QLU Summer 2018-6: 1992年英国COGSA第2条1項及び第4項について、船荷証券所持人は、先になした中間の売主からの回収を控除する必要はない、として、第2条第4項における「単なる受領に関するルール」についての解釈がなされました。

Sevylor Shipping and Trading Corporation v Altfadul Company for Foods, Fruits and Livestock and Another (The"Baltic Strait") [2018] EWHC 629 (Comm)事実

Altfadul社を船荷証券所持人、すなわち、荷受人とする船荷証券に基づき、バナナの入った249,250箱の貨物がエクアドルにて、リビヤに向けて、Baltic Strait号に船積みされました。荷揚の際、貨物は損傷があることが発見されました。Altfadul社は、最初に、売主であり、船主から本船を航海傭船したCo Ma Co SpA社(以下CoMaCo社)との間のCIF条件の売買契約に基づき、貨物を拒否しようとし、既に支払われた代金の返金を請求しました。その後、Altfadul社とCoMaCo社との間では、その後のAltfadul社に対する売却も含め、CoMaCo社が2,586,105.09米ドルを借入れている状態にあることを承認するという合意が成立したようでした。Altfadul社は、上記の貸付扱いを承認し、船荷証券上の権利をCoMaCo社に譲渡し、CoMaCo社は、これを貨物保険者であるSIAT社に譲渡しました。

その後、Altfadul社とSIAT社は、船主に対して、船荷証券に係る契約違反を根拠に、仲裁手続を申立てました。両社は、仲裁廷により、4,567,351.13米ドルを認める仲裁判断を得ました。左の数字は、荷揚された貨物の価値と、損傷なしに到着していたならば有していたであろう価値の差額に、利息を加えたものでした。4,567,351.13米ドルの金額は、2つの部分から成り立っていました。1つは、(a) Altfadul社が請求しうる損害額である1,981,246.04米ドルと、(b) CoMaCo社が上記の第2条第4項に基づく損害額としての2,586,105.09米ドルでした。

船主は、第2条第4項は、CoMaCo社の損害を回復させるために適用することはできないから、その限度で、仲裁が決定した金額は減額されるべきである、と主張しました。

Altfadul社とSIAT社は、以下の理由で、船主の主張を争いました。

  1. 「2,586,105.09米ドル」は、保険による回収額であり、「他人間の取引により、その当事者ではない者の利益を害さない」との原則によるものである、又は、
  2. Altfadul社は、1992年英国COGSA第2条第4項により、CoMaCo社の損害を請求できる。

仲裁廷は、証拠に基づいて、貸し付け扱いとされた金額は、保険金と額が類似するものの、保険による回収額ではない、と結論づけました。

他方、仲裁廷は、Altfadul社は、1992年英国COGSA第2条第4項に基づき、CoMaCo社の損失を賠償請求できるという、Altfadul社とSIAT社のもう1つの主張を承認しました。

船主は、第2条第4項は本件では効力を生じない、との主張を維持して、仲裁判断について、裁判所に上訴しました。Altfadul社とSIAT社は、以下の理由から、上訴を否定しました。

  1. 仲裁判断は、法律上、正当であるから、たとえ、第2条第4項について誤りがあっても、支持されるべきある、又は、
  2. 仲裁人らは、第2条第4項を適用した点で、結論として、正しい。
判決

以下の法的争点について、船主に対し、上訴が許可されました。

i. 1992年英国COGSA第2条第4項は、船荷証券契約に基づく訴権が、損失を被った当事者に元々付与されていない場合にも、機能するのか、又は、訴権がそのような当事者に先に付与されながら、第2条第1項により失われた場合にのみ、機能するのか。

ii. 傭船者が損害を受けたものの、もはや、傭船契約に基づき、運送人に対して請求を行うことをしない場合、船荷証券の適法な所持人は、COGSA第2条第4項に基づき、船荷証券における契約により、傭船者の損失を賠償請求できるか、又は、船荷証券の適法な所持人は、同条項に基づき、いかなる運送契約に基づいても訴権を有しないような当事者が被った損害のみを請求できるのか。

議論の過程の中で、第iiの争点は、「船荷証券の適法な所持人は、1992年英国COGSA第2条第4項に基づき、船荷証券上の運送人との間の傭船契約に係る航海に関して、傭船者が被った損失を賠償請求できるか」という風に、整理されました。

