QCR Autumn 2019-1: McKeever V Northernreef Insurance Co Sa [2019] WL 02261376 McKeever対 Northernreef Insurance Co Sa事件

事実

原告(McKeever夫人)は、長さ15メートルのヨットであるCreola号を所有し、そこで暮らしていました。2014年3月19日、Sulu Sea(フィリピン)において、そのヨットが座礁しました。船体は損傷されていませんでしたが、浮上させることができなかったため、原告はそのヨットを放棄し、それを固定し、ハッチに鍵を付しました。

翌日、原告が現場に戻ると、ヨットが盗難にあったことを発見しました。いくつかの窓が割られ、多くの物が盗まれました。

当該ヨットは、ウルグアイの船舶会社である被告(Northernreef社)により付保されていました。保険約款は、海上の危険、海賊、悪意ある行為(malicious act)、及び、盗難を含む、海上リスクをカバーしていました。その第4.1条は、当該ヨットは、「保険約款に基づき、また、それが使用しうる状態で維持されていることを条件として」付保される、と規定しています。

原告は、当該保険約款に基づき、支払いを求めました。
McKeever氏の請求項目は、以下のとおりです。
・ヨットの損害
・海上の危険、又は、海賊、又は、悪意ある行為、又は、盗難により生じた存室としての盗難された物品
・ヨットの保護を依頼した漁船・Mighty One号に支払った金額
・ヨットを引き出して、ヤードに曳航した費用
・人件費

Northernreef社は、以下の理由により、McKeever氏の請求を拒否しました。
・McKeever氏は、当該ヨットを使用しうる状態に維持していなかった(約款4.1条)。
・航行用の機器や海図は、古く、不適切なものであったから、当該ヨットは、堪航性を有せず、従って、1906年海上保険法(Marine Insurance Act)第39条に基づき、Northernreef社は、その責任を免れる。
・保険約款は、「船主、又は、被保険者の過失により生じた事故」を免責しているから、本件請求は、免責される。
・McKeever氏は、損失を避ける、又は、最小限にするための手段を講じなかった(約款第16.1条)。

争点は、以下のとおりです。
1.本船への損害は、海上の危険により、因果関係のあるものとして、発生したか?
2.海水の流入は、付保されたリスクにより、因果関係にあるものとして、付保されるか?
3.盗難は、本件約款によりカバーされるか、また、どの程度の損害額が付保されるか?

判決

Julia Dias裁判官は、以下のとおり、判示しました。
・座礁が、原告側の故意により、又は、意図された悪行(wilful misconduct)により生じたことを示唆するものはないから、偶然に(fortuitous)生じたものと認められる。
・本件約款第4.1条は、1906年法第33条にいう保証には該当しない。約款の同条項は、ヨットの物理的な状態にのみ、関係するものであり、その付属品に関係するものではない。ヨットの付属品(機器)の物理的な状態は、堪航性にのみ、関係するものである。
・本件損害は、悪意ある行為により生じたものではない。「悪意」とは、付保された財産、又は、それにより被保険者が結果として損失を被った他の財産、又は、人物との関係における意図、悪意、又は、嗜好といった精神的な要素を要するものである。問題となる行為が、泥棒が資産を得ようとして行った、より広範囲な活動の副産物である場合には、悪意は認められない。
・因果関係を有する原因は、座礁である。裁判官は、本件約款第16.1条(すなわち、原告が最小限のものにする手段を取ったか否か、という点)について検討するに、原告は、そのような手段を取ったもの、と判断する。
・海水の流入は、因果関係にあるものとしての海上の危険により発生した。海水が流入したことは、流入の原因が、偶然のものとしての海上の危険であることを、一応、確からしいものとして認定される。窓をたたき割り、ハッチを強硬に開封することを伴う盗難は、原告の視点からすると、完全に、偶然のものである。従って、その後の海水の流入は、海上の危険であると適切に認定することができる。

以上により、裁判官は、McKeever氏の勝訴と認定しました。

コメント

本判決は、損害が、付保されたリスクと免責されるリスクとにより、因果関係にあるものとして発生した場合には、当該損害は保険によりカバーされないことを確認しました。

保険約款の中の、一般的ではない条項を判断する際、裁判官は、本船の堪航性、悪意ある行為、損失と因果関係を有する原因、損失を最小限にするために被保険者により講じられた手段、及び、損失が偶然のものということのできる時点などの、海上保険の多くの側面を検討しなければなりません。

悪意ある行為の検討の際、本件裁判官は、2018年の「B Atlantic」号事件最高裁判決に言及しています(QCR中の2018年夏号第1事件、参照。)。

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

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Date2019/10/21