QCR Winter 2018-1: 不当利得(unjust enrichment)-不当利得返還請求権-制裁に服する借主による支払について、銀行は、いつの時点で利得したか-1980年出訴制限法

Sixteenth Ocean GMBH & Co KG v Societe Generale [2018] EWHC 1731 (Comm)

事実

Islamic Republic of Iran Shipping Lines社(「IRISL」)の子会社であるSixteenth Ocean GMBH & Co KG社(「16th Ocean」)は、現代重工業(「現代」)との間で、現代がコンテナ船を建設し、これをIRISLの子会社が購入するという、造船契約を締結しました。16th Oceanは、本船の建設と購入の資金を得るため、Societe Generale銀行(「SocGen」)を含む3つの貸主との間で、ローン契約を締結しました。

2007年9月、16th Oceanは、本船に関する義務をヘッジするために、スワップ銀行としてのSocGenとの間で、契約を締結しました。従って、SocGenは、ローン契約について、「代理人(Agent)」「貸主」及び「スワップ銀行」として、当事者となりました。

2008年9月、米国の財務省外国資産管理室(「OFAC」)により、IRISLが特別指定国家機関(「SDN」)と指定されたこと、及び、その後の、全てのイランに係る機関とのドル取引の禁止を受けて、SocGenは、代理人として、16 th Oceanに対し、ローン契約に基づく、本船の購入に必要な最終の資金の引出しをなすことはできないことを通知しました。その結果、16 th Oceanは、本船の購入のための残債務を支払うことができず、2009年12月31日、現代は、造船契約を解除しました。

その後、貸主らは、いくつかの契約に基づく残債務の支払いを要求しました。2010年12月13日、16th Ocean及びその他の3つのIRISLの子会社は、貸主らの代理人としてのSocGenに対し、上記造船契約の解除金額(Termination Amount)を含む、1億5500万ユーロを支払いました。2010年12月14日にSocGenにより受領されたその金額は、別段預金に移転され、関係当局の承認の後、2011年1月5日になって初めて、貸主らに送金されました。解除に係る金員は、2011年1月24日になって初めて、SocGenに割り当てられたと主張されています。

16th Oceanは、上記の資金は、権利を留保しつつ、また、経済的な強迫の下で支払われたものである、と主張し、SocGenに対し、不当利得に基づき、解除金額の返還を求めて、手続を開始しました。訴状は、2017年1月10日、作成されました。

SocGenは、1980年出訴制限法第5条に基づき、16th Oceanの請求は出訴期限を徒過しているとして、その却下を求める略式判決を申立てました。

16th Oceanは、(i)銀行法規上の問題として、SocGenは、2010年12月14日の時点で、移転された資金を直ちに使用できるような自由な、又は、無制限の件ウィを得ていないから、支払いを受けていないこと、(ii)SocGenは、2010年6月、解除に係る金額をゼロではなく、違法に、880万ユーロと計算した点で、スワップ契約に違反し、また、左の契約に基づく支払義務の発生事由が未だ生じていないから、解除に係る金額を計算してその支払いを求めない義務を継続して負っていること、及び、(iii)16th Oceanは、SocGenによる詐欺と情報隠蔽に基づき、1980年出訴制限法第32条第1項(a)及び(b)に基づき、期限の開始を延期することを求めることができること、を主張して、SocGenの申立を争いました。

判決

高等法院(High Court)(注:英国の第1審裁判所)は、SocGenによる2010年12月14日、及び、遅くとも2011年1月5日の解除に係る金額の受領により、請求原因は発生している、として、SocGenの略式判決の申立を認め、16th Oceanの返還請求を棄却しました。支払いの受領は、2010年12月14日の時点で、SocGenの真の、また、論争の余地のない利益を構成する、とされました。SocGenによる別段預金への資金の移転は、関係するEU当局の承認を待つものであり、利得の日付を変更しない、とされました。

裁判所は、スワップ契約の解釈によれば、SocGenの継続的な義務も、その後の単一の義務の違反も存在しない、と判示しました。従って、スワップ契約の違反は、2010年6月9日以降発生しないこととなります。

16 th Oceanが出訴制限法第32条に依拠した点も、裁判所により否定されました。裁判所は、第32条第1項(a)との関係においては、詐欺が認定されなければならないことを明確にしました。本条項は、不誠実に行われた不当行為や義務違反、又は、不誠実が存在しているものの、詐欺が存在しないそれらについては、拡張されない、と明示しました。第32条第1項(b)については、意図的に隠蔽された事実は、請求に関連するものとされましたが、本件では、別段預金から資金が送金された日は、16th Oceanによる不当利得の請求権とは関連しない、と判示されました。

上記の判決については、上訴が許可されています。

コメント

本判決は、以下の点において、重要です。

1.コモンロー上の不当利得返還請求権については、制定法上の出訴期限はありませんが、判例法、また、本裁判所は、上記の請求権も一般に、6年の出訴期限に服することを確認しています。

2.本判決は、以下の1980年出訴制限法第32条第1項(a)及び(b)の適用について、明確化しています。

 「第32条第1項 …本法により、その出訴期限が規定されている訴訟については、その訴訟が被告の詐欺に基づく場合、又は、原告の訴権に関連する事実が、原告に対して、意図的に被告により隠蔽されていた場合、出訴期限は、原告がその隠蔽を発見するか、合理的な注意により発見しえた場合でなければ、起算されない。」

3.銀行が、代理人としてその口座に資金を受領するや否や、それを直ちに別段預金に移転したか否かにかかわらず、利得したものであるとの認定は、潜在的に、銀行の不当利得に係る責任の範囲を増加させるかもしれません。

4.本判決は、また、法的な複雑さだけでは、略式判決の障害とはならないことを再認識させてくれました。

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

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Date2019/03/13