BL約款の下での荷主側の冷凍コンテナの温度設定の責任と損傷貨物の受取義務

Refrigerated containers on ship - low res

Tokyo District Court Judgment: 2018 (Wa) No. 26723 and No. 28332 Maritime Law Review (“KAIJIHO KENKYU KAISHI” in Japanese)1 (The Japan Shipping Exchange, Inc.) 2021.5 (No.251) P71-P80

事実

(1) 訴外O社(「荷送人」)と海上運送事業等を行う被告Y(「運送人」)との間で、40フィート冷蔵コンテナ3本に積まれた本件冷凍肉を米国のオークランド港から東京港までを海上輸送する旨の契約(本件運送契約)が2017年10月21日までに成立し、被告YからO社に船荷証券(本件船荷証券)が発行されました。本件運送契約では、コンテナ内の温度を華氏0度(摂氏零下18度)を維持することとされ、本件船荷証券に同温度が記載されていました。原告Xは、食料品の輸出入及び販売等を行う会社であり、「荷受人」とされていました。

(2) 本件船荷証券の裏面約款には次のような条項がありました。

ア. 冷蔵又は特殊のコンテナが荷主によって詰められる場合には、荷主は、その船積のために物品を適切に用意し、詰め、かつ、当該物品に適した温度に設定しなければならない(13項(4))。なお、「荷主」とは、物品の荷送人、コンサイナー、荷受人、所有者、受取人及び所持人並びにそれらの者のために行動する者をいうと定義される(1項(1)(h))。

イ. 特定の温度が本件船荷証券の表面に記載されている場合であっても、また、運送人又は荷主のいずれがコンテナを詰め、又は温度を設定したかにかかわらず、運送人は、冷蔵又は特殊のコンテナ内の温度の維持については保証せず、専ら荷主がその危険を負担する(13項(5))。

ウ. 荷主は、タリフ(標準運賃表)に規定されている期間内に物品の引渡しを受けなければならない(19項(2))。

エ. 荷主は、本件船荷証券に摂取されているタリフに定められた無料保管期間及びデマレージ(保管料)に関する規定に留意しなければならない(19項(4))。

(3) 本件冷凍肉は、2017年10月16日、O社が自らコンテナ3本に詰め込み、同月19日、オークランド港にてO社が委託したトラック業者により、被告Yが委託するターミナルオペレーターに引き渡たされました。その後、同月21日、コンテナオペレーターにより、同港にて本船に船積みされました。

(4) 被告Yは、2017年10月22日、海上輸送中、本件冷凍肉が積み込まれたコンテナ3本のうち1本(本件コンテナ)の内部温度が摂氏0度に設定されていることに気づき、同月23日に是正しました。なお、少なくとも同月19日から被告Yにより同月23日に温度が是正されるまで、コンテナ内の温度設定は、意図されていた温度とは異なり、摂氏0度でした。

(5) その後、2017年11月2日に、本件冷凍肉が積み込まれたコンテナ3本は、東京港に到着し、荷揚げされました。しかし、原告Xは本件コンテナ(1本)についての受け取りを拒絶しました。

(6) そして、原告Xは、O社に本件コンテナを返送する旨を伝え、原告Xと被告Yの子会社との間でシップ・バックするということで手続きが進められていると考えていると、O社に伝えました。

(7) 最終的に、本件コンテナは、2018年7月30日までの約9か月間、被告Yにより保管され、動物検疫所の指示に従い、同日被告Yにより焼却処分されました。

(8) 原告Xは、①被告Yが温度設定を誤り本件冷凍肉が損傷したことや、②原告Xと被告Yと間でシップ・バックの合意がしたにもかかわらず、無断で本件保管肉を処分したとして、被告Yに対して、冷凍肉の売買代金相当額6万3897ドルなどを求めて提訴しました(第1事件)。

(9) 他方、被告Yは、原告Xに対して、本件船荷証券の裏面約款の規定に基づきコンテナの受取義務に違反するとして、保管料及び処分費用として1614万5939円などを求めて提訴しました(第2事件)。

争点

(争点1)
被告Y(運送人)は本件コンテナ内の温度の設定、維持及び管理をすべき義務を負っていたか。

(争点2)
本件コンテナに積み込まれた本件冷凍肉が本件運送契約によって引き受けられた運送の区間内において損傷したといえるか。

(争点3)
原告X(荷受人)と被告Y(運送人)との間で被告が本件コンテナを米国に返送する旨の合意がされたか。

(争点4)
原告X(荷受人)は本件コンテナの受け取り義務を負い、本件約款に基づき本件コンテナの保管料及び本件冷凍肉の焼却処分費用を負担するか。

判決

裁判所は、以下の理由から、原告X(荷受人)の請求を全部棄却する一方で(第1事件)、被告Y(運送人)による原告Xに対する保管料と処分費用請求については、全額認容しました(第2事件)。

1. (争点1)

