事故の教訓:錨地での船舶との衝突

本船は、指定錨地に錨泊するよう指示を受けたが、同錨地には既に他船が錨泊中であった。錨地にアプローチ中、船長は2隻の錨泊船の間、その距離約0.5マイル、を航行するため、針路を北にとり、その後予定錨地に向かうため左転しようとしていた。当時の状況は、夜間で視界も十分あり、また、気海象は、南西の風、風力BF5から6、潮流は東流約3ノットであった。したがって、風及び潮流とも本船の左舷側に働く、というものであった。本船は、デッド・スロー・アヘッドをもって、2隻の錨泊船の間を通過しようとしたが、船長は、右舷側の錨泊船に急激に近づいていることに気づいた。船長は直ちに、舵効きを良くするためフルアヘッドを令したが、その避航動作は成功せず、本船の右舷側が錨泊船の船首に衝突した。
分析本件は、錨泊船の船首至近は航行しない、という黄金律(golden rule)を守らなかった古典的なケースである。3ノットに減速した本船において、錨泊船の方向に接近させるような強風と潮流が同時に影響を及ぼす状況下、船長は潜在的困難性を予想すべきであった。それどころか、本船は風と潮流の影響を受けない錨泊船の船尾側を航行すべきである。また、船橋チームは、危険であることを喚起するといわれている他船の航跡を注意深く監視すること、また早期段階での避航動作をとることを怠ったことは明白である。本事故の全責任は本船に帰すると考えられ、船主は相手船からの修理及びその他の莫大な損害に関する相当のクレームに直面している。
事故の教訓- 錨泊している他船の船首至近を航行してはならない
- 錨地へのアプローチを計画する場合、本船の操縦性に及ぼす風及び潮流(海流)の影響は、十分注意しなければならない
- 錨地にアプローチ中、本船位置は頻繁に確認し、予定航路上を航行していることを注意深く監視することが重要である
- 気象や航海状況が悪化した場合に備え、錨地への航行を中止する緊急対応計画(contingency plan)を用意しておくこと
- 良好なBRMとは、船長の決定や行動に疑問があった場合、操船指揮者である船長に対し、船橋のチームメンバーが、自由に質問することを奨励するものである
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