QCR Winter 2018-2: 物品売買-売主及びその銀行が署名した補償状-転売契約を参照することによる、契約違反に基づく損害額の算定

Euro-Asian Oil SA v Credit Suisse AG – Court of Appeal (Gloster, King and Simon LJJ) [2018] EWCA Civ 1720) – 25 July 2018

背景

Euro-Asian Oil SA社は、Abilo社との間で、超低量硫黄を含有するディーゼル油(「ULSD」)をAbilo社が購入して、Euro-Asian社に対してCIFコンスタンザの条件により売却し、Euro-Asian社がこれをさらにReal Oil社に売却するという、4回の取引をなすことに合意しました。本件の紛争は、Euro-Asian社が購入に合意し、Abilo社が売却を合意した、2万mtのULSDに係る第4回目の取引に関係するものでした。

2010年10月1日付の売買契約は、修正された2000年インコタームズCIFに基づくものであり、また、Euro-Asian社からAbilo社に対する支払いは、信用状に基づき行われ、船荷証券の日付の120日後、船積書類の原本の呈示と引き換えに、行われる、との条項を含むものでした。同日、Crédit Agricole銀行は、Abilo社を受益者として、信用状を開設しました。船積書類が入手できない状況になり、支払が、受益者のインボイスとAbilo社の銀行であるCredit Suisse銀行の署名のある補償状(「LOI」)の呈示と引き換えに、行われました。

2011年1月6日、Credit Suisse銀行は、Crédit Agricole銀行に対して、LOIを呈示しました。Credit Suisse銀行とAbilo社がEuro-Asian社の利益のために署名したこのLOIは、2010年9月10日付の船荷証券に基づき、Puerto la CruzにてAriadne号に船積みされた20,000mtのULSDの貨物に関する一定の保証を規定していました。このLOIには、Credit Agricole銀行による約1500万ドルの購入代金全額の支払いと引き換えに、Abilo社は、権利を移転し、引渡しを実行しうる、換価可能な権利を有していることを保証し、また、Crédit Agricole銀行とEuro-Asian社をして、未だ流通する船荷証券から発生する、又は、上記の保証の違反から生じる全ての損害、費用、及び、経費から無害のものとすることを約する旨の規定が定められていました。

Euro-Asian社は、第4回目の取引における貨物を受け取ることができず、また、上記LOIに記載された貨物は実際には存在しないことが明確になってきました。従って、Euro-Asian社は、Credit Suisse銀行に対し、LOIの違反にもとづく請求を行いました。
4回の取引が履行された方法について、Euro-Asian社は、「回転木馬」のようだ、と記述されています。契約された貨物は、伝統的なCIF条件による売買契約の条項に従って引渡されず、他の船から引渡され、Constantzaにおけるタンクに保存されていた油に関して、荷揚ターミナルが発行したタンク保管証明書により、履行されました。信用状に基づいてAbilo社により呈示された書面は、既に荷揚された貨物に関するものでしたから、LOIにおける保証は、真実ではないことになります。

第4回目の取引において、うまくいかなかったことは、Abilo社が、金銭的な問題を抱え、第5回目の貨物を見つけることができす、従って、タンク保管証明書を得ることができなかったことです。

Credit Suisse銀行は、前の取引もまた、異常なものであったことを知りませんでしたから、Euro Asian社は、これら「独立した取引」における意図的な参加者であったから、LOI中の保証は適用されない、と抗弁しました。

商事裁判所の裁判官は、上記の主張を退け、関係するLOIに書面したことにより、Credit Suisse銀行は、「自らリスクを取ったもの」であり、また、「補償状に署名し、このように活動したことにより、もはや、信用状取引の銀行ではない」と判示しました。裁判官の決定は、Credit Suisse銀行に対し、それとAbilo社の連帯責任の80%の限度で、Abilo社に対する補償を命じるものでした。

Credit Suisse銀行は、上記の決定に対して控訴しました。控訴院は、以下の3つの争点について、判断しました。

1.本件の契約は、LOIを発効させるような、CIF条件により物を売り、引渡す契約であるか否か
2.LOI中の保証の違反によりEuro-Asian社が被った損害の算定
3.Credit Suisse銀行のAbilo社からの補償の範囲

判決

第1の争点に関する控訴は、棄却されました。それは、多くの部分において、裁判官の事実認定に依存するものでした。Euro-Asian社は、別個の取引の意図的な参加者ではない、とされました。裁判官は、さらに、Abilo社は、CIF条件に基づく契約に違反し、また、銀行とAbilo社は、信用状に基づき、責任を負う、と判示しました。

Euro-Asian社が請求しうる損害の算定については、Euro-Asian社は、貨物が良好な状態で到達した場合の価格を基に、損害賠償を請求していました。裁判官は、この点は否定し、Euro-Asian社がReal Oil社に対して発行したインボイスの価格が上限とされるべきである、と算定しました。控訴院判決は、この点を支持し、適用されるべき原則は、物品販売法第51条第2項であり、それによれば、物の引渡しの不履行に基づく損害の通常の算定は、売主の契約違反から通常の過程において、直接、かつ、自然に発生すべき損失による、とされました。

Euro-Asian社は、転売契約の履行のために、同じ貨物を指定することは、常に予期できますから、控訴院は、第1審裁判官が判断した損害額は、当事者が予期した損失を算定したものである、と判断しました。
第3の争点については、控訴院は、Credit Suisse銀行の控訴を認めました。Credit Suisse銀行は、LOIに署名しましたが、Abilo社が主たる債務者であり、もし、Credit Suisse銀行が最初に支払わなければならにとすると、同銀行は、Abilo社に対して求償を求める権利を有する、とされました。Credit Suisse銀行は、Abilo社に対して、100%の請求を求めることができる、とされました。

コメント

本決定は、伝統的な「回転木馬」のような取引を行う際に伴うリスク、特に、LOIに署名した銀行にとってのリスクを改めて想起させる有益なものです。本決定は、LOIにおける保証は、たとえ、それが真実でない者であっても、また、銀行が、「回転木馬」のような取引の存在に気づいていなかったとしても、署名をなした銀行に対して実行することが可能であることを確認しました。

また、控訴院は、原告が合意した転売契約の重要性と、その契約に基づき原告が請求しうる損害額の算定について、検討しました。各々のケースは、各々の事実関係によるものですが、転売契約が存在し、主たる契約に基づき引渡された物が転売契約の履行のために用いられることを両当事者が予期していたことを示す証拠が存在する場合には、主たる契約の違反に基づく損害額は、通常の市場価格によるのではなく、転売契約における価額を参照して算定されることになるでしょう。

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

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Date2019/03/13