回覧7/20: 船舶の監視とP&I保険カバー

UKP&I_Web_Thumbnails_UL_Case

アウトライン
国際グループの全てのクラブは、制裁への高度なコンプライアンスプログラムと手続を維持しています。
AIS(自動船舶識別装置) による船舶追跡の能力を持つことが、クラブの経済制裁へのコンプライアンスプログラムの一部としてますます重要になってきています。
国際グループの全てのクラブは、船舶追跡能力の共通最低基準について合意しました。

メンバー各位

船舶の監視とP&I保険カバー

背景

法令遵守の義務にしたがい、国際グループの全てのクラブは、経済制裁への高度なコンプライアンスプログラムと手続を維持しています。制裁リスクのマネジメントのためクラブが策定した規則と手続きについては、国際連合安全保障理事会 (UNSCR)、英国金融制裁推進局(OFSI)、米国国務省、米国外国資産管理局(OFAC)といった各機関の提供するガイドラインを考慮に入れて作られたものです。各クラブは、またクラブ回覧や、ニュースによる注意喚起を通して、それぞれのメンバーに、制裁についての最新情報をお届けしています。

AIS(Automatic Identification Signals、自動船舶識別装置) による船舶追跡の能力を持つことが、クラブの経済制裁へのコンプライアンスプログラムの一部としてますます重要になってきています。この度、国際グループの全てのクラブは、船舶追跡能力の共通最低基準について合意に達しました。

船舶追跡ソフトウェアのレビュー

急速に発展を続けるこの分野において、利用可能な製品の機能を各クラブが十分に認識するために、国際グループ作業部会は、高リスク海域を航行する船舶の監視に活用できるテクノロジーをよく理解するべくサービスプロバイダーと綿密な議論を行いました。その後、最新の船舶追跡ソフトウェアと、現在クラブで導入されているソフトウェアを比較した性能テストが行われました。現在、国際グループの全てのクラブは、加入船舶の動静を追跡するサービスプロバイダーと契約を締結しています。

船舶追跡のための共通基準の採用

全てのクラブは、メンバーが経済制裁のフレームワークを認識し、またメンバーの船舶が制裁措置に違反した取引を行わないことを確実にする、という共通の目標を目指しています。高リスク海域での船舶追跡について、合意された共通最低基準は、制裁対象国への入港、異常な航行、AIS送信機の情報改ざんおよびAISの電源オフ、そして高リスク海域での瀬取りといった活動の探知・特定に役立ちます。

各P&Iクラブは、メンバーの取引パターンに影響を与えかねない制裁情報の周知と、制裁違反をしないよう相当な注意を払うことを確実にするようメンバーに通知するために、船舶追跡のサービスプロバイダーから得た情報を使うことができます。また、この情報は、クラブが制裁に違反している船舶に保険カバーを誤って提供するリスクを減らすためにも使われます。

AIS(自動船舶識別装置)による追跡の限界

2019年1月のクラブ回覧で強調してお伝えした通り、潜在的な制裁違反リスクのある船舶活動の指標は、船舶が不可解に航路を変更することと、AISからのデータ送信機能をオフにすることです。しかし、日常的にAISからのデータ送信を監視することで、隠れた制裁違反活動がすべて探知できるわけではありません。AISからのデータが受信されない、というだけで、船舶が停電しているか、違法行為に手を染め始めているか、あるいはAISの電源を落としている、と単純に解釈してしまうのは、誤解を招きます。AISからの信号が受信されないのは、下記のような理由が考えられるからです。

1. 船舶側ではなく、AISシグナルの受信機側に問題がある場合。特に、船舶の航行量の多い海域においては、よく問題になることです。

2. AISのデータ追跡をするサービスプロバイダー各社が異なるAIS受信機を使っているため、あるサービスプロバイダーでは正常に受信できるAISシグナルが、他のプロバイダーでは受信できないケースがあります。

3. 米国の船舶航行勧告でも指摘されたように、別の船舶のIMOナンバー(船舶認識コード)を不正使用して、偽のAISシグナルを送信し、別の船舶に成りすましている場合があります。こういったなりすましという不正行為の必然的な結果として、実際のロケーションから数千マイル離れたところにいると誤解された無実の船主が、突然制裁違反の罪に問われるということも起こっています。

4. 海上における人命の安全ための国際条約(SOLAS条約)は、「AISを搭載する船舶は、航行情報の保護を規定する国際取り決め又は規則がある場合を除き、常にAISの作動を維持する。」と定めています。AISが上記のSOLAS条約に違反し、作動が維持されていない場合は、旗国の要件に違反することとなります。しかし、SOLAS条約は安全とセキュリティのためであればAIS送信機の作動を止めることを許可していますので、船舶がAIS送信機を停止する際には、そういった正当な理由があるかもしれません。

5. 船舶が旗国の要求事項を遵守していない場合には、加入するP&Iクラブのルールにより、船主は保険カバーを損なうリスクがあります。また、船主がAISデータの改ざんや送信停止によって本来の船舶の位置を偽装し、制裁に違反する取引をした場合には、無分別かつ違法な取引であるということを理由に、P&I保険カバーが拒絶される根拠にもなります。

上記のような限界があるにもかかわらず、日常的なAIS送信機の監視は、制裁法遵守、そして制裁活動への違反を行った船舶の保険カバーをはく奪するという、クラブの継続的な努力の一環として重要な役割を果たしています。しかしながら、AISシグナルの監視のみでは、効果的な制裁の法令遵守のための取り組みとしては不十分です。全体的な法令遵守プログラムの一部でしかないと言えるでしょう。セキュリティアラートシステム、そして旗国によるデータ提供などAIS以外のデータシステムも、効果的な船舶の監視プログラムを支援しています。専門家による、生データの分析も必要不可欠です。衛星の画像も、監視プログラムの追加機能としてますます有効活用されるようになっています。

国際グループの全てのクラブは高リスク海域での船舶の監視、そしてメンバーのためのリスク軽減活動に真摯に取り組んでおり、同様の回覧を発行しています。

UKP&Iクラブ 日本支店

Downloads

Staff Author

PI Club

Date2020/05/15

Tags