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Mark Beare
Mark Beare
Regional Claims Director
Date
2026 6月 15

はじめに

2024年以降、南西太平洋に位置するフィリピンおよびソロモン諸島からのニッケル鉱石の輸出量が大幅に増加しています。こうした輸出の急増は、電気自動車(EV)用バッテリーの製造などに伴う世界的なニッケル需要や、インドネシアおよび中国における新たな処理施設の稼働を背景とした、当該地域での鉱業投資の拡大と連動しています。しかしながら、このような成長により、一部の輸出貨物が安全輸送に適しているかについて重大な懸念が生じています。

両地域からの輸出は、新たな代替供給源として投資が振り向けられていることもあり、今後も増加すると予想されていています。適切な改善措置が講じられない限り、ニッケル鉱石貨物に関連する事故は今後も発生し続ける可能性があります。

本回覧は、国際グループがINTERCARGOおよびRoxburgh社と共同作成したものです。本回覧の目的は、該当地域からのニッケル鉱石輸出に関わる課題を明らかにするとともに、関連リスクを軽減できるようメンバーの皆様に提供することにあります。

地域の地質および貨物特性

フィリピン(例:Surigao、Dinagat)およびソロモン諸島のニッケル鉱石は、通常、積込前に陸上でほとんど加工されない、いわゆる直接船積鉱石(DSO:Direct-Shipping Ore)であり、そのため外観、組成、粒度にばらつきが生じます。積載される貨物は主に土や粘土のような細粒で構成されています。貨物中に含まれるこれら細粒分(シルトおよび粘土)の有無や割合は、その貨物がどのような挙動を示すかを大きく左右するため、極めて重要です。

ニッケル輸出鉱石の基礎地質は、粘土鉱物および微細粒子の含有割合が高く、その結果、水分を保持しやすく、粘着性が高く排水性の低い性質が生じます。こうした特性があるため、たとえ積載時に過度な湿り気がなく、大小の粒子が混在しているように見えたとしても、船舶の動揺に伴う繰り返しの応力を受けると、強度の低下(液状化、動的分離、繰返し軟化)や積荷の不安定化(荷崩れ)を起こしやすくなります。

粒径の細かい成分がもつ凝集性により、粒子間に結合力が生じ水分が保持されることで、船舶の動揺による繰返し応力の下では貨物の強度が低下します。この結果、繰返し軟化(一般に液状化または動的分離と呼ばれます)が発生し、貨物は締固まるとともに飽和度が増加することで、間隙水圧が上昇し、強度が徐々に低下していきます。最終的に飽和状態になると、貨物は固体的挙動から塑性的または流体的挙動へと移行し、積付けが不安定になります。

規制の枠組み

ニッケル鉱石はGroup Aの危険貨物に分類され、IMSBCコード附録1の個別スケジュールに掲載されています。

Group A貨物を輸送する場合、荷送人は積荷港の管轄当局に認定された機関が発行し、署名済みの運送許容水分値証明書(以下TML証明書)および水分含有量証明書または申告書を船長またはその代理人に提出しなければなりません。TML証明書にはTML算定試験結果の記載または添付が必要としています。

Group A貨物を輸送する場合、荷送人は、貨物が船上にあるときに水分含有量がTML未満であることを確保するため、適切なサンプリング、試験および水分管理手順を策定する必要があります。貨物がバージから積み込まれる場合には、降雨や水に侵入されないように貨物を保護するための手順を含めて策定する必要があります。これらの手順は積荷港の管轄当局による承認を受け、その実施状況についても確認を受けなければなりません。当該手順が承認されていることを証する管轄当局発行の文書を、船長またはその代理人に提出する必要があります。

Group A貨物を複数の貨物倉に積載する場合、証明書または水分含有量申告書には、各貨物倉に積み込まれる細粒物質ごとの水分含有量を記載する必要があります。ただし、国際的または国内的に認められた標準手順に基づくサンプリングにより、貨物全体で水分含有量が均一であると認められる場合は、貨物倉全体について平均水分含有量を記載した単一の証明書または申告書でも差し支えありません。

