QLU Spring 2017 May-3:英国控訴院は、運送人は、ヘーグ(又はヘーグ・ヴィスビー)ルール第IV条第2項 (a)-(p)に基づく抗弁を主張するためには、自己に過失がなかったことを証明する必要はないことを、確認しました。
袋詰めされたコーヒー豆が、内張りを施し通風機能のないコンテナに入れられて運送されましたが、結露による損害を被りました。運送は、LCL/FCL約款により、すなわち、運送人がコンテナの用意とその損傷について責任を負う旨の約款の下、行われました。船荷証券は、ヘーグ・ルールを摂取しており、外観上良好な状態で船積された旨の記録がありました。
運送人に対する請求は、ヘーグ・ルール第3条第2項に違反し、適切に、かつ、注意深く、貨物を船積、取扱、積付、運送、保管、注意、及び、荷揚することを怠ったこと、又は、その点に過失があったこと、に基づくものでした。運送人は、同ルール第4条第2項(m)により、貨物に隠れた欠陥があったこと、さらに、損害が避けられなかったこと、を抗弁として、主張しました。
両当事者間では、次の点については、争いはありませんでした。
- コーヒー豆のような、湿りやすい貨物が温暖な地から寒冷地に運送されるような場合には、結露は避けられないこと、及び、袋詰めのコーヒーが、内張りを施し通風機能のないコンテナで運送された場合、結露による損害を防ぐ特定の方法はないこと。
- 左の態様の運送は、広く行われている商業上認められた方法であること。
- 自己のコンテナに貨物を詰める義務が運送人により引き受けられている場合には、運送契約には、運送人の積付の義務の一部として、左の義務が含まれるものと解釈される。
- 運送人による第3条第2項の違反に基づく請求原因を立証するためには、荷主たる原告は、外観上良好な状態で船積されたが、損害を受けた状態で引渡されたことを立証しなければならない。
- これに対して、運送人は、貨物がその保管下にある間に何が生じたかを説明しなければならない。運送人がその説明をなしえない場合には、原告の請求は、ほぼ、成功するであろう。
- 運送人の説明が第4条第2項の免責事由を主張するものである場合には、その証明責任は、運送人にある。運送人は、第2項(q)のキャッチ・オール条項による場合でない限り(そのような場合は、過失がなかったことを立証する責任が運送人にある。)、過失がなかったことを証明する必要はない。
- 運送人が、免責事由としての危険に基づき、一応確からしい証明を行った場合には、運送人側に過失があったことを証明する責任が、荷主たる原告に移転する。
運送人は、第4条第2項(m)に基づき、隠れた欠陥があったとの有効な抗弁を有していました。そこで、裁判官は、この抗弁が、「良好なシステム」を運送人が実施しなかったことにより、否定されるか否か、を検討しました。さらに、貨物への損害が避けられないものであった、という、運送人の別の抗弁も、支持されました。
「良好なシステム」:運送人は、貨物が損傷なく引渡されることを確保する義務はなく、一般的な業界の慣例に従い、合理的な注意が払われることを確保する義務がある。荷送人が、一般的な慣例よりも高度な注意義務を課すことを望む場合には、通風装置の付いたコンテナを使用するための追加運賃を支払うべきである。
コメント:当クラブは、本判決は、貨物の隠れた欠陥という抗弁が提起された場合の両当事者の証明責任を分析するに当たり、また、良好なシステムを採用すべきであるという運送人の責任は、完全に損害を防止するようなシステムを採用することを意味しないことを説明する上で、有益であると考えます。
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