回覧07/22: EUの第6次対ロシア制裁パッケージ-EU規則833/2014

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[7月22日改正版 ]
EUは2022年7月21日に「維持と協調」パッケージを公表しました。このパッケージには、EU規則833/2014の改正が含まれており、特に第5aa(3)条の特例措置が適用となりうる状況について明確化しています。

本改正を受け、クラブ回覧07/22を下記の通り修正しました。

アウトライン

2022年6月3日、EUは第6次対ロシア制裁パッケージを発表しました。本回覧では、以下の点に焦点を当てています。

  • 第6次対ロシア制裁パッケージにおける、原油・石油製品の輸送および保険提供に影響を及ぼす措置
  • EU規則833/2014附属書XIXに記載されている規則第5aa条の対象となるロシア国営企業との取引の禁止

メンバー各位

2022年6月3日、EUは第6次対ロシア制裁パッケージを発表しました。 本回覧は、EUの対ロシア制裁の包括的な要約を意図したものでないことをご承知おきください。 ここでは、以下の点に焦点を当てています。

  • 第6次制裁パッケージにおける、原油・石油製品の輸送および保険提供に影響を及ぼす措置
  • EU規則第5aa条の対象となる、附属書XIXに記載されてたロシア国営企業との取引禁止

EUの制裁措置は、EUの管轄外には適用されません。EU規則第13条は、適用対象を以下の通り規定しています。

  1. EU領域内
  2. EU加盟国の管轄下にある航空機または船舶上
  3. EU領域の内外を問わず、EU加盟国の国民であるあらゆる個人
  4. EU領域の内外を問わず、EU加盟国の法律に基づいて設立された法人、事業体または団体
  5. EU領域内で事業の全部または一部を営む法人、事業体または団体

ロシアの原油および石油製品の輸送と保険

EU規則第3m条は、2022年6月4日以降について以下のように規定しています。

  1. 附属書XXVに記載された原油または石油製品について、原産地がロシアである場合またはロシアから輸出される場合は、直接間接を問わず購入、輸入または移送を禁止する。
  2. 第1項の禁止事項に関する技術支援、仲介業務、融資、財政的支援またはその他サービスの提供は、直接間接を問わず禁止する。

附属書XXVに記載されている原油および石油製品は、次の通りです。

CNコード

説明

2709 00

石油および瀝青油 (原油)

2710

石油および瀝青油(原油を除く); 他の号に該当しないこれらの調製品(石油または瀝青油の含有量が全重量の70%以上で、かつ石油または瀝青油が基礎的成分をなすもの); ならびに廃油

EUへの輸送

EUへのロシア原油・石油製品の輸送は、第3m条に規定の特例措置を除き、原則禁止となりました。 「移送(transfer)」とは、税関を通しての物品の移動だけでなく、物品の輸送も含む広い概念です。 ロシア原油を他の原産地の原油と混ぜて輸送することも、禁止措置の対象となります。   

特例措置は、第3m条第3項(a)および(b)に規定されています。

  1. 第1項および第2項の禁止事項は、以下に対しては適用されない。

(a) 2022年12月5日まで、同日以前に締結され履行される、近い将来に引渡す一回限りの取引、またはCN 2709 00に該当する物品の購入、輸入もしくは移送に関し2022年6月4日以前に締結された契約の履行、またはこれらの契約の締結に必要な付随契約。ただし、これらの契約が2022年6月24日までに関係加盟国から欧州委員会に通知されていること、近い将来に引渡す一回限りの取引の場合は、取引の完了後10日以内に関係加盟国から欧州委員会に通知されていることを条件とする。

(b) 2023年2月5日まで、同日以前に締結され履行される、近い将来に引渡す一回限りの取引、またはCN 2710に該当する物品の購入、輸入もしくは移送に関し2022年6月4日以前に締結された契約の履行、またはこれらの契約の締結に必要な付随契約。ただし、これらの契約が2022年6月24日までに関係加盟国から欧州委員会に通知されていること、近い将来に引渡す一回限りの取引の場合は、取引の完了後10日以内に関係加盟国から欧州委員会に通知されていることを条件とする。