輸出地域における運用上の課題

  1. フィリピンおよびソロモン諸島においては、荷送人の業務規模および管理水準に大きなばらつきが見られます。フィリピンで行われるオペレーションでは、一定の原料管理手順が整備されている場合もありますが、積込前の貨物の組成に著しい不一致や水分含有量の管理不足がよく見られます。
  2. 新規または再開されたソロモン諸島の鉱山では、十分に整備された手順を欠いていることが多く、サンプリングの質も、表層的なピット手法から全深度掘削までばらつきがあります。その結果、貨物の組成がどのように変動するかについての正確なデータが限られています。
  3. 多くの荷送人は規制を強めており、メンバーの代理として選任されたサーベイヤーによる積込前検査への立会いを認めず、自ら指名したサーベイヤーのみを受け入れている状況が確認されています。
  4. 一部の地域では、有能で資格を持った現地サーベイヤーが確保できていません。積込前検査が遠隔でしか実施できない場合があり、その結果は概して不十分です。
  5. Roxburgh社は、ニッケル鉱石貨物の輸送に伴うリスクに対する荷送人の理解が限定的であること、また一部の事業者や現地サーベイヤーは、過去の貨物が問題なく目的地に到着したとされている事実のみに依拠していることを指摘しています。その結果、自己規制や検証されていない「社内」原料試験といった構造的な問題が生じています。
  6. Roxburgh社はまた、ソロモン諸島の一部の事業者では、サンプリングや試験手順・手続の整備のために信頼できる第三者の専門家を起用している例もあると指摘しています。しかしながら、そのような場合であっても、試験データの解釈における不一致や誤りが頻繁に見られます。
  7. フローテーブル法によるTML試験手順の不適切な選択および適用は、一般的に見られます。
  8. 現地サーベイヤーは、缶テストや握り試験といった補完的な試験手順について、不適切な適用および解釈を行っていることが常態化しています。
  9. 水分含有量およびTML試験証明に明らかな不正確さが見られることは一般的です。また、荷送人が提出するShippers’ DeclarationsやFMP/TML/水分含有量証明書には、約6~10%の誤差が見られることが多く、場合によっては水分含有量においてさらに大きな乖離が確認されることもあります。
  10. 荷送人は、積み置き、バージ輸送および積替えの過程において、繰り返し又は多量の降雨への曝露から当該貨物を保護するための水分管理手順が不十分です。
  11. Roxburgh社の指摘によれば、荷送人が提供する粒度分布(PSD)データは、乾式ふるい分け法に基づくものが多く、その結果、通常は貨物の挙動を支配する微粉および粘土分の割合が過小に報告される傾向があります。このため、当該貨物の輸送に伴うリスクについて誤解および誤評価が生じています。
  12. 平均含水量がTMLの0.2~1%以内で申告されるケースが一般的に見られます。しかしながら、未加工の直接船積鉱石(DSO)の重要な課題は、その組成には本質的なばらつきがあることであり、これは荷送人の管理の及ばないため、含水率に大きな変動を直接的にもたらします。その結果、いかなる荷送人であっても、TMLを0.2~1%下回る狭い範囲内で水分含有量を維持することは現実的には不可能です。実際には、単一の貨物内であっても水分含有量は2~3%程度変動する可能性があり、申告された平均値が適合している場合であっても、貨物の一部がTMLを上回った状態で積み込まれる可能性が高いと考えられます。
  13. 申告される水分含有量は通常約35%程度ですが、細粒分に水分が結合しているため、貨物は乾いているように見える場合があります。この結果、缶テストや握りテストなど、目視評価に依拠する補助的な試験手法を用いる現地サーベイヤーによる評価は、極めて不正確で誤解を招くものとなります。
  14. 航海中に軽微な貨物移動である「ニアミス」が発生すると、含水率が増加傾向になり、著しい貨物移動や液状化事象などより重大な事故の発生につながります。

荷送人によるサンプリング及び試験に関する要件

貨物の凝集性、排水性および船舶の動揺による応力に対する応力を正確に評価するためには、以下の点を考慮したうえで、荷送人による当該貨物の代表サンプリングが不可欠です。

  1. 貨物の種類
  2. 粒度分布(PSD)
  3. 貨物の組成およびそのばらつき
  4. 貨物がストックパイル、バージ、鉄道貨車またはその他の容器において保管および輸送方法、ならびにコンベヤー、ローディングシュート、クレーン・グラブ等の荷役設備により移送または積込方法
  5. 化学的危険性(毒性、腐食性等)
  6. 確認が必要な特性:含水率、TML、かさ密度/容積係数、安息角等
  7. 気象条件や自然排水(例:ストックパイルや容器の下層への移動)その他の水分移動により、当該貨物内に生じ得る含水分布の変化
  8. 貨物の凍結後に発生し得る性状の変化
  9. 貨物の凝集性、排水性および船舶の動揺による応力に対する挙動を正確に安全評価するための、当該貨物の各部分における粒度分布(PSD)、組成およびそのばらつきといった不可欠な要素
  10. IMSBCコード第4.4.4項に従い、汚染されている、または貨物全体と比較して性状もしくは水分含有量が著しく異なると認められる相当量の部分については、個別にサンプリングおよび試験の実施が必要です。これらの試験結果によっては、当該部分は輸送に不適格と判断され、受入れを拒否する必要が生じる場合があります。

