QCR Autumn 2018-5:EU法-2つの締約国間の貨物の複合運送契約-ブラッセル規則(Regulation (EC) 44/2001 Brussels I)第5条第1項(b)の解釈-義務履行地の裁判所の管轄権-有利な地

Zurich Insurance Plc And Another V Abnormal Load Services (International) Ltd - Case C-88/17, Court of Justice of the European Union, 11 July 2018

事実

原告たる、アイルランドで設立されたチューリッヒ保険会社と、フィンランドで設立されたその被保険者たるMetso Minerals Oy社により、前提となる争点についての判断が求められました。本来の手続での被告たる、Abnormal Load Services (International)社 (「ALS」)は、英国で設立された運送会社です。

本案での争点は、円錐形シリンダー破砕機の運送に関する、荷送人であるMetsoと運送会社であるALSとの間の運送契約に関係します。破砕機は、ローリーにより、PoriからフィンランドのRaumaまで運ばれ、本船に運び込まれ、英国のHullにて、荷揚げされました。Hullから英国のSheffieldまでローリーで運ばれる途中、荷受人に引き渡される前に、紛失されました。

チューリッヒ保険は、破砕機の価額をMetsoに支払い、その被保険者の権利を保険代位により取得し、フィンランドの裁判所でALSに対し、訴訟を提起しました。ALSは、その管轄に異議を申し出ました。控訴を経て、最高裁は、フィンランドの裁判所の管轄権についての争点を、欧州裁判所に移送しました。

争点としての条項は、民事商事に関する管轄と判決の承認に関するブラッセル規則(Council Regulation (EC) No 44/2001 of 22 December 2000)第5条第1項の第2文節です。これは、「問題となる義務の履行地は、サービスの供給に関する場合、締約国における、契約に基づき、サービスが供給された地、又は、供給されるべきであった地である。」問題は、運送契約の文脈においては、本規定は、1つ以上の裁判所を意味することができるか、という点です。

判決

旅客運送に関する欧州裁判所の判例法を検討し、同裁判所は、当該条項は、条約加盟国間の、いくつかの段階があり、複数の停止地点があり、また、複数の運送形態のある貨物運送契約の文脈においては、貨物の出発の(dispatch)場所、及び、引渡の場所の双方が、運送サービスが提供される地である、と判示しました。

欧州裁判所は、出発の場所は、契約から生じるサービスの主たる部分に密接に関係している、と理由づけました。それは、運送人は、合意したサービスの重要な部分を志向しなければならないのが、出発の場所だからです。たとえば、適切に貨物を積むことを怠った場合には、運送の目的地における契約上の義務を不適切に履行することとなるからです。
欧州裁判所は、予見可能性の用件から、その判断を正当化しました。原告と被告双方が、運送契約において特定された地、つまり、出発の場所と貨物の引渡の場所とされている地が、訴訟手続が提起されうる裁判所の場所として、特定することができるからです。

コメント

本件は、EU加盟国を跨ぐ貨物の国際輸送の契約の違反から生じた損害賠償請求に係る管轄に関する欧州裁判所の重要な決定です。

欧州裁判所の決定は、EU加盟国を跨ぐ国際的な貨物運送に係る契約の違反から生じた損害の賠償請求に関する訴訟手続は、貨物が発送された国の裁判所か、貨物が到達するであろう国の裁判所かのいずれかに提起できることを確認しました。両者の地は、提供されるサービスに十分、密接な関連性をもつ地であると考えられました。

メンバーにおかれましては、排他的な管轄条項を含むように、運送を提供する条項を改変するかどうかを検討されるかもしれません。

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

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Date2018/12/12