QCR Spring 2019-8: 海上貨物運送-船員非行-チーフ・エンジニアが故意に船に火を着けたーチーフ・エンジニアの精神状態の関連性-船主はヘーグ・ルール上の火災免責に依拠せきるか

GLENCORE ENERGY UK LTD v FREEPORT HOLDINGS LTD, “THE LADY M”, [2019] EWCA Civ 388 – 14th March 2019 – COURT OF APPEAL

事実

本件は、荷主たる原告により、被告たる船主に対して提起された損害賠償請求権に関するものです。本船「Lady M」号上で発生した火災により、貨物を積載しながら、本船は航行が不能となりました。船主は救助者を依頼し、共同海損を宣言しました。荷主は、救助者への支払に合意し、それらの費用を、船荷証券、及び、貨物の寄託の違反を根拠として、船主に対して請求しました。1968年ヘーグ・ヴィスビー・ルールが適用され、船主は、特に、その責任を免れるため、「運送人の故意又は過失によるものでない火災」という第4条第2項(b)と、「運送人の故意又は過失なしに、若しくは、運送人の代理人又は従業員の過失なしに、生じたその他の原因」という第2条(q)に依拠しました。火災は、チーフ・エンジニアの故意により、その精神状態が阻害されていた間に、発生したことは、争いがありません。

船主を勝訴させた第1審の判決は、本QCR2017年冬号にて紹介しております。

原告は、第1審裁判官の決定に対して、以下の理由に基づき、控訴しました。

(1) 火災を発生させたチーフ・エンジニアの行為は、船員非行を構成し、また、左の点は、当該時点におけるチーフ・エンジニアの精神状態の詳細な分析には影響されないこと。(2) 第4条第2項(b)に基づく防御は、火災が船長又は船員の非行行為により生じた場合には、主張できないこと。

判決 

控訴院は、船主は、第4条第2項(b)の火災免責に依拠することができるとした下級審裁判所の判断を指示し、次のとおり述べました。

「「火災」という文言は、単独であれ、文脈の中であれ、船員の故意により生じた火災により、運送人の第4条第2項(b)に基づく主張を否認するものとして解釈する、良好な政策的理由は認められない。」

火災免責の解釈は、固有の瑕疵(inherent vice)の解釈に関するVolcafe対CSAV事件における最高裁判決には影響されません。第4条第2項における免責事由のリストにおいては「統一的法原則」は認められないとするSumption裁判官による解釈(判決文第60項)を無視しないことが重要です。

正しい解釈は、免責事由は統一的な見出しの下に規定され、また、第3条又は第4条に規定された責任、義務、及び、免責の全体的なスキームの一部として解釈されるべきことに留意しながらも、個々の文言に従い免責事由を解釈することでしょう。

コメント

控訴院は、火災免責の適用について、明確な解釈を提供しました。その立場は、火災が故意に、船員により発生したとしても、本船が第3条第1項に違反して不堪航な状態ではなく、また、火災が運送人の故意又は過失により生じたものでない限り、運送人は、火災免責の主張をなしうる、ということです。

本件で特徴的な点は、ヘーグ・ルールの制定前に、「火災」という文言に、船員により生じた火災を除外する意味を明確に付与するような、司法的解釈は存在しないことを指摘した点です。ヘーグ・ルールの制定過程の議論(travaux préparatoires)は、左のような解釈の理由にはなりません。

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

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Date2019/05/21