コンテナ船ガントリークレーン衝突 :船長/パイロットの信頼関係構築できず

Container ship sailing at sea

概要

コンテナ船(約 40,000GT)は、パイロット嚮導のもと A 港に向けて B 港を出港した(B港から A 港までの航海時間は約 2 時間)。A 港岸壁に着岸しようとした際、船長は本船速力が過大であると思い、またパイロットの操船に関し疑問を感じたため、船長自ら操船指揮をとった。しかしながら、急激な減速及び強風により、姿勢制御ができず岸壁上のガントリークレーンに衝突した。本事故により本船船首部の曲損、岸壁及びガントリークレーンの損傷を生じたが、死傷者はなかった。

事故経過

0722 時 A 港予定岸壁まで約 2000m となり、パイロットは針路 285 度を指示。岸壁に船首目標となる標識が置いてあり、これに向首した。機関極微速前進(dead slow ahead)、その後機関を適宜使用した。この時の速力は 6.8 ノット、風向風速は北西の風、平均約 9.0m/s、最大約 13.3m/s であった。
0732 時 針路 278 度を指示 (この後バウスラスターを適宜使用)
0734 時 乗組員より針路定まらず、予定岸壁手前の左舷係留船(自動車船)に向けて圧流(リーウェー約 10 度)されていると報告あり
0735 時 速力 2.5 ノット (船首と岸壁までの距離約 260m)
0736 時 船長はパイロットに、「速すぎる」と警告する。その直後、船長は自身で操船指揮をとり、半速後進(half astern)、全速後進(full astern)、タグを引けと指示する。
0737 時 速力 1.4 ノット、前進行きあしを失うと更に係留船に接近した。(船首と岸壁までの距離約 100m)
0738 時 係留中の自動車船との衝突をさけるため、機関を全速前進(full ahead)とし、また複数の操舵指示をする。
0739 時 ガントリークレーンに衝突

分析

1) 船長/パイロット情報交換

港出港時船長はパイロットにパイロットカード(注-1)を提示し本船の操縦性能等を知らせた。またパイロットは当日の気象情報及びパイロットインフォメーションカード(注-2)を示し、水先の概要を説明し、タグボート 1 隻を使用することを告げ同意を得た。
パイロットインフォメーションカードには、離着岸の回頭方向、タグボートの隻数等の記載はあったが、着岸操船時の船首目標、針路等の記載は無かった。船長はパイロットの説明が不足していると思い、その行動を注意深く観察していた。

(注-1)パイロットカード:船長からパイロットに手渡される書類で、船舶の操縦性能等が記載されている。
(注-2)パイロットインフォメーションカード:パイロットから船長に手渡される書類で、パイロットが意図している入港操船等に関する情報が記載されている

2) パイロットの証言

  • 船長とは途中、内航船との避航についてなど話しあったので、十分コミュニケーションが取れていると思った。
  • 岸壁近くでは風の影響もあり通常より、北よりに航行したが、岸壁からの離隔距離が大きかったので、岸壁に大角度で進入することになると思い、針路 278 度を指示した。
  • 航海計画:パイロットは、左舷への圧流を抑えるため船速をある程度維持して、本船船尾が係留船を通過した後、後進推力を強め、主機を半速力後進とすれば、岸壁前面に進出して停船する。そして、後進機関使用により一軸右回り船の特性によって船首が右に振れて、本船の姿勢を岸壁に平行できると思っていた。しかし、これを船長に説明しなかった。

3) 船長の証言

  • パイロットから、着岸操船時の針路、速力、接近方法について説明を受けなかったので、パイロットの行動を注意深く観察する必要があると思った。
  • 停泊船に並ぶ頃、岸壁側に急速に圧流され、本船速力が 4 ノットを超え、標準より速いと感じた。
  • 岸壁に安全に着岸するにはパイロットが行った減速では不十分であると気づき、本船の動きを止めるため、自ら操船指揮をとり、全速後進をかけた。

4) 水先人会操船参考資料  (図参照)

水先人会の操船参考資料において、本件の岸壁に入船左舷着岸する場合、次の操船を推奨していた。

  • 通常時針路 285 度 (船首目標:27 号岸壁と 70 号岸壁の交差部)
  • 強風時針路 290 度 (船首目標:70 号岸壁と 71 号岸壁の接合部)

本船は、風力 5 の北西風がある状況下、針路 285 度でのリーウェイは、3 度から 5 度あったと思われるので、参考資料に記載された 290度の針路をとり左舷との離隔距離に余裕をもって操船すべきであった。パイロットはこれら推奨航路を承知していたが、今回それに従わなかった。

原因

1) 直接原因

  1. 港において風力 5 の北西風が岸壁に吹き寄せる状況下、接岸速力が過大であるという判断から、船長は全速後進を命じ、行きあしが失われた。その結果、係留船の至近に圧流され衝突をさけようと全速前進としたが、姿勢制御ができず、本船船首がガントリークレーンに衝突した。
  2. 強風下パイロットが水先人会操船参考資料に示された推奨航路を採用せず、岸壁や係留船に過度に接近した。

2) 根本原因

  1. 船長及びパイロット間の信頼関係欠如:船長とパイロットは十分な信頼関係を形成できず、船長は着岸途中、自ら操船指揮をとった。これは操船に関する十分なコミュニケーション不足により、パイロットの意図する操船が不明であったためである。
  2. BRM/BTM 脆弱:信頼関係の欠如により、船橋チームとパイロットとの間の有効な BRM/BTM が形成されなかった。

事故の教訓

1) パイロット乗船時の操船責任
パイロット乗船時において、船舶航行の責任は船長にあることは言うまでもなく、従い船長及び船橋チームはパイロットの操船意図は常に把握していなければならない。それでもパイロットの操船に疑問があれば、操船意図を確認し、本船の安全にかかわる場合は、船長は操船指揮を代わることも常に念頭に置くこと

2) パイロットの操船意図
パイロットが乗船したら直ちに、パイロットカードやパイロットインフォメーションカード等により、パイロットの操船意図や計画を確認することが重要である。パイロットの操船意図に関しては、特に岸壁へのアプローチ方法や着岸法を打ち合わせる必要があり、その時の針路、速力、回頭方法、タグの使用方法など具体的な内容を含めること。本船の特殊性や操縦性能等によりパイロットの意図する操船計画を変更したい場合、パイロットと打ち合わせの上、最終的な操船計画を作成する。本計画は船橋チーム全員で共有し、ECDIS や海図にそれを記載する。

3) BRM/BTM
パイロットは船橋チームにとって初対面であり、また、その逆でもあり、言語による意思疎通も困難な場合がある。従い、両者の意図や計画に誤解が生じることも十分あり得るので、詳細な打ち合わせをするとともにお互いのコミュニケーションをできるだけ密にするように心がけ、両者の信頼関係を築くことが重要である。本船船橋チームは、パイロットに対し必要と思われる報告はできるだけ実施し、また操船意図、計画など少しでも疑問があれば積極的に問いかけることが重要である。このようにパイロットが船橋チーム、BRM/BTM の一員として参画することが安全運航の基本である。

 

Captain Hiroshi Sekine

Senior Loss Prevention Director

Date2023/01/23