QCR Autumn 2018 - 4:船荷証券の原本なしに貨物を荷揚するために発行されたLOI(補償状) - LOIに規定された義務と権利は、航海傭船契約における制限条項に服するか。

Glencore Agriculture BV v Navig8 Chemicals Pool Inc [2018] EWCA Civ 1901 on August 21st, 2018

事実

Songa Winds号は、Songa Chemical AS社が所有する石油とケミカルのタンカーで、2013年11月27日付のプール契約に基づき、修正されたShelltime 4書式をもって、Navig8社に対し、定期傭船に供されました。Navig8社は、修正されたVegoilvoy書式をもって、ウクライナのIlychevskからインドまで、ヒマワリ種子油を運送するため、本船をGlencore社に航海傭船(「本件航海傭船契約」)に供しました。

本件航海傭船契約の第38条では、荷揚港において船荷証券が得られない場合は、Glencoreは、そのPIクラブの標準的な文言により、補償状を発行すること、及び、そのように発行された補償状は、発行から3か月の有効期間を有することが規定されていました。

本船は、目的の1つとして、Glencore社が2016年1月後半に締結した、食用のヒマワリ種子油6,000mtをバルクにて、Ruchi Soya Industries Ltd(「Ruchi社」)の子会社ないし関連会社であるRuchi Agritrading (Pte) Ltd(「Agritrading社」)に対して売却する契約を履行するために、傭船されたものでした。この売買契約の引渡条件は、インドのNew Mangalore又はKakinadaでのポンプ・アウトのC&F、とされていました。また、貨物の所有権は、、支払いがなされるまで、Glencore社に残る、とされていました。

2016年3月13日ころ、本船は、本件航海傭船契約に基づき、Ilychevskにて船積みを行い、船荷証券が、上記日付趣旨により、Ruchi社を通知人として、発行されました。その後、同月21日、Glencore社のAgritrading社との売買契約は、6,000mtのヒマワリ種子油をAvanti Industries Pte Ltd(「Avanti社」)に対して売却する契約と取り替えられました。この新たな契約は、文言上、Avanti社がRuchi社に対して(合計)6,000mtを売却することを契約していたものと、(価格の点を除き)back-to-backの内容でした。

その後、Glencore社により、New Mangalore及びKakinadaにおける荷揚に関連して、インターナショナル・グループ書式Aの文言に基づき、LOIが発行されました。LOIは、Glencore社及びNavig8社のために、各々、署名され、英国法に準拠し、英国高等法院(1審裁判所)の管轄に服するもの、とされました。その後、上記の荷揚の結果として、Navig8社に対し、請求が提起され、これに関連して、Navig8社は、Glencore社に対して、補償を請求しました。

下級審では、裁判官は、本件補償状に基づき、Navig8社は、Glencore社から補償を受けることができる、と判断しました。裁判官は、Navig8社の請求は、LOIの発行から3か月以内に提起されていないから、本件航海傭船契約第38条に基づき、その請求は否定される、とするGlencore社の主張を退けました。LOIには、本件航海傭船契約も、また、その文言も引用されていませんでしたが、Glencore社は、第38条は、LOIに読み込まれるべきであり、その効果として、Navig8社の請求は禁じられる、と主張しました。裁判官は、本件航海傭船契約中の時間的制限(time-bar)の条項は、LOIには適用されない、と判示しました。同時に、裁判官は、第38条の最初の行は、当該3か月間に行われた引渡をカバーしていることを意味し、時間的制限と解釈されるべきではない、と判示しました。 Glencore社は、上記の判断に対して、控訴しました。

判決

控訴の許可は、以下の2つの点について、Glencore社に認められる、とされました。

1.本件航海傭船契約の第38条における3か月の「有効期間」は、それがLOI中に明示的に引用されていないにもかかわらず、LOIに摂取されたもの(又は、適用されるもの)と解するべきか。

2.第38条の効果は、(Glencore社が主張するように)発行の日から3か月が経過した後は、請求が一切できないということか、又は、(Navig8社が主張するように)補償は、発行の日の後3か月以内に荷揚が行われた場合のみに、当該補償が適用される、ということか。

控訴院は、下級審の判決を支持し、第38条がLOIの機能に影響を与えるとするGlencore社の主張をしりぞけました。補償状については、書面化された契約には、当事者間の取引の全ての条項が記載されているという、「強い推定」が認められる、と判示しました。 その1つの理由としては、適切な解釈によれば、第38条によっては、Glencore社は、有効期間は補償状に摂取されているものの、その主張をなす権利が特定した形で行使されていない場合には、有効期間は独立して機能しないことのみを主張しうる権利を有するだけである、とされました。  もう一つの理由としては、LOIは、第三者に対しても影響を与えるから、第三者が知らない、異常な文言により影響を受けるべきではない、とされました。

本件航海傭船契約とLOIは、前者に基づく紛争は、仲裁により解決されるべきものとされ、後者に基づく紛争は、高等法院で解決されるべきものとされるような、「別個の、区別された権利と義務を規定した独立した合意」である、とされました。第38条の意味と効果に関する紛争は、仲裁により、解決されるべきものです。

1つ目の争点に関する控訴院の判断の結果として、2つ目の争点は問題がなくなりました。しかしながら、控訴院は、この争点については、Glencore社に有利な判断を行いました。LOIの基本的な目的は、迅速な引渡を確保することであり、第38条で意図された効果は、Glencore社に対して、その不測の責任を算定するためのタイム・リミットを、明確に定義されたものとして、付与することである、と判示されました。

コメント

本判決は、傭船契約における時間的制限とLOIの文言との関連性について、有益な明確性を提示してくれいます。裁判所は、LOIは、重要な商業上の書面であり、明確に解釈されなければならないことを認識しています。傭船契約中の文言は、LOIにおいて実効化するためには、明確に摂取されることが必要です。従って、メンバーにおかれましては、そのような権利の利点を得ようとされる場合には、最終的に発行されるLOI中に、そのような権利が明確に摂取されることを確実にされる必要があります。ネゴにおいては、LOIは、一般に、その文言のみにおいて解釈されること意識されるべきでしょう。

さらに、拘束力あるものではありませんが、LOIに関する「有効期間」は、LOIに基づく補償請求の制限的期間として機能しうるという、控訴院のコメントにも、注意すべきでしょう。

メンバーにおかれましては、第1審が、LOIは、貨物が記名された者(Avanti社)ではない者(Ruchi社)に引渡された場合も機能するのか、という別の問題を審理した件に関するQLU Spring 2018におけるサマリーも、ご覧ください。裁判所は、事実関係によれば、Ruchi社は、貨物の引渡をAvanti社の代理として、請求していたものといえる、と結論づけました。

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

Staff Author

PI Club

Date2018/12/12