被告Y(運送人)は、本件コンテナ内の温度の設定、維持及び管理をすべき義務を負っていたか

(1) 本件約款の内容

本件約款13項(4)及び同項(5)では、本件コンテナのような冷凍冷蔵コンテナの温度設定については荷主がその危険及び責任を負担することと定められいる。そのため、運送人は、本件船荷証券の表面に特定の温度が記載されている場合であっても、また、運送人又は荷主のいずれが温度設定をした場合かにかかわらず、冷凍冷蔵コンテナ内の温度の維持について保証しない。

そのため、被告Yは本件コンテナ内の温度の設定、維持及び管理をすべき義務を負わない。

また、原告Xが、本件約款13項(4)及び同項(5)の内容を知らされていなかったとしても、船荷証券の裏面に詳細な約定が記載されていることは国際海上運送においては一般的であり、原告Xが、当該約款の内容を具体的に確認していなかったとしても、その拘束を受ける。

なお、本件船荷証券の裏面を見れば本件約款の内容は明らかであり、さらに原告Xが国際取引に関わる事業者であることからすれば、被告Yは、本件約款13項(4)及び同項(5)の内容を積極的に伝えて、説明すべき義務を負わない。

(2) 本件約款は国際物品海上運送法15条1項に反するか

本件約款の内容が、荷主に不利な特約を禁止する国際海上物品運送法15条1項(改正後11条1項)【註:Hague Visby-Rules Article III Rule8】により無効になるか。

国際海上物品運送法15条3項(改正後11条3項)【註:Hague Visby-Rules Article VII】は、運送品の船積前の事実により生じた損害について15条1項の適用を除外すると定める。その場合、荷主に不利な特約も有効と扱われる。本件においては、本件コンテナが本船に船積みされる前の時点から既に本件コンテナの温度設定に誤りが生じていたことから、本件冷凍肉の損傷も船積前の事実により生じたものと認められ、15条3項により15条1項の適用は除外される。

2. (争点3)

原告X(荷受人)と被告Y(運送人)との間で、本件コンテナを米国に返送する旨の合意がされたか。

原告Xは、被告Yが本件コンテナを米国に返送する旨の合意に反して本件冷凍肉を原告Xに無断で焼却処分したと主張しているが、原告Xと被告Yとの間において、本件コンテナの返送に関して具体的な合意がされていたとは認められない。

3. (争点4)

荷受人は本件コンテナの受取義務を負い、本件約款に基づき本件コンテナの保管料及び本件冷凍肉の焼却処分費用を負担するか。

(1) 本件約款19条(2)が、荷受人の受取義務を定めたものではないか。

タリフには無料保管期間のみならず、期限が過ぎた場合の保管料まで規定されていることからすると、本件約款19項(2)は、単に受取期限を定めたものではなく、荷主の受取義務を定めたものである。

(2) 荷受人が本件コンテナを受け取らなかったことに正当な理由があるか

前述したように、荷受人と運送人との間で運送人が本件コンテナを米国にシップ・バック返送する旨の合意がされたとの事実は認められないから、荷受人が本件コンテナを受け取らなかったことにつき正当な理由はない。

4. 結論

(第1事件)原告Xの請求については、被告Yに本件コンテナ内の温度の設定、維持及び管理をすべき義務はないから、争点2について判断するまでもなく、理由がない。

(第2事件)被告Yの請求については、原告Xが本件コンテナの受取義務に違反し,その債務不履行により被告Yに本件コンテナの保管料及び焼却処分費用に相当する損害が生じたと認められるから、いずれも認められる。

コメント

本件は、コンテナ輸送における船荷証券の裏面約款の条項の有効性について確認された点に意義がある判決です。

すなわち、(1) 荷主によって詰め込まれた冷蔵コンテナなどの温度設定についての責任については、船荷証券の表面に設定温度の記載があっても、運送人には責任ではなく荷主の責任とする旨の船荷証券の裏面約款における有効性が確認されたこと、(2) 荷受人は、損傷の疑いのある貨物であっても、受取義務があり、所定の保管料が生じることが確認された点で意義があります。

また、(3) シップ・バックについては、原告が合意に基づく主張だけを展開したことから、法律上の荷主の処分権の内容として含まれないとの解釈論については、裁判所は判断せずに、個別具体的な事情を考慮し、本件では、返送の時期や費用の負担について、原告X/訴外O社と被告Yとの間で具体的な協議がなされたことを認める証拠が認められなかったこと等から、荷送人(又は荷受人)と運送人との間のシップ・バックの合意を否定しました。

本件については、船荷証券の裏面約款の解釈であるものの、このような裏面約款がある場合の実務上の対応についての参考になるものと思われます。

以上

UK P&I Clubは、本判例の要約を提供していただいた木村政道弁護士の貢献に深く感謝いたします。

弁護士法人MYO 代表パートナー   木村政道弁護士

gate@myocean-law.jp

http://www.myocean-law.jp/

 

(参考)
東京地方裁判所判決 平成30年(ワ)第26723号、及び第28332号
海事法研究会誌(日本海運集会所)2021.5(No.251)P71-P80

Staff Author

PI Club

Date2021/09/17