QCR Summer 2019-3: 船舶の航路計画(passage plan)が堪航性の1つの要素であることを示す裁判所からの注意喚起

事実

2011年5月18日、中国の厦門(Xiaamen)の港を出る間に、コンテナ船である「CMA CGM Libra」号が座礁しました。

船主は、貨物所有者に対して、共同海損の分担を求めて提訴しました。船主は、事故の原因は、「本船が座礁した、航路筋(fairway)の外にある、海図に示されていない浅瀬」である、と主張しました。

貨物所有者は、事故の原因は、航路計画が欠陥を有していたための、本船の不堪航である、として、共同海損の分担を拒絶しました。貨物所有者は、さらに、事故は「訴訟を提起しうる船主の過失」によるものであるから、ヘーグ・ルール第3条第1項の違反にあたる、と主張しました。

判決

裁判所は、船主の主張は認められない、と判示しました。貨物所有者は、原因たりうる不堪航を立証したから、共同海損を分担する責任を負わない、とされました。さらに、裁判所は、以下の点を判示しました。

1.船長の離路の判断は、過失のあるものである。海図に示された深度に依拠することは安全でなく、海図には訂正が施されるべきである、とする警告が、船員らには通知されていた。慎重な船員は、最低限の深度について何ら情報が与えられていない、また、海図に示された深度以下の地点が数多くあるような、航路筋の外側を航行することは安全ではない、と結論付けるであろう。

2.本船の航路計画は欠陥のあるものであった。IMOのガイドラインは、航路計画は、全ての危険な区域を包含するべきである、と指摘している。従って、厦門港の進入路において、海図に示された深度以下の地点が数多くあることは、危険の原因となる。

3.航路計画は、堪航性の1つの要素である。堪航性には、適切な海図などの、適切な書面を船上に備えるべきことも含まれる。

4.航路計画の策定における過失は、ヘーグ・ルール第3条第1項に基づき、本船を堪航性あるものとするべく、適切な注意を尽くすことを怠ったことに相当する。適切な注意を尽くすべき船主の義務は、他に委譲できないものである。

コメント

本件は、本船の航路計画が堪航性の1つの要素であることを再認識させる、裁判所からの注目すべき指摘といえます。それは、船主は、航海の間に使用すべき海図を最新のものにすること、船員への警告を検討することを含む、注意深い、正確な航路計画を策定する必要があることを強調しています。特に、意図する航海が制限された、困難な海域での航行を含む場合には、その必要があります。

本件は、また、ヘーグ・ルール第3条第1項に基づき、本船を堪航性あるものとするために適切な注意を尽くすべき船主の義務は、他に委譲できないものであること再認識させるものです。

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

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Date2019/07/26