件は、カーゴ・クレームの詳細の特定が「過度に(inorfinate)、言い訳できないほど(inexcusable)」遅延したことを根拠として、船主がクレームの却下に成功した仲裁判断に対し上訴されたものです。トウモロコシ(maize)の貨物がSur号に積載されて運送されました。ヘーグ・ルール第3条第6項の1年間の出訴制限の規定が、Congen書式の船荷証券と、修正されたBIMCO書式による傭船契約中に摂取されました。船荷証券は、英国法と英国の管轄に服することとされました。貨物は、ヨルダンの荷揚港に到着しましたが、損傷し、外観上、菌が認められました。そこで、税関当局により、拒否されました。

荷主は、ヨルダンにて、船主に対して、裁判手続を開始しました。船主のPIクラブは、クラブの書式のLOU(保証状)により、9百万ドルの担保を提供しました。しかしながら、本船は出港を許可されませんでした。3週間待機した後、本船は、荷主やヨルダン当局の許可なしに、ヨルダンを出港し、トルコに航行し、そこで、2012年4月、貨物は、裁判所による売買手続により、売却されました。

2011年10月、船主は、1年間の制限内に、ロンドンでの仲裁を開始し、ヨルダンでの手続に関し、(同意により)手続停止命令(anti-suit injunction)を得ました。その後、仲裁手続は、休止状態にありましたが、2015年3月、船主により、請求の詳細が提示され、カーゴ・クレームについて責任がないことの確認、及び、そのPIクラブにより提供されたLOUの返還が求められました。2015年6月、荷主は、その請求の詳細を提示しました。2016年、船主は、荷主の請求を、申立てがないことを根拠として、却下を申し立て、それは、前提問題として判断されるべきである、と主張しました。

仲裁廷は、荷主側には、過度の、言い訳のできない程度の遅延があったこと、及び、そのような遅延により、船主は、カーゴ・クレームを公正に解決する機会を害されたこと、を認定しました。従って、仲裁廷は、1966年仲裁法第41条第3項に基づき、カーゴ・クレームを却下しました。

荷主は、上記の判断に対して、上訴しました。

判決

上訴を受けて、裁判官は、以下のとおり、判示しました。

  1. 1980年制限法(Limitation Act)第5条に基づき、契約上の請求権に適用されうる6年の出訴制限内に詳細が明確化された請求権であっても、本件のように、ヘーグ・ルール第3条第6項に基づく1年という、より短い出訴制限が契約された場合には、1966年仲裁法第41条第3項に基づき、「過度の遅延」があったことを根拠に、却下されることがありうる。
  2. ヘーグ・ルールの適用がある船荷証券により証明される契約においては、地理的な離路があった場合には、相手方当事者が契約を解除することを選択した場合、運送人は、第3条第6項に基づく1年の出訴制限に依拠することはできない。不本意ながらも、海上運送人が許可なく契約上のルートから離路した場合、荷主は、いかなる契約上の条項に拘束されないとした、Hain Steamship Co v Tate & Lyle Ltd事件((1936) 55 Ll L Rep 159)の貴族院判決に拘束される。離路に関するケースは、独自の実体法のルールにより、処理されなければならない。従って、本裁判所は、地理的な離路があった場合には、相手方当事者が契約の解除を選択した場合、運送人は、第3条第6項が創設した1年の出訴制限に依拠することはできない。
  3. 第3条第6項が創設した1年の出訴制限が適用される場合には、請求の原因が発生した時点と、契約上の出訴制限の期間が徒過した時点との間の期間は、第41条第3項に規定する、遅延が「過度なもの」かどうかを評価する際に、考慮されるべきものである。本裁判所は、何度も1年の出訴制限が延長されることは、カーゴ・クレームの処理において、よくある事象である。当事者が、(延長を認めて)長期間のタイム・テーブルに同意した場合には、彼らの判断によるべき事柄である。しかしながら、そのような延長や、遅延への同意がない場合には、1年の出訴制限のルールが、遅延を評価する際に客観的に関連しないという理由はない。一度、出訴制限の期間が徒過した場合には、仲裁廷は、仲裁が開始されてからの、言い訳のできない程度の遅延の期間を考慮に入れることができる。このような期間には、初期の段階においては、過度とは言えなかったような、出訴制限の期間が徒過される前の遅延の期間も含まれる。 本裁判所は、荷主は、初期の段階から、そのカーゴ・クレームの存在に気づいていたものと認める。これは、荷主は、2011年9月12日に、アクバの第1審裁判所において、船主に対し、ヨルダンの農業省が拒否した後に、貨物の全価額について、訴訟を提起している事実から、認めることができる。仲裁廷は、荷主は、早くも2011年9月には、カーゴ・クレームを請求し、その詳細を特定することができた、とする見解を有していた。 1年の出訴制限の期間が徒過したであろう2012年11月から、荷主がようやくその請求を詳細化した2015年6月との間には、2.5年が経過している。遅延について、有効な理由は示されていないから、裁判官は、当該遅延は、第41条第3項にいう過度なものであると結論づける。
  4. 適切な決定のため、遅延が第41条第3項にいう「言い訳の立たない程度」のものかどうかという仲裁廷の評価について適用されるべき立証の責任、又は、その基準については、法的な(又は、合理的な)責任は、常に、問題とされる過度な遅延が言い訳の立たない程度のものであることを、蓋然性のバランスの下で、それを適用しようとする当事者の側に課せられる。各々の事件は、固有の事実関係によるものの、また、立証責任の移転という言葉で表現することは、一般的に有益ではないものの、通常、遅延についての有効な根拠を特定することは、被申立人側がなすべきことであろう。1996年仲裁法第41条第3項によれば、仲裁廷は、「原告側にその請求を行うことについて過度の、言い訳の立たない程度の遅延があったものと認めた場合」には、請求を棄却することができる。

コメント

本件は、Hain Steamship Co v Tate & Lyle Ltd事件判決が依然、拘束力あるものであること、すなわち、船舶が、意図された航海から地理的に離路した場合、船主は、ヘーグ・ルール第3条第6項に基づく1年の出訴制限に依拠することはできないことを、船主に対して再認識させるものです。

また、本件は、仲裁の通知を送達することにより仲裁を開始した当事者が、一度、請求に関する情報が集まった場合に、早急に、その請求の詳細を明確化しない場合には、時間の経過による保護を受けられないことにも、注意を向けるケースです。本件裁判所が上記の問題点について6年の出訴制限が適用されることを認めながらも、仮に請求権がヘーグ・ルール第3条第6項の適用を受けるとした場合に1年の出訴制限の期間が経過したであろう時点である2012年11月と、荷主が最終的にその請求の詳細を明確化した時点である2015年6月との間に2.5年が経過した場合、過度の遅延を理由として、カーゴ・クレームが却下されうることは、驚きを受ける方もいらっしゃるでしょう。 

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

Staff Author

PI Club

Date2018/12/12