QLU Spring 2018-5 : アテネ条約の下での運送の定義を再考する

JENNINGS v TUI UK LIMITED (T/A THOMSON CRUISES) [2018] EWHC 82 (Admlty)

事実

本件の原告とその妻は、スペインのマラガ港から発着する、被告のTHOMSON DREAM号クルーズを予約しました。

クルーズの終わりに、原告は、屋根つきの歩道を経由して下船することになりました。その日は土砂降りの雨が降っていました。原告は動く歩道で進み、コンクリートの固定歩道にさしかかりました。その歩道はターミナルビルに向かうゆるやかな下り坂でした。これらの歩道は、どちらも港湾当局が提供していたものでした。原告がコンクリートの歩道を歩いていたとき、水たまりで滑って倒れ、怪我をしました。

その後、彼は1974年の旅客及びその手荷物の海上運送に関するアテネ条約の2002年議定書による修正版(「アテネ条約」)第3条1項、および/または1992年パッケージトラベル、パッケージホリデーおよびパッケージツアー規則(「パッケージ旅行規則」)の第15規則に基づき、クレームを起こしました。

原告は、その事故が運送の途中で発生したと主張しました。彼はさらに、被告の乗組員が本船から荷物をターミナルビルに移送するためにそのエリアを歩いたため、水たまりが存在していたと主張しました。彼はまた、被告の乗組員には、転倒の危険を警告する義務があったと主張しました。

判決

裁判所は、原告が歩道で転倒したこと、そして彼が転倒したところに水たまりが存在していたことを認めました。しかし、被告の乗組員のせいで水たまりが存在していたという原告の主張は認めませんでした。裁判所は、限られた人数の乗組員だけが乗客と同じ通路を使用し、手荷物は違う通路を使って船舶から降ろされたことを示した被告側ホテル部マネジャーの証言を優先しました。乗客と同じ歩道を使用した乗組員の唯一の目的は、乗客の手荷物の仕分けを助けることでした。彼らには、大雨の中、船外に出るような他の仕事はありませんでした。

被告は、本件の転倒事故は運送中には発生しなかったため、アテネ条約は適用されないと主張しました。アテネ条約第1条8項は、「運送」を定義づけ、「旅客及び/又はその手荷物が、船上にある間又は乗船・下船中の期間を指す。...但し、旅客に関しては、

運送は、港湾ターミナル又は発着所、桟橋、又はその他の港湾施設内にいる期間は含まない

。」と規定しています。

被告は、(港湾設備であり、クルーズ船に取り付けられておらず、またクルーズ船の一部でもない)固定歩道は、そのフレーズの通常の意味を用いた港湾施設であり、したがって、転倒が発生した時点では、運送期間が既に終了していたと主張しました。裁判所は、被告の主張を受け入れ、アテネ条約の範囲には一般的に、下船を含めることが意図されているが、乗客が本船を離脱し、明確に船舶の管理下にない地域に到達した場合には、適用されないと認定しました。

原告はいずれにしても、被告側の過失のために水たまりが存在していたことを証明していませんでした。また、被告が原告に対して、水たまりの存在を警告する義務を負っていた、という原告の主張を却下しました。運送期間が終了していたため、アテネ条約に基づく旅客に対する責任も終了していました。

原告ははさらに、アテネ条約が適用されないとしても、パッケージ旅行規則の下で請求が認められるべきである、と主張しました。

裁判所は、本クルーズが、クルーズそのものと、それに付随する輸送とフライトとからなるパッケージを構成しており、そのパッケージの期間中に事故が発生したと認めました。

原告は、被告が原告に対し、滑りやすいという危険について警告する義務を負うだけでなく、サプライヤーとしての港湾当局の不履行にも責任を負わなければならず、さらにこれらの義務違反を立証するためには、現地の基準についての証拠を求められる必要はないと主張しました。

警告する義務に関して、裁判所は、問題の歩道がパッケージ内で提供される設備の範囲にあたるかどうかについて疑問を呈しました。その歩道は、被告がコントロールすることができないエリアでした。さらに、裁判所は、ツアーオペレーターとしての被告が、誰にも明らかな気象条件に注意を払うように顧客に警告する必要はないと判示しました。

裁判所は、被告が責任を負わなければならないサプライヤーとしての港湾当局の過失に関するクレームについて、現地の基準に関する証拠の欠如がその請求に致命的であることを認定しました。

コメント

本件は、アテネ条約の下での運送の期間のパラメーターを明らかにするとともに、サプライヤー側の過失に関係している限り、パッケージ旅行規則のクレームにおける現地の基準に対する違反の明確な証拠の必要性をもう一度強調するものとして、有益な判決であるといえます。

「港湾設備」という言葉の定義の明確化は、船から桟橋へ移動する際の伝統的なギャングウェイ(舷梯)の使用とは対照的に、マラガ港に見られるような歩道を備えた近代的な港湾ターミナル施設の使用が増えているという状況において、非常に有用であるといえます。この判決は、Collins v Lawrence [2017] EWCA Civ 2268と「Norwegian Jade」[2017] EWCA Civ 2222と併せて読むことをお勧めします。

これらのケースについてのクラブの記事については、以下のリンクをクリックしてください:

「Legal Update: アテネ条約の下での「運送」の定義に関する主要判決」:

https://www.ukpandi.com/knowledge-publications/article/legal-update-key-ruling-on-the-definition-of-carriage-under-the-athens-convention-142326/

海事裁判所で勝訴した被告の代理人は、UKP&Iクラブの指示を受けたMiles Fanning Legal社のマーク・ファニング氏により、指導されたキングスベンチウォーク12番地の弁護士アレックス・キャリントン氏でした。

Staff Author

PI Club

Date2018/06/18