契約締結前に取得すべき推奨情報

グループA貨物の荷送人は、本コードの要件に適合していることを示す事前情報を提供できることが求められています。用船契約締結前(または配船指示を受ける前)に用船者に対してデューデリジェンスを実施する際には、以下の項目を示すような情報提供を求めることが推奨されます。荷送人が当該情報の提供をためらう、または提供できない場合には、SOLAS条約第6章規則1、規則1-1、規則1-2および規則2に準拠していない可能性が示唆されます。荷送人から提供された情報については、専門家による検証が必要となる場合がありますが、これは荷送人との建設的かつ積極的な対話を促進する機会にもなります。

  1. サンプリング、試験および水分管理に関する詳細な手順。
  2. これらの手順が積荷港の管轄当局により承認され、その実施状況が確認されていることを示す証拠。
  3. 荷送人の試験所がサンプリングおよび試験に際して準拠している国内または国際規格・基準。
  4. 荷送人の試験所が積荷港の管轄当局に認定されていることを示す証拠。
  5. 水分含有量、TMLおよび粒度分布範囲を含む試験所の試験データ。
  6. 積込予定貨物に対して選択されたTML試験手順が適切であることを確認するために、荷送人が実施した評価。
  7. 荷送人の試験所が流動水分点および/またはTMLを決定する際に採用している試験方法。
  8. 貨物のストックパイルおよびサンプリング作業の写真。
  9. 降雨の予測および監視について、荷送人が採用している手順。
  10. 降水によって各貨物ロットの水分含有量にもたらす影響について、荷送人が実施した評価、およびその結果の立証。

積込および航海時の留意点

船長は気象予報を常時監視し、降雨時には貨物の積込み作業を中断させるべきです。

貨物は通常、バージで輸送され、水分の浸入を軽減するために防水シートで覆われています。積込時にはシートが取り外されますが、降雨が予想される場合は事前に、または降雨時には再びシートを掛ける必要があります。船長は、バージ積込場所における降雨状況を監視し、多量の降雨にさらされた無蓋バージについては、荷送人が貨物の深さ方向全体にわたり再サンプリングおよび再試験を実施し、その水分含有量がTMLを下回っていることを証明できるまで、当該バージからの積込みを認めてはなりません。

荷送人は、受入れを拒否されたバージ内の貨物について天日乾燥を試みることがよくありますが、ニッケル鉱石のような粘土分の多い貨物では、その効果は極めて限定的であり、通常は表層部分がわずかに乾燥するにとどまります。したがって、船長は、過去に受入れを拒否された貨物について、天日乾燥されたとして再度積込みのために提示された場合、慎重な姿勢で臨む必要があります。

船長は、バージ又はランディングクラフトから積込みのために提供される貨物を慎重に確認し、水分含有量について少しでも疑念がある場合、特に降雨があったときには缶テストを実施すべきです。缶テストは、IMSBCコード第8節において、船長が貨物の状態に疑義を抱いた場合に実施できる簡易確認手段として説明されていますが、荷送人が実施責任を負う室内試験に代わるもの、又はそれに優先するものではありません。同節では、サンプルに自由水又は流動状態の兆候が認められた場合、当該貨物を積込みのために受け入れる前に、追加の室内試験を実施するための手配を行うべきであると規定されています。しかしながら、缶テスト中のサンプルの挙動及びそれに対応する水分含有量を正確に評価することは困難であるため、缶テストの結果のみに基づいて貨物を受け入れてはなりません。

ニッケル鉱石は粘土分を多く含むため、繰り返される陸上荷役、バージ積込、積替え及び航海中の船体動揺により、貨物の強度は低下しやすい傾向にあります。こうした特性により、航海中に貨物の積付け状態が予期せず急速に崩壊するおそれがあります。

したがって、船舶の乗組員は、安全に実施できる場合には、航海中に貨物を日常的に点検を行うことが重要です。点検の際には、貨物の積付け状態に次のような変化がないかをご確認する必要があります。

  1. 積付け高さの低下
  2. 表面形状の平坦化
  3. 周辺部の軟化
  4. 表面水又はスラリーの発生(動的分離)
  5. 貨物と隔壁又は船側外板との間に生じる隙間
  6. 貨物倉ビルジの測深結果
  7. 船体動揺に伴う貨物の周期的な動き
  8. 貨物移動

上記のいずれかの変化が認められた場合には、乗組員は第三者の専門家による支援を求めるとともに、貨物に加わるエネルギーを低減するための措置(例:横波を受ける状況を避けること)を講じるべきです。また、貨物点検時に撮影した写真や動画の提供により、第三者による支援の有効性を大幅に高めることができます。

