新たな日本の海商法

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新たな日本の海商法

日本の海商法(以下「海商法」)は、まず、1899年、日本の商法典(以下「商法」)の一部として制定されたが、1世紀以上、海商法は、実質的、又は、重要な改正がなされなかった。

1957年、日本は、国際海上物品運送法(以下「COGSA」)を制定し、ヘーグ・ルールを国内法化した。このCOGSAは、1992年、1968年ヘーグ・ヴィスビー・ルールと1979年議定書を日本法に摂取するため、改正された。改正された1992年法(「ジャパンCOGSA」)は、1993年6月1日に発効した。規定に基づき、ジャパンCOGSAは、外航に適用されるから、海商法の規定は、主として、日本国内の内航に適用されるものと理解された。

上記の内航に関係する訴訟は多く存在しなかったので、海商法は、日本の船舶業界において多くの注意を払われなかった。商法の上記制定以降、日本の船舶業界には急速な技術の発展が遂げられ、また、業界全体としてもその他の発展がみられたため、長年、商法の元々の規定は時代遅れのものとなり、商法を改正し、現代的なものとする必要性が生じてきた。

新商法

2014年4月、日本政府は、商法改正のためのワーキング・グループを設立した。議論の末、2018年5月、新法が成立し、2019年4月、施行された。商法の改正は広範に及ぶが、本稿においては、日本法が適用される事案に関与することとなるであろうメンバーの参考のため、新法の重要な側面のみに焦点を当てる。海商法の条項は、ジャパンCOGSAにおいて規定されていない事項については、外航にも適用される。今回の商法改正は、多くの基本的な事項にも触れられているから、改正法を考慮する価値はあるものといえる。

危険物

第1に、新法は、荷送人に対して、危険物の船積前にこれを運送人に通知する義務を課した。荷送人は、これを怠った場合、その危険物の運送による損失、又は、損害について、責任を負うことになる。

荷送人のこの義務が「無過失責任」か「過失責任」か、という問題が、海商法の現代化の過程において長く議論された。後者の原則によれば、荷送人は、危険物についての通知を怠ったことについて過失があるものと認められた場合のみ、責任を負うこととなる。他方、前者の原則は、厳格な原則であり、荷送人は、過失がない場合であっても責任を負うこととなる。日本では、英国法の下では、そのような責任は無過失責任であると理解されている(Giannis NK号事件判決([1998] 1 Lloyd’s Rep. 337)における判示)。もっとも、ヘーグ・ヴィスビー・ルールは、荷送人側のこのような義務を明確には規定していない。新海商法は、日本の契約法上の一般的な原則として、過失責任の原則を採用した。

航海上の過失

第2に、旧海商法には、船主が運送契約中に航海上の過失免責の規定を挿入することを禁止する明文規定があった。船主が、契約にそのような免責規定を入れたとしても、たとえ、船主の相手方当事者がその規定に合意したとしても、法の効果により、そのような規定は無効とされた。

新海商は、上記のような明文規定を削除した。海商法の改正過程においては、航海上の過失についての船主の免責について、ヘーグ・ヴィスビー・ルールの規定を明確に反映させることも主張されたが、これは採用されなかった。新海商法の元では、船主は、契約の相手方との間で、契約中に当該免責規定を挿入する合意を得ることができれば、航海上の過失についての免責を享受することができる。

定期傭船契約

第3に、新海商法は、初めて、「定期傭船契約」又は「定期傭船者」という文言を規定した。旧法は、定期傭船契約に関する規定を一切、有しなかった。

新海商法においては、「定期傭船契約」とは、「船主は、船舶を適切に艤装し船員を乗船させ、一定の期間これを傭船者に利用させることを約し、傭船者は、その船舶の利用の対価として傭船料を支払うことを約する契約」と定義した。これは、当該契約が定期傭船契約とみなされるための最低限度の要件と理解されている。

衝突の事案において、他船が被った損害について、定期傭船者が責任を負うことが判示されたことがある(東京地裁1974年6月17日判決(判例時報784号77頁))。本件での裁判官は、船舶の利用に関連して生じた請求について、「船舶賃借人」が船主と同様の責任を負うとの旧商法の規定を適用した。当該裁判官は、定期傭船者は、「船舶賃借人」と同様の立場に立つものと判断した。

上記の「船舶賃借人」の責任に関する規定は、新法においても残っているが、今日においては、定期傭船契約における傭船者には適用されない。しかしながら、上記の判決は、新法においても、船舶を実質的にコントロールし、船主と同様の者とみなすことのできるような傭船者については、依然、有効なものとされている。

複合運送

第4に、新法は、商法において初めて、「複合運送」という文言を採用し、複合運送船荷証券の発行のための規定を置いた。

「複合運送」とは、航空、海上、及び、陸上運送の内2つ以上の形態により、貨物を運送すること、と定義づけられた。議論された点は、どこで、又は、いつ、損害が発生したかが決定できない場合の運送人の責任をいかに判断するか、であった。最終的に、新法においては、あるルールの適用を求める当事者の側で、当該ルールが適用されることを証明する責任を負うとの規定が採用された。

衝突における時効

第5に、旧法においては、船舶衝突に係る請求権の消滅時効は、請求者がその船と衝突した他船を認識した時から1年の経過による、とされた。しかしながら、衝突条約は、衝突の時から起算される、2年の時効期間を規定している。新海商法は、同様に、衝突による請求権は、衝突の後2年間の消滅時効にかかる、と規定した。もっとも、人身損害に係る請求については、請求者が、衝突による損害、及び、他船を認識してから5年の時効にかかる。

衝突条約はまた、貨物損害については、各々の船舶の過失割合に応じて、各船舶に対して請求することができることを規定する。しかしながら、求償は、請求者は、両船及びその船主に対して、損失の100%を請求できる、と規定していた。この規定は、新法においても維持されている。

船舶先取特権

第6に、船舶先取特権に関する規定が、時代遅れの規定を削除することにより、改正された。日本の船舶先取特権について特有の側面としては、対物訴訟と異なり、船舶先取特権による船舶の差押えは、訴訟の開始ではない。それは、請求権の強制執行の開始である。従って、当事者は、主張をやり取りする時間を与えられない。特に、船舶側当事者は、裁判所による競売手続において、異議を申し立てるについて、極めて制限的な機会しか、与えられない。

新法は、上記の船舶先取特権の基本的な性質を変更していない。しかしながら、旧法におけるような、今日においては意味のない、重要性を欠く、また、存在しないような請求権を削除することにより、船舶先取特権が付与される請求権の種別を減少させた。

新海商法においては、船舶先取特権の付与される請求権は、(a)人身損害又は生命に対する損害、(b)海難救助費、又は、共同海損における分担請求権、(c)租税、水先人料、又は、曳船費、(d)燃料油を含む、航海の継続に必要なもの。(e)船員の給与、及び、(d)貨物損害、である。これらの請求権間の優先性は、上記のリストされた順番による。

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

The UK P&I Club is very grateful to Yosuke TANAKA sensei of Tanaka & Partners, LPC, https://tylpc.jp for taking the time to produce the above article for the Club.

Yosuke TANAKA

PI Club

Date2020/12/10