ホールドクリーニング: 法的問題

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初めに

1) 次の積載貨物のためにカーゴホールドを準備する作業は、入念な計画と実行を伴う重要な作業です。

2) 適切な準備を怠ることは、汚染、浸水あるいは数量不足に対するクレーム、更には契約上の紛争に至る可能性があります。関係者は、傭船契約上、カーゴホールドが洗浄度や準備においてどこまで要求されているか正確に理解しておく必要があります。

3) 本稿では、幾つかの想定される法的問題を考察します。例えば、傭船契約でカーゴホールドの洗浄度に関して通常規定されている条件、これら条件に合致しない場合の結果、オフハイヤーのクレームと損害賠償に至る可能性、そして、独立したサーベイヤーの役割があります。

4) これらの問題を次の3つの判例で検討します:

a) London Arbitration 14/18

b) THE “BUNGA SAGA LIMA” [2005] 2 Lloyd's Rep. 1

c) London Arbitration 7/10

傭船契約上の条件

5) 船主と傭船者との間の契約条件は、傭船契約と傭船に先立って交渉され合意された成約要点に記載されているのが一般的です。

6) BIMCO NYPE 46フォームやNYPE 93フォームを用いた標準契約が一般的に使用されていますが、通常、追加的な文言や条項で大きく修正されています。したがって、傭船契約と成約要点を読み込んで、合意された内容を十分理解しておくことが重要です。

7) これらの傭船契約と成約要点では様々な表現が使用されていて、これらの表現に慣れておくことが肝要です。その例として:

a) 「ホスピタルクリーン」は、最も厳格で、ホールドの全表面に100%完璧なペイントコーティンングが要求されています(タンクトップ、全梯子段、及びハッチ下部を含む)。

b) 「グレインクリーン」は、ホールドに虫類、匂い、前荷の残滓、固縛材、錆垂れ、ペイントフレーク等がない状態が要求されます。貨物を積載する前に、ホールドを掃き出し、清水で流し出し、乾燥させ、かつ排気しなければなりません。これは最も一般的な要求水準です。

c) 「ノーマルクリーン」は、ホールドを掃き出して、前荷の残滓を全て取り除き、流し出し、かつ乾燥させて、同様のもしくは共用可能な貨物を受け入れる準備ができた状態です。

d) 「ショベルクリーン」は、流し出しを必要とせず、前荷を大まかにもしくは機械的な掃除で取り除くだけで足ります。

e) 「上積み」は、新たな貨物を既存の貨物の上部に積載します。これはある種の長期的は傭船契約で、特定の船舶が同じ貨物を恒常的に運搬する場合に最も適切な方法です。

8) 最も一般的な要件は、ホールドを「グレインクリーン」にするものですが、後述するように、条項が増幅される場合があります。例えば:「ホールドは掃き清め、清水で流し出し、乾燥させ、塩分、錆および前荷の残滓がないこと」。

独立したサーベイヤー

9) 傭船契約は、ホールドの洗浄度は「・・・独立したサーベイヤーによって決定される・・・」ことを要求しています。これはどういうことでしょうか?

10) 英国のこの判例(Protank Shipping Inc. v. Total Transport Corporation (the “Protank Orinoco”) [1997] 2 Lloyd's Rep. 42)では、商業裁判所がこの条件の意味を判断しました。この判例はある傭船契約における条項に関するもので、揚荷作業完了後に積荷が船内に残っていた場合、運賃から控除することを認めるものでした。その金額は「・・・独立したサーベーヤーが決定し、その評価額は最終的かつ拘束力のあるものとする・・・」となっていました。

11) トーマス判事の判断は42ページで、「・・・もし『独立した』の意味が当該サーベーヤーが企業もしくは団体で、当該船主や傭船者や受荷主などとは独立して運営されていれば、積出港がどこであれ、そこには少なくとも1人以上の『独立した」サーベーヤーが存在する可能性が常に存在する・・・」とあります。しかしながら、「・・・その評価額は最終的かつ拘束力のあるものとする・・・」という文言の挿入は、この傭船契約の条項が、あるサーベーヤーを契約当事者が共同で選任することによって、その決定を最終的かつ拘束力のあることを想定していた筈です。 

12) もし、この文言「・・・最終的かつ拘束のある・・・」の挿入がなかったらどうでしょう? トーマス判事の見解は46ページに続き、「・・・それとは全く別に、私は、そのサーベーヤーを共同で選任することなく、当該当事者がかかる重要な決定を託して、膨大な金額の金員について最終判断をさせることは極めてあり得ないと考える。」とあります。

13) この判断の後、独立したサーベイヤーは当事者が共同で選任するものとなりました。Charterparties: Law, Practice and Emerging Legal Issues (Baris Soyer and Andrew Tettenborn), 2018 Edition の168ページでは、「 この判例 [The Protank Orinoco]で、別段の明示がない限り、「独立したインスペクター」とは船主と傭船者が共同で選任したもの・・・」と述べています。

London Arbitration 14/18

14) そのような結論はLondon Arbitration 14/18において仲裁廷でも下されましたが、そこでは、「塩分なし」のカーゴホールドを提供するとの要件が検討されました。

