事故の教訓 : 化学薬品による眼の負傷

事故の概要
当直エンジニアは、機関室の巡回中に、補助ボイラーの化学薬品投入装置から液体が漏れ、ボイラーフラットデッキ上に溜まっていることに気づいた。 彼は投入ポンプを停止し、漏れの原因を調査した。接合箇所を確認していると、システム内の背圧(back pressure)によって投入ポンプの1つである供給側のプラスチック製ホースが突然外れて、ホースから化学薬品が彼の顔や左目に向かって噴出した。 彼は直ちに、チーフエンジニアに報告し、顔面と目を飲料用の水と薬用洗眼剤で洗う手助けをしてもらった。 船長の監督の下、船内の診療所でさらに洗浄と投薬が続けられた。
分析翌日、本船が港へ到着後、すぐにエンジニアは病院に移され、左眼が重傷を負ったとの診断を受けた。 本国送還の前後に手術と長期治療を受けた後も、罹患した眼の視力は依然として著しく損なわれていた。 ボイラーの処理薬品は、給水システムの腐食を抑制するために使用される脱酸素剤であった。化学物質安全データシート(MSDS: Material Safety Data Sheet)には、当該物質が強アルカリであり、眼に接触すると刺激を引き起こすことが示されていた。エンジニアは事件当時にゴーグルやその他の個人用防護具(PPE)を着用していたと言われていたが、その保護の度合いは、眼への液体の侵入を防ぐためには明らかに不十分であった。
事故の教訓- 乗組員は、有害化学物質を取り扱う際には、内在する危険、必要なPPEや応急処置を確認するために、常に該当するMSDSを事前に参照する必要がある。
- オープンな眼鏡型や通気性の良いアイウェアが、顔面に飛散し眼に流れ込んでくる化学薬品から十分に保護してくれるとは限らない。必要に応じてフルフェイスバイザーを用意し、着用すべきである。
- 目/顔面の保護、化学薬品耐性のエプロン、長手袋および薬用洗眼剤を含むすべてのPPEは、化学薬品店で容易に入手できるが、水処理プラントのような化学薬品が供給されるシステムの傍ですぐに利用できる状態にすべきである。
- 化学物質への接触によって引き起こされる目や肌への障害の潜在的な脅威については、常に注意する必要がある。 適切な救急手当てに加え、できるだけ早く陸上からの専門的な医学的助言を求めるべきである。
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