QCR Spring 2019-9: 管轄に関する異議-期間内に行われたか-制裁からの救済-保険に関連する事項ー英国民事手続法第11条第5項
Griffin Underwriting Ltd. v Varouxakis (Free Goddess) [2018] EWHC 3259 (COMM) (28th November 2018)
事実
原告であるGriffin社は、本船「Free Goddess」号を、誘拐及び身代金保険約款に基づき、アデン湾を通る30日間のラウンド・トリップについて、付保しました。エジプトからタイへの航海中、本船は海賊に拿捕され、ソマリアに持っていかれました。原告は、上記保険約款に基づき、6500万ドルを支払い、本船は解放され、オマーンに到着しました。
共同海損が宣言され、Griffin社、船主、及び、船舶管理者との間で合意がなされました。通常は、Griffin社は、共同海損分担金について、船荷証券所持人に対し請求を行ったはずです。しかしながら、本船は、船主により、オマーンにて放棄されましたので、船荷証券の履行と貨物の引渡しは行われませんでした。その代わりに、本船は売却され、裸傭船契約に基づき、チャーター・バックされました。
船荷証券所持人は、船主に対して、貨物の引渡しを求めて、ロンドンにて仲裁を提起しました。仲裁においては、様々な命令が船主に対して下されましたが、それらは順守されませんでした。
従って、Griffin社は、商事裁判所において、被告に対し、その者がコントロールする船主や船舶管理者による和解の合意の違反を誘引したとして、訴訟を提起しました。Griffin社は、船主が船荷証券に基づく航海を完了しなかったことにより、保険代位により取得した共同海損分担金を荷主から回収する権利を失った、と請求しました。
訴状が送達された後、被告は、送達の受領(acknowledgement of service)を裁判所に提出しながら、その管轄を争うことを示唆しました。Griffin社は、被告の主張は時機を逸している、と主張しました。被告は、当事者は、48時間前の通知で解除されるものであり、また、その後解除されたものの、全ての訴訟について、猶予を合意した、として、自己の主張の期限の延長を求めました。
判決
Males裁判官は、次のとおり、判示しました。
1.被告は、英国民事手続法第11条第5項に基づき、裁判所の管轄を承認したも
のとみなされるべきである。なぜならば、被告は、送達の受領を提出してから、
裁判所の管轄を争う申立てを行うために28日間が認められている。被告は、その間の申立を行わなかったから、管轄を承認したものとみなされる。
2.また、裁判所に猶予を知らせなかったことにより、被告が管轄を争う期間を延長することは、無効である。従って、当事者は、裁判所に通告することなく、無確定な延長を合意することはできない。
3.被告は、時機に遅れた申立てを行うことはできない。当該遅延は6か月に及び、それは「重大な不作為」といえる。
傍論として、裁判官は、共同海損に係る請求は、オマーンにて航海が放棄された時点で、喪失される、と判示しました。また、荷主、及び、PIクラブから船主が受領した支払に対する請求は、和解の合意に基づくものであり、船主は、これらについて、原告に対して責任を負う、とも判示しました。
コメント
Males裁判官は、その判決文の中で、当事者は、裁判所に知らせることなしに、期間の不明確な延長を合意することはできないことを、再認識させ、また、英国裁判所では、「3当事者による合意が必要である」ことを指摘しました。
本件は、当事者が和解を志向するために手続を停止する合意をなす際には、注意を払うことが必要であることを明確にしています。そのような合意が裁判所に通知されない限り、そのような効果は生じないでしょう。
以上
和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)
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