これらの特例措置において、

  • 「近い将来に引渡す一回限りの取引」とは、スポット市場での取引を意味します。
  • EUは、複数回の引渡しを予定してはならず、また石油は取引成立後30日以内に引渡されなければならないことを明確にしています。
  • EUの現行ガイダンスによると、用船契約は「付随契約」とみなされない可能性が高いと思われます。

    「付随契約」とは、他の(主)契約の履行に必要な契約、つまり、保険や融資など、それがなければ主契約が履行できない類の契約を指す。ただし、付随契約の履行が制裁規則の回避に繋がるものであってはならない。例えば、輸送に関する契約は、「移送」または「輸送」の禁止に該当するため、付随契約に関する例外措置の対象とはならない。

  • またEUは、既存契約に関する特例措置に関し、2022年6月24日までに届け出る必要があるのは商品の輸入に関する契約であることを明らかにしています。欧州委員会への通知義務があるのは、貨物を受領するEU加盟国です。

  • このような取引を行うメンバーは、特例措置の適用を受けるのに必要となる通知を確実に届け出るため、適切な措置を取るべきです。なお、保険契約や海上輸送に伴うサービスの契約について通知を行う必要はありません。

用船契約が付随契約にならないということであれば、輸送契約は以下のいずれかに該当しなければならない、ということになるでしょう。

  • 既存契約の特例に該当するためには、2022年6月4日以前の日付でなければならない。[1]
  • 輸送契約自体が(2022 年 6 月 4 日以前の売買契約またはスポット売買契約であるか否かにかかわらず)近い将来に引渡す一回限りの取引でなければならない。

EUへの輸送に対する保険

「財政的支援」が「あらゆる種類の保険および再保険」を含むと定義されているため、原油・石油製品のEU域内への輸送に関する保険(または再保険)も、第3m条に記載の特例措置に該当する場合を除き、禁止されています。

メンバーが上記いずれかの特例措置を適用できる場合は、保険は必要な付随契約であるとみなされるため、EU管轄域内の保険者も適用される諸条件に従う限り、当該航海のために保険を提供することができます。

第三国への輸送

EUは、規則第3m条が、EU加盟国へ輸入する貨物の購入、輸入、移送のみを禁止していることを明確にしています。ロシアからEU以外の第三国へ輸出される原油や石油製品の輸送を禁止している訳ではありません。  

したがって、EU加盟国の法律に基づいて設立された企業がロシア産の原油・石油製品を第三国へ輸送することについて、原則としては許されています。しかし、制裁対象者が取引に関与していないかについては確認する必要があります。さらに、以下でご説明する通り、EU管轄域内の保険者または再保険者は、この取引に対して保険や再保険を提供することは原則禁止されています。

第三国への輸送に対する保険

EU規則第3n条は、次のように規定しています。

  1. ロシアを原産地とする、またはロシアから輸出される附属書XXVに記載された原油または石油製品の第三国への輸送(STSを含む)に対し、直接的または間接的に技術支援、仲介業務、融資または財政的支援を行うことを禁止する。
  2. 1 項の禁止は、次に掲げるものには適用しない。

(a) 2022年6月4日以前に締結された契約、またはその契約の履行に必要な付随契約の、2022年12月5日までの履行。

(b) 附属書XXVに記載された原油または石油製品の輸送で、これらの貨物の原産地が第三国であり、ロシアで積載し、ロシアを出発し、またはロシアを通過したに過ぎない場合。 ただし、これらの貨物の原産地がロシアでなく、かつ貨物の所有者がロシア人でない場合に限る。

上記第3n条により、EU規則の適用範囲となった原油および石油製品の輸送に対する保険提供は、同条の特例措置に該当する場合を除き、禁止されることになりました。したがって、EU規則の適用管轄地にある船主は合法的に製品を輸送することはできるかもしれませんが、EU管轄域内の保険者は、その取引に保険を提供することができません。国際P&Iグループ(IG)を構成する大多数のクラブはEUの管轄域内にあります。EU域外に拠点を置くクラブを含み、すべてのIG加盟クラブは、EU域内に拠点を置く再保険者が参加する再保険プログラムを利用しています。IGクラブのいずれかが、これら制裁措置によりプールクレームの分担金の拠出を禁じられた場合、各クラブの制裁規定が定めるとおり、この不足分は個々のメンバーにご負担いただくことになります。この原則は、1億米ドル以上のクレームについて、IG再保険プログラムに参加しているEU再保険者が制裁措置により支払いを禁止された場合にも適用されます。

