QLU Spring 2017 May-7:1974年ヨーク・アントワープ・ルールのルールF  

控訴院は1974年ヨーク・アントワープ・ルールのルールFの効果について考察し、海賊との身代金交渉の期間に生じた船主のオペレーティング・コストは共同海損において「代替的費用」として認められないが、ルールAの下で承認されると判断しました。Mitsui & Co Ltd and Others v Beteiligungsgesellschaft LPG Tankerflotte mbH & Co KG and Another (The "Longchamp") [2016] EWCA Civ 708事実:

商船「Longchamp号」はアデン湾を航行中、海賊にハイジャックされました。海賊は身代金として600万ドルを要求しましたが、船主はこれを拒否しました。

そのため船主はプロの交渉人を雇い、海賊との間で身代金交渉を行い、51日後にようやく1億8500万ドルで合意しました。船主はその5日後に身代金が海賊に支払ったため、本船は翌日開放されました。

本船の貨物はヨーク・アントワープ・ルールを摂取したB/Lで運送されていました。 本船が拘束されていた期間、船主は共同海損を訴えました。身代金の支払いが、ルールAの下で、共同海損の費用として承認されるかどうかは紛争とはなりませんでした。

共同海損の清算手続きで、さらに(i) 拘束されていた期間に生じた船主のオペレーティング・コスト(報酬・ボーナス、保守及び消費した燃料代)について (ii)交渉を促進するためのメディア対応専門家の費用については、ルールFに基づく代替的費用として認められる、と判断されました。貨物側からは、必要経費とメディア専門家の経費に係る判断に対して、異議を申出ました。

第1審では、必要経費についての判断が支持され、また、Stephen Hoffmeyr 判事は、メディア専門家の経費についても、ルールAに基づき認められるもの、と判示しました。貨物側当事者は、控訴しました。

控訴院判決:
判示事項 
  1. 要求された身代金を支払うことは、代替的な行動ではない。船主には、唯一、残された道、すなわち、交渉をすることだけが存在した。従って、その経費は、ルールFにおいて、代わりの、代替的な経費ではないから、それに関する控訴は認められる。それは、遅延により生じた通常の経費である。控訴院は、さらに、もし船主が要求された身代金を全額、それができ次第直ちに支払っていたとしても、それは非合理なこととはいえず、その支払は、共同海損において認められたであろう、と判示しました。それにより、船主は遅延による費用を節約することができ、また、生命や、船と貨物が危機に瀕していることで、正当化されるでしょう。控訴院が別の判断をしていたならば、将来の共同海損の手続の当事者で、YARルール上の共同海損費用としての身代金の負担を避けようとする者が、船主はより上手に交渉するべきであり、支払われた額が「非合理」であると主張することも予想された、と思われます。
  2. メディア対応経費は、それを要した船主の目的が、船や貨物の解放をできるだけ安価で、かつ、効率的になそうとしたことにある限り、ルールAの下で承認される。経費が、少なくともその一部において、財産を危難から守るために生じたものであれば、ルールAにおいて承認されるに十分である。仮に、貨物側当事者のいうとおり、他の2つの目的、つまり、船主の企業イメージを守ることと、船員やその家族からの訴訟の可能性を減少させる目的があったとしても、違いはない。財産を守ることが、唯一の目的であることや、支配的な、また、最も有効な目的であることは、原則として、必要ではない。

コメント:

本件は、ルールFの効果と、代替的費用の原則について検討した、初めての判例です。

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PI Club

Date2017/05/25