事故の教訓: 離桟作業中の係船索による重傷事故
本船の揚げ荷作業中、強風(BF8)のため作業を中断することになった。船長は、天候が回復するまでバースを離れ港外で投錨するよう、港長から指示を受けた。離桟のためにパイロットが乗船するまで、強風と港内に入ってくるうねりのため、船体は桟橋に沿って前後に動揺し、係船索は交互に弛んだり強く引っ張られた状態となっていた。タグを係止し、乗組員は船長とパイロットの指示の下で、係留索のシングルアップ作業に入った。この作業中、船尾で作業していた甲板手が緩んだスプリングラインをまたいだ時、突然テンションがかかり、そのロープで足を強打した。その甲板手は陸上に搬送され、大腿骨骨折により入院し、ほぼ1年間リハビリが必要となった。
分析:技術の進歩にもかかわらず、船舶は数千年前と同じように桟橋に安全に係留したり、曳航作業を行うために、繊維とワイヤーでできた係留索に依存し続けている。船舶の大型化に乗組員の減少が重なり、係留作業は今日の船員にとって最も困難で危険な作業のひとつと言えよう。通常の制御された状況下では、熟練した経験豊富な乗組員は、これらの作業を効率的かつ安全に実行することは可能である。しかし風が強く、うねりがある状況では、船舶の係留中の動きを制御することは困難なため、係留索に突然急激な張力がかかることがある。このような衝撃荷重により、係船索が損傷あるいは破断して、乗組員がムチで打たれた状態となったり、張力がかかったロープの間やロープと近くの構造物との間、あるいは弛んだロープの輪の内側で手足が絡まるなど、係船デッキの乗組員を重大な危険にさらすことがある。
事故の教訓- 乗組員は、船舶の係留設備に十分精通し、急激に引っ張られたロープやワイヤーの潜在的な危険性を認識しなければならない。
- 悪天候の予報がある場合やうねりのある桟橋に停泊している際には、船長は必要に応じ時機を見て桟橋を離れるなど、危険回避の行動を検討する必要がある。
- 乗組員は、強い負荷かがかかる可能性のある係船索から離れて立つこと、そして係船作業中はロープとロープの内側には決して立たないという鉄則を十分認識することを訓練から学ばなければならない。