QLU Winter 2017/18 Feb-01:"Lady M"号事件 - ヘーグ・ヴィスビー・ルール第4条第2項第b号及び同項第q号の免責を船主が得られるかどうかが検討されました

ヘーグ・ヴィスビー・ルール第4条第2項第b号及び同項第q号の免責を船主が得られるかどうかが検討されました。

Glencore Energy UK Ltd & Anor v Freeport Holdings Ltd (The "Lady M") - QBD (Comm Ct) (Popplewell J) [2017] EWHC 3348 (Comm) - 21 December 2017事実

本件は、原告・荷主から、被告・船主に対して提起された損害賠償請求です。本船「Lady M」号は、船上で火災が発生し、貨物が船積されている間、稼動できなくなりました。船主は、救助者(salvor)を雇い、共同海損を宣言しました。荷主は、救助者への支払は合意しましたが、その回収を、船荷証券、又は、寄託(bailment)の違反を根拠に、船主に対して求めました。1968年ヘーグ・ヴィスビー・ルールが適用され、船主は、その責任を回避するために、同ルールの第4条第2項第b号、又は、第q号を主張しました。火災は、チーフ・エンジニアが、その精神状態が害されていた際に、故意に発生させたものであることは、当事者間で争いはありません。

判決

裁判所は、まず、本件での争点は、チーフ・エンジニアの行為が船員非行(barratry)に該当するか、また、仮に該当する場合、第4条第2項第b号、又は、第q号により、船主は責任を免れるか、である、としました。

裁判官は、以下のとおり、判示しました。

1.船員非行

船員非行は、「(i)船長、船員、その他の船主の被用者の故意の作為、又は、不作為であり、(ii)不法な作為、又は、不作為であり、(iii)船主、又は、荷主の利益を害するものであり(その害することについて、意図的であったかどうかを問わず)、(iv)船主の知らないもの」を意味する。作為、又は、不作為が、上記(ii)でいう不法なものとは、「(a)行為が犯罪と見做されるために必要な精神的な要素も含めて、一般的にみて犯罪と認められているものであり、又は、(b)当該者により、義務の違反、又は、無謀な(reckless)行為となることを知りながら行われた、船主に対する義務の重大な違反である場合」にのみ、該当する。

チーフ・エンジニアの行為が非行に該当するためには、その者は、自己が行っている行為が、犯罪か、船主に対する義務の重大な違反か、又は、少なくとも、その点で無謀であることを知っていたか、又は、そのような意図を持っていたことが必要である。

本件では、チーフ・エンジニアの精神状態は害されていた。従って、チーフ・エンジニアの火をつける行為は、非行に該当するか、又は、該当しないかもしれない。しかしながら、この争点は、船主が、第4条第2項第b号、又は、同項第q号により火災に関する責任を免れるか、については、決定的な意味を持つものではない。

2.第4条第2項第b号

当裁判所は、条文中の「火災」は、運送人の被用者、又は、代理人の故意、又は、過失による火災も含めて、いかなる原因により生じた火災をも意味するもの、と解釈する。

従って、第4条第2項第b号によれば、たとえその火災が故意、又は、非行により発生したものであっても、船主からその責任を免除することが可能である。

3.第4条第2項第q号

船主は、第4条第2項第q号によれば、火災に係る責任から免れない。同号の免責は、運送人、その被用者、又は、その代理人の過失によらずに生じた「他の全ての原因」に対して適用される。代理人に関するテストを適用し、当裁判所は、本件で、チーフ・エンジニアがエンジン制御室に火を着けた際は、船主の被用者として行為していたものと認められる。従って、第4条第2項第q号の免責は、適用されない。

コメント

本件は、船員非行の定義と、ヘーグ・ヴィスビー・ルール第4条第2項に基づき、船主が主張できる以下の2つの免責の解釈についての重要なガイドラインを提供しています。

(b)火災。但し、運送人の故意、又は、過失によるものを除く。

(q)運送人の故意、又は、過失によらない、若しくは、運送人の代理人、又は、被用者の故意、又は、過失によらない、その他一切の原因。但し、この免責の利益を主張する者が、運送人に故意、又は、過失、若しくは、運送人の代理人、又は、被用者の故意、又は、過失が損失に影響しなかったこと立証する責任を負う。

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PI Club

Date2018/02/16