3つめの争点として、仲裁判断は、法律上、正当であるから、たとえ、第2条第4項について誤りがあっても、支持されるべきある、とするAltfadul社とSIAT社の主張について、別の争点が生じました。

Altfadul社とSIAT社は、英国のコモン・ローにおいては、R&W Paul Ltd v National Steamship Co Ltd事件((1937) 59 Ll L Rep 28)という直接の効果により、船荷証券に基づき訴求する船荷証券所持人は、中間の売主からの先の回収額があったとしても、損害の全額を賠償請求できる、従って、Altfaful社は、CoMaCo社から支払われた「2,586,105.09米ドル」は、「両者の間の売買契約に係る紛争の和解として」(仲裁廷の認定)支払われたものであるから、それを考慮することなく、全ての損害額を請求することができる、と主張しました。この3つ目の争点は、次のように表現されました。

iii. 仲裁判断で認められた事実において、Altfadul社(従って、SIAT社も)は、その売主であるCoMaCo社から回収ないしその権限を得たかどうかにかかわらず、貨物損害の全額に等しい額を賠償請求することができるか。

高等法院の裁判官は、「iii」の争点について、これがそれ自身で上訴を棄却する可能性をもつことから、まず、この点について判示しました。

裁判官は、Altfadul社とSIAT社が依拠したR&W Paul事件判決における説示内容を正当なものと認め、これにより、Altfadul社は、中間の売主としてのCoMaCo社から先に回収を得ていたとしても、バナナ貨物に対する損害の全部に対して、賠償請求をなすことができるとし、左の結論は、船主が依拠した後に判示されたSanix Ace号事件判決には影響されない、と判示しました。従って、Altfadulの譲受人としてのSIAT社に対して全損害に対する権利を認めた仲裁判断は、1992年英国COGSA第2条第4項の効果についての見解が正しいか否かにかかわらず、法的に正しい、と判示しました。「iii」の争点に関する裁判官の結論は、Artfadul社とSIAT社を勝訴させた仲裁判断が支持され、船主の上訴が棄却されることを意味します。

さらに、裁判官は、上記の結論にもかかわらず、「i」と「ii」の争点を判断していきました。

In question (i), Owner contended that the scope of s.2(4) was limited to cases where the party which had suffered the loss had previously had rights of suit but had lost them by virtue of s.2(1).

裁判官は、船主の主張を否定して、それを支持するような文言は法律の条文にはない、と判断しました。第2条第4項が船主のいうように狭い範囲のものであれば、同条項の適用が意図された問題の半分しか解決できない、としました。特に、取引のチェーンの中で船荷証券所持人の下位にいる者(例えば、後の買主)が損失を被ったような場合の事例を取り扱わないこととなります。裁判官は、さらに、上記の船主の主張が条文の意図であるとすると、第2条第4項が明示的にそのように規定されなかったこと、ないし、第2条第1項の適用の結果として権利が失われた場合を明示的に規定する第2条第5項を引用して規定されなかったことは、異常なことである、と指摘しました。

「ii」の争点について、裁判官は、単なる受取のルールが適用される傭船者が船荷証券の所持人である場合、第2条第1項に基づく傭船者への法定の訴権の移転によっても、その権利の行使により、被った損害を運送人から回収する権限は認められない、という主張について、Dunelmia号事件判決([1970] 1 QB 289)は、それを支持する先例となる、と解説しました。仲裁判断における事実認定によれば、(Altfadul社の譲受人としての)SIAT社は、第2条第4項により、CoMaCo社のために、CoMaCo社がAltfadul社に承認した借入を根拠として、損害賠償を請求することはできません。

コメント

裁判官は、法律評議会の報告書を検討し、我々に、1992年英国COGSAの意図を思い出させてくれました。この法律の基本的な目的は、1855年英国船荷証券法の持つ不適切さを正すことでした。1855年法の下では、訴権は、船荷証券上の荷受人又は被裏書人に対し、譲渡又は裏書「により、又は、その方法によって」のみ、移転します。

1992年英国COGSAの主たる目的は、貨物に対する損害を被った者が同時に、法律に基づき、契約上の訴権を有する者であるという場合を増加させることです。

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

Staff Author

PI Club

Date2018/07/31