QLU Winter 2017/18 Feb-02: "Cape Bonny"号事件 - 荷主に対する共同海損の分担請求について、本船のエンジン故障に関し、ヘーグ・ヴィスビー・ルールに基づく船主の注意義務を明確化し、船主の請求を棄却しました

エンジンの故障に関し、ヘーグ・ヴィスビー・ルールに基づく船主の注意義務についての明確化

Tankschiffahrts GmbH & Co KG v Ping An Property and Casualty Insurance Co of China Ltd (The "Cape Bonny") - QBD (Comm Ct) (Teare J) [2017] EWHC 3036 (Comm) - 4 December 2017

事実

2011年7月14日、アルゼンチンから中国向けの航海中、「Cape Bonny」(「本船」)というオイル・タンカーで、エンジンが故障しました。その時、本船は、Ma-onという台風を避けようとしていました。曳船の補助が求められました。2011年7月18日、本船は、「Koyo Maru」という曳船に曳航されました。本船は、避難のために日本の港に入ることを許されず、また、中国の港でも、その貨物を荷揚することも、許されませんでした。従って、本船は、韓国に曳航され、貨物は、その後の荷揚のため、別の船に移されました。別の台風が近づいたため、本船は、再度、曳航され、韓国の領海から出ました。本船は、その後、曳航から解かれ、2011年8月9日、修理のため、岸壁に接岸されました。

共同海損が宣言されました。本件での被告は、船主の利益のために、荷主を代理して、共同海損保証状を提出しました。その後の精算により、貨物側の負担は、約2百万1千ドルと認定されました。

被告は、ヨーク・アントワープ規則のルールDに基づき、保証に基づく責任を否定しました。被告は、本件事故は、船主側に認められる提訴可能な過失に基づくものである、と主張しました。

判決

Teare判事は、事実に関し、7名の証人から証言を聞き、また、技術的な事項について、4名の専門家からも証言を聞きました。

船主は、本船は、その潤滑油の系統に金属破片が存在していたから、航海の開始時において不堪航であったことを認めました。ヘーグ・ヴィスビー・ルール第3条第1項によれば(左のルールは、本件運送契約に摂取されていました。)、船主は、航海の開始時、または、その前において、船舶の堪航性を維持するため、適切な注意義務を尽くしたことを証明しなければならない、と規定されています。

船主は、本件は、2005年に本船が建造された時から残置された溶接くず(weld slag)という、隠れた瑕疵により、No1ベアリングに対して、突然、大規模な損傷が発生したことによるエンジン・トラブルであるから、第3条第1項に基づく義務を尽くしていた、と主張しました。

しかしながら、Teare裁判官は、船主の上記の説明を、ありえないものとして、却下しました。裁判官は、2011年7月のエンジン故障の原因は、フィルターにより潤滑油系統から除去されるべき外部の粒子が、そのフィルターが損傷していたために除去されず、その粒子がNo1ベアリングを損傷させたものである、と判示しました。船主は、航海の開始前に、本船の適切な検査を怠ったものである、と判示されました。 しかしながら、Teare裁判官は、適切な検査が行われていれば、そのような外部の粒子を必ず探知できた、とまでは結論づけることが出来ませんでした。従って、注意義務を怠ったことは、エンジンの故障の原因とはいえない、と結論づけました。

上記の判示にもかかわらず、裁判所は、慎重な機関士や監督者であれば、船員により検知された、説明の難しい、クランクの大きな変形を認識し、それに従って行動していたであろう、と判示した。それをなさなかったことは、注意義務を尽くさなかったものであり、その後のエンジンの故障の原因である、と判示しました。この船主側の訴追しうる過失の結果として、荷主は、共同海損分担金を負担する責任を免れることになります。

船主の請求を棄却しながらも、Teare裁判官は、(傍論として)損害額について、審理しました。

船主は、書籍「Lowndes & Rudolf」のヨーク・アントワープ・ルールのルールAに関する記述に依拠しました。それは、犠牲、または、費用は、反対の証明がなされない限り、合理的なものとみなされる、としています。船主は、従って、被告側に、請求額が不合理であることを証明する責任がある、と主張しました。

しかしながら、被告は、共同海損において、損失、または、費用が適切に認められることを、請求する側が立証責任を負うとする、ヨーク・アントワープ・ルールのルールEに依拠しました。これにより、被告は、立証責任は船主側にある、と主張しました。

この点に関する先例は、今のところ、ありません。Teare裁判官は、費用が合理的に発生したものであることを証明する責任が、船主側にある、という見解を示しました。裁判官は、上記の結論に至るについて、ルールEとパラマウント条項に依拠しました。ルールEは、合理性の問題については、明確に触れてはいないものの、その問題に及びうる一般原則を示しています。パラマウント条項は、明確に、共同海損において負担を求める者は、費用、または、犠牲が合理的に生じたものであることを主張し、従って、証明しなければならないことを示しています。

コメント

共同海損の事例は、商業裁判所には通常、提起されません。Teare裁判官は、ヘーグ・ヴィスビー・ルールに基づく船主の義務と責任に関するキー・ポイントを、有益にも、明確にしてくれました。裁判官は、また、傍論ながらも、請求される費用が合理的か否かを決定するための、ヨーク・アントワープ・ルールのルールAとルールEに基づく立証責任をどの当事者が負うか、についても、有益なガイダンスを提供してくれました。

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PI Club

Date2018/02/16