QLU Spring 2018 May-1: 補償状(LOI)を再考する

Songa Chemicals AS v Navig8 Chemicals Pool Ltd [2018] EWHC 397 (Comm)

事実

本船Songa Winds号は、Songa Chemical 社(以下「Songa」)が所有する石油・ケミカルタンカーで、同社はNavig8 Chemicals Pool 社(以下「Navig8」)と共同運航に関する協定のもとに定期用船契約を結んでいました。

この紛争は、オリジナルの船荷証券の提示なしに貨物の引渡しを求める一連の補償状(LOI)から生じました。ひとつはGlencore社からNavig8社に対して発行したLOI、そしてNavig8社からSong a社に対して発行したLOIです。 LOIの文言は、国際グループに所属する P&Iクラブが承認した標準書式であり、船主は指定された受取人または "貴社が指定された受取人、あるいは指定された受取人を代表する、あるいはその代理として行動する者と信じる者に "引き渡すと規定されていました。

Glencore社およびNavig8社のLOIはどちらも、LOI受取人にAavanti社へ引き渡しをするように指示するものでした。 Aavanti社の買い手であるRuchi Soya Industries 社に引渡しが行われたことは、当事者間で争いのない事実でした。ところが、 Aavanti社へ資金を調達したSocGen銀行は、船荷証券の正当な所有者であると主張しました。その結果、Songa社はNavig8社から受け取ったLOIを参照し、LOIチェーンをたどって、Navig8社は同様にGlencore社に対してLOIを提示しました。 しかし、Glencore社は、Navig8社に発行したLOIが関与していたことを否定し、チェーンをたどってNavig8社も同様の立場をとりました。

判決

裁判所は、Ruchi社がAavanti社を代表して、または同社の代理人として行動していたという事実に基づき、両方のLOIの条項に従って、オリジナルの船荷証券を呈示せずに正しい当事者へ貨物の引渡しが行われたと結論付けました。

したがって、引渡すべき者に関する条項は関与していたものとされ、Navig8社はSocGenの請求に関してSonga社を補償する義務があり、Glencore社はNavig8社に補償する義務があるとされました。 Aavanti社は、Ruchi社から支払いを受けていませんでしたが、それらの者の間では、必ずしも前払いを慣習とはしていなかったという証拠がありました。 Ruchi社がAavanti社を代理して貨物の引渡しを請求した事実が着目されました。

傍論として、Aavanti社の代理としてRuchi社が貨物の引渡しを受けていなかった場合、LOI標準書式における実際の受取人が本来の受取人の代理として行動していたと "信じること"とは、問題の引渡しを行った者、つまり運送人、すなわち実際には船長の"信じたこと"を意味するということになります。

裁判所はまた、Navig8社のGlencore社に対するLOIに基づく請求は既に時効であるとのGlencore社よって提起された、Navig8社とGlencore社の間の別の問題について、Glencore社の主張が裁判で勝訴する見込みはないとの略式判決をNavig8社に認めました。

コメント

これは、オリジナルの船荷証券の提示なしに貨物を引き渡す場合のP&I国際グループの補償状の標準書式の解釈や運用を考察した一連のケース(最新ではThe Bremen Max [2009] 1 Lloyd's Rep 81とThe Zagora [2017] 1 Lloyd's Rep 194)についての最新の判決です。

本件の事実関係は非常に慎重に扱うべきではありますが、それでもこの判決は、英国商事裁判所のBremen Max号事件判決以来、国際グループのLOI標準書式の文言の解釈や運用に関して、明確化をするとともに有益なガイダンスとなるものです。

Bremen Max号判決の直後に発行されたUKP&IクラブのCircular 18/10をご参照ください:

https://www.ukpandi.com/fileadmin/uploads/uk-pi/Latest_Publications/Circulars/Circular18_10.pdf

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

Staff Author

PI Club

Date2018/06/18