08/09 - EUの第3次海上安全政策パッケージ - Third EU Maritime Safety Package

Trulli

EUの第3次海上安全政策パッケージ - Third EU Maritime Safety Package

EUの第3次海上安全政策パッケージ(通称「エリカ第IIIパッケージ」)を構成する一連の法案が2009年5月28日付官報で公布され、20日後の6月17日に施行されました。しかし指令(Directive)として合意された法案は、EU各加盟国で国内法として導入されるまで、また規則(Regulation)の形で合意された法案は、各加盟国内でその適用日が成立するまでは効力は生じません。

閣僚理事会*と欧州議会*による今回のエリカ第IIIパッケージが合意に達したことにより、エリカ号及びプレステージ号事故を受けて採択された過去の2つのパッケージに続き、ブリュッセルにおける本パッケージ(8つの指令及び規則)(註1)についての3年間にわたる徹底的な審議はようやく終了することとなりました。

P&Iクラブの国際グループは、欧州船主協会(ECSA)や各国船主協会と協力し、本パッケージの策定状況を注意深く見守って参りました。そしてこの3年間、本パッケージのうち国際グループに直接関わりのある下記3つの規則及び指令に関しては、その策定にあたり多くの情報を提供し、欧州議会、閣僚理事会そしてEU加盟国や欧州委員会*などの主な審議関係者に直接、意見表明をして参りました。 <*参考:欧州連合では、立法機関として加盟国の閣僚からなる閣僚理事会、行政執行機関として欧州委員会があります。これら機関に対し諮問機関の役割を果たしているのが欧州市民の代表からなる欧州議会です。>

  • 海事クレームに対する船主の保険に関する指令
  • 船客及びその手荷物の運送責任に関する規則
  • 船舶交通監視情報システムに関する指令の改訂

本パッケージを構成する指令・規則の条文は、以下のウェブサイトをご参照ください。http://eur-lex.europa.eu/JOHtml.do?uri=OJ:L:2009:131:SOM:EN:HTML

海事クレームに対する船主の保険に関する指令 (Insurance Directive)

本指令は、300総トンを越える船舶を所有する船主に対し、1996年LLMC(1976年海事債権責任制限条約を改正する1996年議定書)の責任限度額までをカバーする国際グループ・クラブの保険と同種の保険を付保すること、EU加盟国への入港時には、これを証明する保険加入証明書を保持していること、そしてその保険は1996年LLMCの責任制限の対象となる海事クレームをカバーしていることを要求しています。少数の加盟国との最初の折衝では、300総トン以上の船舶に対し、本指令の要件である保険付保証明としてP&I保険加入証明書(Certificate of Entry)を本船に備えおくことをPSCを通して徹底させるとしています。本指令をEU内で一律に実施させるために、国際グループは本指令の施行と実施に関する基本的理解を明確にするため、各国船主協会と連携しながら多くのEU加盟国政府と会合を重ねています。

2005年11月に欧州委員会が提出した本指令の原案には、旗国による証書発給、財政保証提供者に対する直接請求、船主の責任制限権の修正に関する条項が盛り込まれていました。論議となったこれら条項は、欧州議会での議論の中で海上安全の向上という理由からより厳しい方向へ修正されました。一方、閣僚理事会は国際グループや各国船主協会からの意見を受け、欧州委員会の原案にも欧州議会の修正案にも反対しましたが、問題となったこれら条項全てを削除することで欧州議会との最終合意に達しています。

EU加盟国による本指令の実施は、現行の責任と補償に関する国際的枠組みに影響を及ぼすものではありません。EU加盟国は2012年1月1日までに本指令に従った国内法及び関係規則を施行することが求められています。

船客及びその手荷物の運送責任に関する規則(PLR規則)

本規則は、アテネ条約(1974年の旅客およびその手荷物の海上輸送に関する国際条約の2002年議定書)を、国内海上航行に従事する客船および特定の内水航行船舶(註2)にまで適用を拡大すること、船内持込み手荷物の損害に関する責任規定を船客の移動用福祉機器等にまで適用を拡大すること、条約で定義された海難事故(註3)で船客が死傷した場合、当座必要な金銭を十分補える前払金を運送人が支払うことを規定しています。

本規則によるアテネ条約の国内運送及び内水航行への適用は多少複雑ですが、要約すると次のとおりです。

  • EU加盟国は本規則をすべての国内海上航行に適用することができる
  • EU加盟国は、EU 指令 98/18/ECに定義された"Class A"の船舶で単一加盟国内のみの船客の輸送については
    2016年12月31日まで、"Class B"の船舶の場合は2018年12月31日までPLRの適用を延期することができる
  • 2013年6月30日までに欧州委員会が適当と認めた場合には、本規則の適用範囲を"Class C"及び"Class D"の船
    舶に拡大する法案を提出する