15) 成約要点の第11条で本船のホールドは「・・・掃き清められ、清水で流し出し、乾燥させ、全ての点で傭船者が貨物を受け入れるべく、塩分、錆垂れそして前荷の残滓がないことに関し、独立したサーベーヤーが満足できるものとしています。この仲裁案件では、傭船者が自らの費用で雇ったあるサーベイヤーにより硝酸銀テストが行われました。

16) 最初のベトナムの積載港で、傭船者はオンハイヤー・コンディション・サーベイを行いました。船長の抗議にも拘らず、あるサーベイヤーが傭船者によって雇われ、本船のホールドで硝酸銀テストが行われました。塩分の痕跡が検知されたと申し立てられて、本船はオフハイヤーとなりました。

17) 当初はホールドが契約条件に合致しているという立場を保持していましたが、異議を留保して、船主は清水によるホールドの洗浄を手配して遅れを最小限にしようとしました。その後、貨物(鋼材)が積載されました。

18) 2番目の韓国の積載港では、傭船者はハッチカバーからの落水によって、ホールド内のスチールパイプは、塩分による汚染がひどくなっていると主張しました。パイプ上の塩分の出所について論議が発展しました。遅れを最小限にしようと、乗組員がホールド内のタンクトップをモップ掛けして、貨物を動かし「汗かき状態(sweat)」にしました。再度、傭船者は本船をこの停止期間中をオフハイヤーにしました。モップ掛けが終了して、ホールドへの積載が承認されました。

19) 傭船者が最初の積載港と2番目の積載港までの期間についても傭船料の支払いを留保していたため、船主はこの期間傭船料について調整を要請しました。

20) 傭船者は、硝酸銀テストは鋼材を積載する場合は習慣的に行われると主張しました。そのテストの結果、その期間を含めて、本船をオフハイヤーにする権利があるとしました。塩分の存在は、ホールドに「塩分がない」状態ではないことを意味するという考え方でした。

21) 船主の主張は、傭船契約の「塩分がない」が曲解されていて、硝酸銀テストを本船が当該条項を遵守していたことの証明に使用するのは適切でないとしました。船主は海上航行する船舶では、塩化物の痕跡を完全に除去するのは期待できないことを主張しました。

22) 仲裁廷は船主に有利な判断を下しました。傭船者は硝酸銀テストが慣習的であることを立証し得ていないと判示しました。このテストは感度が良すぎるので、もしそれが慣習的であったら驚きでしょう。

23) 「塩分がない」の解釈について、仲裁廷は傭船者の主張する文字通りの解釈を受け入れませんでしたが、それは好ましいものでしょう。海洋環境に置かれた船舶では全く塩分がない状態を期待するのはいかにも現実的でないと判断したものでした。

24) 仲裁廷が考慮したのは、より現実的で商業的に意味のある当該文言の解釈は「塩分の痕跡が顕著でない」であろう、というものでした。

25) 仲裁廷は、「硝酸銀テストが、傭船者の費用で、かつ両当事者が共同で委任したのではなく、行われたことが判明しています。したがって、X(サーベイヤー)は第11条の趣旨から『独立した』とは見做せない」、と判示しています。

26) 当該条項の規定は、本船がオフハイヤーとなるのは独立したサーベイヤーが満足できなかった場合とするものでしたが、それに頼ろうとした当事者、すなわち傭船者に対してより厳しく解釈されるべきです。

27) 傭船者が頼ろうとした調査結果が、傭船者だけから委任されたサーベイヤーの一方的なテストの結果であるため、仲裁廷は、傭船者は当該条項に従った手順を踏んでいないと判示しました。

“BUNGA SAGA LIMA” [2005] 2 Lloyd's Rep. 1

ホールドはどの時点で清掃されるべきしょうか?

28) もう一つの問題は、船主はどの時点でホールドを確実にクリーンにすべきか、です。典型的な契約条件としては、例えば:「最初の積載港への到着時点」;「積載港への到達時点」;「引渡し時点」あるいは「最初の積載時点」

29) この判例 “Bunga Saga Lima” [2005] 2 Lloyd's Rep. 1,では、本船Bunga Saga Limaの傭船契約は、NYPE 93フォームをベースに、短期の傭船期間で2回~3回の積荷航海を想定して修正されていました。

30) 傭船契約では次のように規定されています:

  • 21行目 - 「船舶は引渡し時に、貨物をクリーンな清掃されたホールドで受取る準備ができており、第29条に従って、堅牢、頑丈、強固、その他あらゆる点で適切なホールドで、バラスト水で満たされ・・・」
  • 第46 条(修正) - 「・・・引渡し時または最初の積載港到着時に、船舶は独立したサーベイヤーが満足するグレインクリーン水準でなければならない」と解されます。
  • 成約書の第13条 - 「船主は、船舶のホールドが引渡し時または最初の積載港到着時に、清掃され、清水により流し出され、乾燥され、錆漏れ、錆、塩分、前荷の残滓がない、あらゆる点で積載できる状態で、現地のサーベイヤーが満足する水準であることを保証する。本船がホールド検査に合格しない場合は、船主は自らの時間と費用でクリーニングを手配して、本船を不合格時から全てのホールドが合格するまでオフハイヤーとし、追加的な又はそれに直接関連して発生する費用は全て船主の負担とする。」

