LNGに含まれる窒素

LNG tanker ship

LNG船のデュアル燃料エンジンの出現は、海上輸送における重要な燃料転換を意味し、従来の燃料と、よりクリーンなLNG燃焼の両方を活用することで、運航の柔軟性を高め、排出ガスを削減しました。実行可能な燃料として、LNGの組成、特に窒素含有量と発熱量は、船舶エンジンにおけるボイルオフガス(BOG)の活用に直接影響するため、非常に重要です。当クラブは、特にLNGに高濃度の窒素が含まれている場合(米国の港から調達されるLNGによく見られる)、燃料消費量の増加や燃料の性能保証の違反に起因するLNGの用船契約に係わる紛争が増加していることを確認しています。

LNG輸送中に発生するボイルオフガス(BOG)は、船舶の推進システムに送られ、BOGと従来の舶用燃料である重油(HFO)および船舶用ディーゼルオイル(MDO)の両方にて運用可能なデュアル燃料エンジンの燃料として使用されます。LNG船の総燃料消費量を報告するため、燃料油換算(FOE)が採用されています。FOEは、LNGと液体燃料油の発熱量と密度に基づき、LNGの体積(m³)を液体燃料油の等価質量(Mt)に換算する契約上の算出方法です。これにより用船者は、消費されたBOGと等量の値が得られたかどうかを算出し、船主が保証速力と保証燃料消費量の基準を満たしていることを確認することができます。しかしこの算出方法は、エンジンで実際に燃焼されるBOGではなく、LNGの発熱量の値とみなされています。特にLNGに高濃度の窒素が含まれている場合、実際に消費されるBOGの量と、算出された燃料消費量の差異は大きくなります。

BOGとLNGは異なる組成であることに留意することが重要です。LNGに含まれる各成分の沸点が異なるため、沸点の高い成分である炭化水素のような重いガスに比べ、沸点の低い成分、すなわち窒素やメタンなどの軽いガスが先に沸騰します。窒素はLNGの成分の中で最も揮発性の高い成分なので、BOG内の窒素濃度は非常に高くなり、特に航海の初期には発熱量が著しく低下します。その結果、船舶の望ましい速力を維持するためには、より多くのBOGが必要となります。FOEの数値は一定かつ標準値から計算され、BOG内の窒素含有量の増加を考慮していないため、重大な報告エラーや燃料消費量の増加をめぐる紛争が発生する可能性があります。

一般的にShellLNGTime1の用船契約書式では、簡素化のため、固定のFOEが推奨されていますが、積荷航海中またはバラスト航海中にFOEの代表値を算出できるよう、改定されることが良くあります。しかしこの調整でさえ、BOGがLNGの組成であると仮定しており、実際のBOGの発熱量を求める方法がない場合、LNGに一定の発熱量を割り当てています。この方法は算出を簡素化する一方で、BOGの組成における潜在的なばらつきが考慮されていません。

窒素レベルを効果的に管理し、窒素濃度が上昇した際の影響を軽減するためには、航海中にLNGから発生するBOGの理解をより深めることが重要です。BOGの濃度が積載したLNGの組成と同値、もしくは固定値であると仮定する場合、算出された燃料消費量と実際に消費された燃料に乖離が生じる可能性があります。

燃料消費量をめぐる問題に対処するため、以下の手順が推奨されます:

1. 用船契約における最大窒素含有量条項

用船契約に最大窒素含有量を規定する条項を組み込みます。これにより、貨物輸送中の窒素レベルの管理の明確化が可能になり、一貫性も保つことができます。しかし、具体的に最大窒素含有量を定めるためには、当事者間の交渉が必要となります。現在、業界標準の条項は定められていませんが、INTERTANKOが推奨される適切な条項を作成していることが知られています。

2. 発熱量に基づくボイルオフガスの計算方法

消費されたボイルオフガス量に基づく燃料消費量の計算に代わり、仕出港と仕向港における貨物の総発熱量の差異に基づいて計算することができます。この計算方法は、使用されるエネルギー含有量をより正確に表すことができ、LNGの取引方法(体積に代わり、エネルギー含有量(MMBTU:英国熱量単位)に基づく取引)と一致しています。一方で、この計算方法には独自の課題があります:CTMS(Custody Transfer Measurement Systems)の測定値には許容誤差があり、これが計算の精度に影響を及ぼす可能性があります。

3. ガスクロマトグラフィー装置(GC)について

LNG船にガスクロマトグラフィー装置を設置すれば、窒素含有量やその他のガス成分を本船上にてリアルタイムで測定が可能になります。これにより、BOGの正確な組成およびエンジンによるエネルギー/燃料消費量測定における精度と信頼性が向上します。

4. 用船契約における紛争解決のためのボイルオフガスのモデル化

BOG内に含まれる窒素とメタンの含有量予測および総発熱量の計算をモデル化することは、BOGの保証違反に起因する紛争やクレームの際に有効です。モデル化のためには、強固なモデリング技術と関係者間でのモデル化方法の合意が必要です。

各解決策には、トレードオフ(両立しえない関係性)と考慮すべき点があることに留意することが重要です。解決策の選定は、具体的な状況、契約上の合意、運航上の実現可能性によって異なります。競争が激化しているLNG市場では、より厳しい燃料消費規制と、規制にかかる監視体制の強化が急務となっています。したがって、LNGの液相および気相の力学を包括的に理解することは、LNGの用船契約交渉や、交渉にかかる潜在的な紛争などに関わるすべての利害関係者にとって極めて重要です。

Ansuman Ghosh

Director of Risk Assessment

Date2024/08/08