 追加の推奨予防措置

  1. 船長は、IMSBCコード又は現地規則(IMSBCコードと抵触しない場合に限る)に基づき荷送人が提出すべき貨物情報、書類/証明書一式を受領し、当該貨物が安全に積込み及び輸送できるものであることを確認できるまで、積込みを開始すべきではありません。また、IMSBCコードに従い、水分含有量証明書は積込開始日の7日前以内に発行されたものでなければなりません。
  2. メンバーはクラブと協議のうえ、船長を補佐するため、本船側の代理として積込前にサーベイヤーを任命することを検討すべきです。ただし、管轄当局、荷送人及び用船者と交渉する際は、本船がサーベイヤーを任命したとしても、IMSBCコード又は現地規則(IMSBCコードと抵触しない場合に限る)に基づく荷送人の義務が免除されるものではないことを明確にしておく必要があります。

    サーベイヤーの業務範囲には、以下を含みますが、これらに限定されるものではありません。

    (a) 船長がIMSBCコード及び現地規則(IMSBCコードと抵触しない場合に限る)に基づく義務を履行できるよう支援すること。

    (b) 荷送人と連絡・調整を行い、本船に積載予定の貨物がどのストックパイルから出荷されるのかを確認するとともに、IMSBCコード第4.4節及び第4.6節に従い、荷送人が代表サンプルを適切に採取されていることを確認すること。

    (c) 公認された国内又は国際基準に基づいて業務を行う独立試験機関で試験を実施するために、メンバー自身の代表サンプルを採取すること。

    (d) 独立した専門家と連携し、荷送人の試験所がIMSBCコード付録2及び/又は認知された国内・国際基準に従って水分含有量試験及びTML試験を実施していることを確認すること。

    (e) 荷送人の証明書とメンバー側の試験結果を比較し、TML及び水分含有量を検証すること。船長は、鉱山の試験所が発行した水分含有量証明書について、水分含有量がTMLに極めて近い場合や、貨物の組成上のばらつきを反映していない場合には注意を払うべきです。また、試験実施時から積込時までの間に多量の降雨があった場合には、荷送人は貨物の水分含有量がTML未満であることを確認するための確認試験を実施すること

    (f) 積込作業の開始から終了まで立ち会い、特に気象状況並びにバージ又はランディングクラフト内に存在する湿潤な貨物及び組成のばらつきが大きい貨物に注意を払うこと。

    (g) 積載予定貨物の一部について追加の水分試験及び/又は缶テストが必要と判断される場合には、積込作業を停止すること(IMSBCコード第4.5.2節及び第8.4節参照)。

    (h) 積載予定貨物が指定されたストックパイル又はバージ経由のものであることを確認するため、ストックパイル及び/又はバージを監視すること。このためには、積込みのために提供されるバージ又はランディングクラフトを慎重に記録し、識別する必要がある。

  3. 船長又は任命されたサーベイヤーは、「当該貨物は安全に輸送可能である」旨の確認を求める書類に署名を求められた場合は、署名を拒否すべきです。IMSBCコード上、貨物が安全に輸送可能であることの申告義務は荷送人にあります。このような書類に署名すると、その後事故が発生した場合に、メンバーの荷送人に対する求償権を損なうおそれがあります。
  4. 船長、サーベイヤー又は専門家に対して商業的圧力や威圧行為が行われた場合には、クラブへ報告して下さい。クラブは、IGを通じてインドネシア、フィリピン又はソロモン諸島の当局に対し、問題提起をすることができます。
  5. メンバーは、ニッケル鉱石輸送を引き受ける前に、契約上どのような保護措置を講じることができるかを検討すべきです。例えば、BIMCO Solid Bulk Cargoes that Can Liquefy Clause for Charter Parties 2012を用船契約に取り入れることが考えられます。同様に、メンバーは、IMSBCコードの規定を全面的に適用する権利、自ら選択した独立サーベイヤーを任命する権利、又は貨物サンプルを採取して試験を実施する権利を制限する用船契約の締結を強要されるべきではありません。
  6. メンバーは、インドネシア、フィリピン及びソロモン諸島で積み込まれるニッケル鉱石の契約条件又は安全輸送に関して懸念がある場合において、クラブへ相談することをお勧めいたします。      

クラブ補償への影響

メンバーの皆様には、インドネシア、フィリピン又はソロモン諸島の港からニッケル鉱石を積込するために、船舶を手配もしくは用船する予定があること、又はそのような貨物の積込を目的として配船が指示されたことについて、事前にクラブへ通知しない場合、クラブによる保険カバーが適用されない可能性があることにご留意ください。

 

国際グループのすべてのクラブは同様の回覧を発行しています。