QCR Summer 2019-7: 船荷証券上権限のない者へ貨物が引渡されても、船荷証券が使用されたことにはならない。

The “Yue You 902” and another matter [2019] SGHC 106

事実

原告は、貨物の買主であるAavanti Industries Pte Ltd (「Aavanti」社)に対して融資を行い、その担保として、船荷証券を取得しました。被告は、Yue You 902号 (「本船」の船主です。原告は、被告に対し、原告が保有する船荷証券に係る貨物を原告に引渡さなかった、と主張しました。

FGV Trading Sdn Bhd (「FGV社」)は、貨物の売主であり、本船の航海傭船者です。同社は、被告に対して補償状を発行し、船荷証券原本の呈示なしに、貨物を最終的な買主に引渡すことを求めました。

2016年4月27日、貨物の荷揚が開始され、同月29日に完了しました。他方、同月26日、原告は、FGV社から船荷証券を受け取り、Avanti社に対し、支払指示を求めました。これに対し、Avanti社は、信託の方法での融資を求めました。同月29日、原告は、要求された金額の融資を行い、これにより、貨物の購入価格の支払を決裁しました。つまり、貨物は、原告が購入価格の送金を行う前に、本船から完全に荷揚げされてしまったわけです。

Avanti社が借入れにおいて不履行を行った後、原告は、被告に対し、貨物の引渡を求めることにより、船荷証券に対する担保権を実行しましたが、被告はその引渡を行いませんでした。

原告は、被告に対し、訴訟を提起し、略式判決を得ました。これに対し、被告は上訴しました。

判決

高等法院(訳者注:一般的には第1審を担当するロンドンの裁判所)は、上訴を棄却し、以下のとおり、判示しました。 

  1. 船荷証券は、原告がその所持人となった時点では、未だ、使用されていない。補償状に基づき、船荷証券上引渡を受ける権限のない者に対して貨物が引渡されても、その証券が使用されたことにはならない。この点は、船荷証券が得られない場合に、FGV社からの補償状に基づき貨物を引渡すことを被告に義務付ける、航海傭船契約上の条項に左右されない。
  2. 仮に、船荷証券が使用されたとして、英国の船荷証券法第2条第2項[1] が適用されたとしても、原告は、第2条第2項(a)に該当する。従って、原告は、同法第2条第1項に基づき、船荷証券に基づく訴権を取得したであろう。本件では、「契約上の、又は、他の取り決め」とは、原告とAvanti社との間の融資契約である。
  3. 原告は、船荷証券法第5条第2項[2]. の要件としての善意により、船荷証券の所持人となった。誠実に、船荷証券を所持した者は、同条項にいう善意でそれを取得した者となる。船荷証券に対する担保の利益を得ることと引き換えに、原告は、融資を行ったから(仮に、貨物が荷揚げされたことを既に知っていたとしても)、それは、誠実な行為といえる。
  4. 原告が信託の形で融資を行ったことは、誤った貨物の引渡を承認したことにはならない。

コメント

本決定は、船荷証券を発行した運送人は、元々の荷送人であれ、船荷証券を(必要な場合に)裏書により取得した者であれ、船荷証券を保有する者に対してのみ、貨物を引渡すことを義務付けられるという、確率された法を再認識させてくれるものです。(補償状に基づくものであろうと否と)権限のない者に対する貨物の引渡によっては、船荷証券が使用されたことにはなりません。

本件はまた、メンバー各氏に対しまして、船荷証券原本の呈示なしに貨物を引渡すことに関するリスクを想起させるものです。UKクラブのルール第2条第17項但書c(ii)及び(iii)をご参照下さい。その但書cに基づくクレームは、メンバー委員会の決定があった時に初めて、填補されます。

[1] 船荷証券法第2条第2項は、次にとおり、規定しています。
「ある者が船荷証券の適法な所持人となった時点において、証券の保持がそれに係る貨物を保持する(運送人に対する)権利を付与しない場合、その者は、(1)証券の保持に基づく貨物を保持する権限を失効する時までになされた、契約上の、又は、その他の取り決めに基づいて、船荷証券の所持人となった場合でない限り、第1条に基づきその者に移転されるいかなる権利も有しない…。」

[2] 船荷証券法第5条第2項の末尾の但書は、次のとおり、規定しています。「本法においては、誠実に、船荷証券の所持人となった者は、その適法な所持人と見做される。」

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

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PI Club

Date2019/07/26