前述のとおり、2022年6月4日以前に締結された契約の12月5日までの履行については、この保険提供の禁止措置は適用されません。IGは現時点で、2022年6月4日までに締結する必要があるのは保険契約であると理解しています。これは、同日までに保険契約が締結されていなければ、第3n条によりその履行が禁止となる契約ということです。この前提を踏まえると、6月4日以降に保険契約を締結した場合は保険提供することは禁止されることになります。

EU発行のFAQsには、以下の通り書かれています。

EU の保険会社は、ロシアの石油を輸送する船舶に保険を提供し続けることができますか?

- 202264日以前に締結された契約については125日まで履行できますが、6ヶ月の猶予期間の終了後は、EU事業者は附属書XXVに記載された物品の第三国向けの海上輸送に対する保険提供および融資の提供は禁止されます...

EUの事業者は、ロシアの石油を輸送する非EU籍船またはEU籍船に保険や再保険を提供することができますか? 例えば、ロシアからインドへ原油を運ぶインド籍船がEUの会社より保険提供を受けることはできますか?

- いいえ。202264日以前に締結され、2022125日までに履行される保険契約を除き、できません。

2022年6月4日以前に発生したクレーム、あるいは2022年12月5日までの猶予期間中に発生したクレームについて、保険者は、猶予期間の終了後にどのような対応が許されるかは不明です。

ロシア国営企業との取引

EU規則第5aa条により、EUの管轄域内にある者は、附属書XIXに記載されている特定ロシア国有企業との取引に、「直接または間接的に関与」することが禁じられています。 この禁止事項は、EU域外で設立された法人、事業体、団体で、その所有権の50%以上を附属書XIXに記載されている国営企業が直接または間接的に所有しているもの、および上述の国営企業の代理または指示で行動する法人、事業体、団体にも適用されます。

第5aa(3)条では、禁止事項は以下に対しては適用されないとしています。

(a) 第3m条または第3n条で禁止されていない限り、天然ガス、石油精製品を含む石油、ならびにチタン、アルミニウム、銅、ニッケル、パラジウムおよび鉄鉱石を、ロシアからまたはロシア経由でEU諸国、欧州経済領域(EEA)加盟国、スイスまたは西バルカン諸国へ、直接または間接的に購入、輸入または輸送するために絶対に必要とされる取引

(b) 附属書XIXに記載された法人、事業体または団体が少数株主である、ロシア国外のエネルギープロジェクトに関連する取引

(c) 附属書XXIIに記載された石炭およびその他の固体化石燃料の購入、輸入またはEU内への輸送を目的とする2022年8月10日までの取引

(d) 1項に掲げる法人、事業体、または団体が関与する、2022316日以前に締結された合弁事業または同様の法的取決めを、202295日までに清算するために絶対に必要な取引(売却を含む)

(e) 附属書XIXに記載された法人、事業体または団体に対する電子通信サービス、データセンターサービスおよびそれらの運用、保守、ファイアウォールの提供を含むセキュリティおよびコールセンターサービスのために必要なサービスおよび機器の提供に関連する取引

(f) 本規則により輸入、購入および輸送が認められている医薬品、医療品、小麦、肥料を含む農産物および食品の購入、輸入または輸送に必要な取引

(g) 加盟国における司法、行政又は仲裁手続へのアクセスを確保するため、並びに加盟国で下された判決又は仲裁判断の承認又は執行のために厳密に必要な取引であって、当該取引が本規則及び規則(EU)第269/2014号の目的と合致する場合。