Class A、B、C及びDの定義は下記をご参照下さい。

EU加盟国が上記各クラスの船舶に対し具体的にどのように本規則を適用するのかを確認するため、国際グループは各国船主協会とともに加盟各国と密に連絡を取っています。また、アテネ条約と本規則が発効したら実際どのように機能するのか、また同条約が世界的にいつ頃発効するのかを明らかにするために、多くの加盟国政府と会合を持っています。アテネ条約は10カ国が批准した日の12ヶ月後に発効しますが、2009年5月28日現在、条約を批准しているのは4カ国です。

本規則は、アテネ条約が適用される日をもってEUで施行されますが、いずれにしろ遅くとも2012年12月31日までに施行されることとなっています。

船舶交通監視・情報システムの構築に関する指令の改訂(VTM指令)

本指令は、船舶交通監視・情報システムの構築に関する2002年指令を改訂したもので、海上事故の重大化を防ぐために、遭難船を最善の状態で自国の港や安全な場所に避難させるための計画書を、加盟国が策定することを規定しています。またその計画書には財政保証と責任に関する手続きの条項を盛り込むことも規定しています。 本指令は、また支援を必要とする船舶の受入れを決定することのできる独立管轄当局を、加盟国が指定するよう求めています。2002年指令では、その当局は遭難船の移動を制限したり、指定進路へ航行するよう指示することができ、船長に対して環境上、海上安全上の脅威を取り除くよう公式通知を発令することができ、リスクの程度を判定する人員を本船に派遣し、船長に対する避難指示やパイロット、曳船などの手配をすることができると規定しています。

本指令の規定に基づき、現行の補償体制ではカバーしきれない遭難船の受入れによる経済的損失を当該港に補填するため、また選択可能な政策を検討するために、欧州委員会は加盟国の現行システムを検証し、2011年12月31日までに報告書を作成することになっています。本件に関し国際グループは、引き続き欧州委員会と連絡を取って参ります。

加盟国は2010年11月30日までに本指令に沿った国内法及び関係規則を施行しなければなりません。

国際グループ・クラブより同様の回覧が発行されています。

UK P&I クラブ 日本支店

註1. エリカ第IIIパッケージを構成する指令及び規則

  1. ポート・ステート・コントロール指令
  2. 海事クレームに対する船主の保険に関する指令
  3. 船客及びその手荷物の運送責任に関する規則
  4. 船舶交通監視・情報システム構築に関する指令
  5. 旗国の基準に関する指令
  6. 海難事故の調査に関する指令
  7. 船舶検査機関に関する共通ルール及び基準に関する規則
  8. 船舶検査機関及び海事行政当局のための共通ルール・基準に関する指令

註2. アテネ条約自体は国際運送、つまり出発地と到着地が異なった二国間運送にのみ適用されています。

註3. 海難事故とは、船舶の難破、転覆、衝突、座礁、爆発、火災あるいは故障をいいます。

Annex

COUNCIL DIRECTIVE 98/18/EC of 17 March 1998 on safety rules and standards for passenger ships

Article 4

Classes of passenger ships

1. Passenger ships are divided into the following classes according to the sea area in which they operate:

'Class A' means a passenger ship engaged on domestic voyages other than voyages covered by Classes B, C and D.

'Class B' means a passenger ship engaged on domestic voyages in the course of which it is at no time more than 20 miles from the line of coast, where shipwrecked persons can land, corresponding to the medium tide height.

'Class C' means a passenger ship engaged on domestic voyages in sea areas where the probability of exceeding 2.5 m significant wave height is smaller than 10 % over a one-year period for all-year-round operation, or over a specific restricted period of the year for operation exclusively in such period (e.g. summer period operation), in the course of which it is at no time more than 15 miles from a place of refuge, nor more than 5 miles from the line of coast, where shipwrecked persons can land, corresponding to the medium tide height.

'Class D' means a passenger ship engaged on domestic voyages in sea areas where the probability of exceeding 1.5 m significant wave height is smaller than 10 % over a one-year period for all-year-round operation, or over a specific restricted period of the year for operation exclusively in such period (e.g. summer period operation), in the course of which it is at no time more than 6 miles from a place of refuge, nor more than 3 miles from the line of coast, where shipwrecked persons can land, corresponding to the medium tide height.

Staff Author

PI Club

Date2009/07/30