QCR Winter 2019-1: 物品売買契約において、期日は重要な要素か?買主が購入を拒否した物を、その契約違反後に、売主が購入することを提案してきたことについて、これを売主が拒否することは、その損害拡大防止義務の観点からみて、合理的か?

事実

原告である販売代理店たるSurya Citra Multimedia社は、被告である卸売業者であり販売業者でもあるBrightpoint社との間で、ブラックベリーの携帯電話(「本件機器」)をインドネシアにおいて販売する販売代理店契約(「本件契約」)を締結しました。

原告の請求は、契約上の価格保護条項(price protection clause (「PPC条項」))に基づくものです。この条項は、日常的に本件機器の買取注文を行う原告を、ブラックベリーにより時折、指示される小売価格の減額から守る趣旨のものです。原告は、PPC条項に違反して、被告は、本件機器の小売価格の減額により原告が被った経済的な損失を原告に提供することを行わなかった、と主張しました。

反対請求として、被告は、原告は、その買取注文を行った本件機器を取得しなかった、と主張しました。損害拡大の防止のため、被告は、原告が取得しなかった本件機器を第三者に売却しましたが、その第三者への売却価格と買取注文における価格との間には差額(不足額)が生じました。

原告は、その買取注文で指示した期日までに被告が本件機器を引渡さず、また、引渡しにおいて期日は重要な要素であるから、その本件機器を引き取る義務を負わない、と主張しました。被告は、買取注文における期日は、暫定的であり、変更の可能性があったことを示す証拠を提出しました。

「期日は重要な要素である」との言葉は、多くの場合、引渡しや支払期日との関係で、契約中に期日を定める規定があることを意味します。そのような規定は、契約の主要条項(condition)であって、厳格に順守されなければなりません。主要条項の違反により、被害者としての当事者(innocent party)は、契約を終了させることができ、さらに、損害賠償請求訴訟を提起することができます。

判決

シンガポール高等法院は、以下の理由により、原告の請求を全面的に退け、被告の反対請求を一部、認めました。

  1. 本件契約において、物の引渡しとの関連で、期日が重要な要素であるかどうかを判断する際、裁判所は、次の3点を検討する。
    (a) 契約書が、期日に関する主要条項が厳格に順守されるべきものとして明示的に、規定しているかどうか。
    (b) 契約の対象の性質、又は、背景事情により、期日は重要な要素であると考えるべきか否か。
    (c) 不合理な遅滞の受けた当事者は、不履行となった当事者に対して、期日が重要なものとなるよう、通知を行ったか否か。
  2. 上記(a)については、裁判所は、本件契約や買取注文においては、本件機器の引渡しが重要となるような明示的な規定はない、と認定する。
  3. 上記(b)については、重要な問題は、契約が、その性質上、商業的なものであるかどうか、である。そうであれば、元々、「期日は重要な要素である。」という前提はあるものの、商業的な契約において常に、そのような規定が主要条項となりうるものではない。
    裁判官は、「商業的な契約において、期日を主要条項と取り扱うことは、事実に関する前提、又は、法に基づくものではない。商業界の者達の経験により確立され、また、定められた実務的な都合によるものである。」とコメントしました。商業上の契約において、引渡しが重要であることを示す重要な要素は、引渡しという、当該契約における主要な義務について、確実性と予見可能性が重要であるという点です。期日が主要条項であること、すなわち、前提事項を単に主張することに基づく、立証責任が転換されないものとして、その前提を主張する側の当事者が証明する責任を負います。本件では、買取注文に規定された期日が変更されうるものであったことは、期日が重要であったという前提を否定するものです。
  4. 上記(c)については、原告は、被告に対して、期日が重要となるための、遅滞に関する通知をなしていない、とされました。
  5. 最後に、損害の拡大防止について、裁判所は、Payzu Ltd対Saunders事件([1919] 2 KB 581)を引用して、被告が、原告からの違反後の提案を検討しなくても良いとするルールはない、と判示しました。損害拡大防止義務を負う当事者が合理的に行動したか否かは、特定の事案における事実に基づいて検討されなければならない。本件においては、両当事者がぎくしゃくした関係にあったということ、また、両当事者間に信頼関係が失われていたことが重要である。さらに、原告から被告に提案された、本件機器の購入価格は、市場価格よりも高額ではなかった。従って、裁判所は、被告が、本件機器を購入するという、違反後の原告の提案を拒否したことは、不合理ではない、と結論付ける。

コメント

シンガポール裁判所は、商業的な契約において、期日に関する規定がいかなる場合に主要条項と認められるか、についての、有益な、また、簡明な警告を提供しました。

本件判決から学ぶべきことは、メンバーにおかれては、商業的な契約において、「期日は重要な要素である」ことを確実にするためには、その契約中に、そのような効果を持つ明確な文言を規定するべきである、ということです。物品運送契約において、メンバーが運送人である場合には、引渡期日が「重要な要素である」とする明文規定を置くことについては、反対されるべきでしょう。引渡期日が明文の主要条項とされることを許しながら、ヘーグ/ヘーグ・ウィスビー条約中の、運送人の責任を免除、又は、最小化する規定がない場合には、運送人は、契約の解除や、遅延クレームに対する責任に晒されることとなるでしょう。

メンバーにおかれましては、遅延クレームは、標準のクラブ・ルールの下ではカバーされないことに、ご留意下さい。

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

Staff Author

PI Club

Date2020/01/30