この禁止措置は、契約関係がない場合であっても、経済的価値のあるあらゆる種類の利益の提供(サービスや支払いなど)に適用されます。 したがって、(港がロシア国内にあるか否かにかかわらず) 附属書 XIX の事業者が所有する港に寄港する船舶も含まれます。 この禁止措置は、船舶が該当する港で第三国へ輸送される貨物を積む場合にも適用されます。

Transneftは、附属書 XIX に記載されている国営企業の一つです。 2022年6月24日現在のノボロシスク・コマーシャル・シーポート(NCSP)のウェブサイトには、PJSC TransneftがNCSPの支配株主で62%のシェアを持っていると記載されています。さらに重要な点は、「NCSP グループは、PJSC NCSP、Primorsk Trade Port LLC、JSC Novorossiysk Ship Repair Yard、JSC NCSP Fleet、SC NCSP Fleet、IPP LLC、Baltic Stevedore Company LLC および <<SFP>> LLC で構成されており、PJSC NCSPとPJSC Transneftは、NCS LLCを同等割合で所有している。」と書かれていることです。

船主がこれらの事業体のいずれかと直接的または間接的に関与することは、特例措置に該当しない限り、禁止事項に違反することになります。

例えば、第5aa条(3)(aa)は、仕向け地(EUまたは非EU港)にかかわらず、ロシアからまたはロシアを経由してEUに石油を輸入、購入、輸送するために絶対に必要な取引に対する特例を規定しています。これは、第3m条の石油輸入に関する制限や要求事項に従う限り、EUの船舶が第5aa条の制限に該当する港から合法的に石油を輸送できることを意味します。

しかしながら、非EU圏内の港への輸送については、前述の第3n条(2)(a)と(b)に従わない限り、クラブは当該取引のためのカバーは提供いたしかねますのでご留意ください。

EU規則第13条は、EU域内に登録されている船舶だけでなく、EU域内で一部またはすべての事業を行う者(個人、船舶管理会社など)にも禁止が適用されることを明確にしています。

附属書 XIX に記載された企業が所有する港に寄港する船舶に対し保険を提供することは禁止されていませんが、EU 制裁の対象となる保険者は、クレームや事故が発生した際、港へ直接または間接的に支払いを行ったり、発生した損害の賠償をしたりすることは認められないでしょう。

まとめ

制限事項は全文を読み、文脈の中で捉えることが重要です。 大まかな概要として、現在の状況は以下のとおりです。

  • EUの船主は、ロシアの石油および石油製品を第三国へ輸送することができます。(ただし、制裁対象者の関与がないことが条件となります)
  • EU の保険者がロシアの石油・石油製品の第三国への輸送に対して保険を提供することは禁止されています。ただし、2022年6月4日以前に締結された契約については、2022年12月5日まで履行が認められます。 2022年12月5日までの特例措置が適用されるためには、保険契約が6月4日以前に締結されている必要があると考えられます。
  • EU の船主は、EU規則に記載された特例措置を除き、ロシアの石油を EUへ輸送することを原則禁止されています。当該輸送に対する保険提供も禁止されています。

メンバーの皆さまには、クラブの保険カバーは違法取引には適用されないことにご留意ください。保険提供により、クラブが制裁のリスクにさらされる、あるいは制裁に違反する可能性がある場合は、たとえ対象の取引自体が合法であったとしても、保険カバーが打ち切られることがあります。

その他の情報

EU規則の統合版はEUR-Lexでご覧いただけます。: EUR-Lex - 02014R0833-20220604 - EN - EUR-Lex (europa.eu)

本回覧におけるEUのガイダンスや説明は、EU理事会規則No.833/2014およびNo.269/2014の実施に関するEU統合FAQ(ロシアのウクライナ軍事侵攻を受けて採択された制裁に関する統合版「よくある質問」)を参照しています。:  Consolidated version of the frequently asked questions concerning sanctions adopted following Russia’s military aggression against Ukraine (europa.eu)

 

国際グループのすべてのクラブは同様の回覧を発行しています。

 

UKP&Iクラブ 日本支店

[1] EU域内への石炭輸送について、8月10日までの特例措置が適用されるためには、用船契約は4月9日以前に締結されている必要があります。

Staff Author

PI Club

Date2022/07/28