QCR Autumn 2018 - 2: 傭船者にカウンター・セキュリティを求めるため、傭船契約にICA 2011が完全に摂取されたかどうかについての仲裁裁定
London Arbitration 18/18 (2018) 1010 LMLN 2
事実
本船は、管理船主(disponent owner、以下「船主」という)により、追加条項付のNYPE 1946 書式に基づき、被告である傭船者に傭船されました。 Head Ownersに対し90万米ドルに及ぶ貨物損傷クレームが提起されました。Head OwnersのP&Iクラブは、船舶が差押えられるおそれがあったため、貨物保険者に対し、LOU(Letter of Undertaking)の形で90万ドルの保証をしたうえで、船主に対し、同額の担保を船主に求め、船主はこれに応じました。
船主は、Head Ownersが傭船契約に摂取されているインタークラブアグリーメントNYPE2011(ICA2011) の下で、傭船者に対し、カウンター・セキュリティを求める権利があると主張しました。Head Owner、船主及び傭船者の各々の間の傭船契約は基本的にBack to backで締結されていましたが、傭船者のP&Iクラブは、船主にカウンター・セキュリティを提供することを拒みました。
船主は、傭船者に対し仲裁手続を提起し、1996年仲裁法第48条第5項(b)に基づき、傭船者が、クラブのLOUという形でカウンター・セキュリティを提供するか、またはロンドンの大手銀行が発行する適切な文言が記載された保証状を提供するか、あるいは船主のP&Iクラブにエスクロー(預託金)として請求額の担保を預託するかを行う特定履行(specific performance)を命じる決定を申立ました。
傭船者はこの申立てに反対し、傭船契約の条項またはICA 2011に基づいて、傭船者がカウンター・セキュリティを提供する義務はないと主張し、傭船契約第35条の文言は、ICA 2011または担保提供に関する条項を、傭船契約に摂取するに適当、適切なものではないと主張しました。
仲裁裁判所の判断
傭船契約第35条には、下記の文言が使われていました。 「傭船者と船主の間の貨物クレームに関する責任は、1996 Interclub New York Produce Exchange Agreement及びその後の改定版の規定に従い、分担/解決するものとする。」
傭船者の主張は、第35条において引用されているのはICA 2011の責任分担及び解決方法に関する部分のみであり、第35条の文言はICA2011の第9条(担保)を適用するための基礎をなしていないと主張しました。傭船者はまた、The Ion [1980] 2 Lloyd's Rep 245を参照し、傭船契約第35条の文言は、ICA 2011のすべての条文を摂取していないと主張しました。
船主は、第35条は、貨物クレームの責任に関してICA 2011の条項が完全に適用される(したがって傭船契約に摂取されている)ことは明らかであると主張しました。
仲裁裁判所は、傭船契約第35条を厳格に解釈すると、貨物クレームの分担と解決にのみ関連しており、担保の規定を含んでいないとして、傭船者を支持しました。これはクレームに関する担保を規定するICA 2011第9条を適用する基礎を提供しておらず、しかもICA 2011の全文を摂取するものではなく、したがって、ICA 2011の第9条は、傭船契約には適用されないとしました。
さらに、仲裁裁判所は、ICAが「傭船契約に摂取されるよう策定・草稿されたものではない。」とする、書籍「定期傭船契約」における主張を受け入れました。
したがって、その旨を明記していない限り、ICAの全条項が傭船契約に摂取されていると想定することはできないとし、本件第35条には、クレームの担保に関して何ら記されていないとしました。
コメント
ICAの目的は、ニューヨーク・プロデュース・エクスチェンジ(NYPE)書式およびAsbataime書式の下で生じる貨物クレームの責任を迅速に分担するための比較的シンプルな仕組みを提供するということです。
その目的は貨物クレームを扱う際に、コストのかかる紛争費用を回避することにより、合理的に解決しコスト削減をすることとしていますが、ICAは2011年に、主に貨物クレームの当事者がその契約の相手方と不必要な困難を抱えることなしに、両当事者を保護できるよう改訂されました。
仲裁裁判所は、本件は、ICAの主な目的である貨物クレームに関する責任の迅速な分担には影響がないため、ICAの目的を損なうものではないとしました。これは仲裁で結論付けられたものであり、したがって法的に拘束力のある判例ではありません。しかしながら、メンバーにおかれては、ICA 2011(その担保規定を含む)が、当事者のそのように意図するのであれば、その全体が明確に摂取されていることを確実にするために、傭船契約の貨物取扱条項を慎重に検討することが推奨されます。
船主の控訴申請は高等法院(第1審裁判所)により却下されました。
以上
和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)
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