31) 当該傭船契約で、最初の積載港であるブラジルのセペティバで引渡された時、本船のホールドは、その前荷から発生した石炭の残滓で汚染されていました。しかしながら、傭船者は、残留していた石炭の残滓を除去する要求をせずに、鉄鉱石を積載しました。この鉄鉱石は、ポーランドのシフィノウイシチェまで運搬され、そこで揚荷されました。

32) 傭船者は、次にドイツのロストックで菜種をバルクで積載することを決定したため、石炭の残滓は除去する必要がありました。このため、ホールドを「グレインクリーン」水準に清掃するため、遅れが発生しました。

33) 傭船者の主張は、船主が傭船契約上の洗浄度保証に違反していたので、傭船者はロストックをオフハイヤーの起点とし、「グレインクリーン」が合格するまで継続すると主張しました。

34) 仲裁廷の判断は、最初の積載港で引渡しされた時点で、傭船者と船主の両者はホールドが「グレインクリーン」の要求に合致していないことを承知していた、としています。したがって、傭船者の主張は却下されました。

35) 本船は鉄鉱石を積載するために洗浄する必要がありませんでしたが、引渡し時にクリーンホールドを要請しなかったために、傭船者は2番目に積載港で発生した時間と費用を請求する権利を喪失してしまっていたことになります。

36) NYPE フォームと成約書によれば、クリーンでないホールドの場合に、本船をオフハイヤーに付すことができるのは、引渡し時または最初の積載港到着時だけで、それ以降はできません。

London Arbitration 7/10

37) London Arbitration 7/10では、“Bunga Saga Lima”と似た事例で、ある船舶がNYPEフォームを使って次の条件で傭船されました:

  • NYPE の22行目 - 「・・・船舶は引渡し時にクリーンに清掃されたホールドで貨物を受取る準備が出来ている・・・」
  • 第54条 - 「本船ホールドの状態は、最初の積載港に到着した時、清水による流し出し、クリーンドライ、錆垂れ、錆のスケール、前荷の残滓がない、その他全ての点で、傭船者の意図するカーゴを積載するための準備ができかつ適切であると、独立したサーベイヤーが満足するものであること。本船が積載港のサーベイヤーに拒否された場合は、検査に合格する状態になるまで、本船はオフハイヤーとなる・・・」

38) 本船の引渡しは、インドのハルディアで、その前の傭船契約での貨物(石炭)を揚荷した後、行われました。本船は、そこからバラストを積んでタイまで航行し、当該傭船契約下で最初の貨物(鋼材)を積載することになりました。本船のホールドは乗組員によってバラスト航海中に洗浄されました。

39) タイの積荷港に到着時、傭船者のオンハイヤー・サーベイヤーは、ホールドは良好な状態にあるものの、前の傭船契約での積荷(石炭)によって生じた、暗色の汚れがバルクヘッドや側壁に見られました。本船は鉄鋼貨物を積載し、タイから米国まで航行しました。航海中に、本船はワシントン州のバンクーバーで穀物を積載することが決定されました。

40) その後、本船はワシントン州のカラマに到着して鋼材を揚荷しました。NCB(米国貨物協会)のサーベイヤーがホールドを検査して、石炭の汚れを取り除くことを要請しました。傭船者はホールドがバンクーバーでの検査で合格しないだろうと心配していました。そこで、船長は化学物質を使用してホールドを清掃して、汚れを取り除きました。

41) 本船はカラマで揚荷し7時間後に、バンクーバーに到着しました。USDA (米国農務省)とNCBの検査で本船のホールドは拒否され、それはおそらく石炭の汚れに原因していたものと思われます。さらに5日間の洗浄を乗組員と陸上チームが行い、本船ホールドは再検査に合格しました。

42) 傭船者の主張は、船主が傭船契約に違反して、本船ホールドが、ハルディアでの引渡し時点で、石炭の残滓が存在して、バンクーバーでの穀物カーゴを受取るのに適した状態でなかった、とするものでした。

43) 仲裁廷はこの傭船者の主張を却下しました。傭船契約はホールドがどこまでクリーンであるか、またどの時点についてであるか具体的に規定していました。最初の積載港到着時に、ホールドは予定していた貨物(鋼材)を積載するために十分なだけクリーンであればよかったのです。乗組員はホールドを適切に清掃するための十分な時間が与えられましたが、本船引渡し前ではなく、最初の積載港へのバラスト航海中の、すなわち引渡しでした。

44) 船主は傭船契約上の義務に従っていました。乗組員が積載港までのバラスト航海中にホールドの清掃を適切に行っていたからです。傭船者は本船を無条件で受け取っており、船主は本船の第2番目の積載港到着時にホールドがグレインクリーン状態でなくても責任を負いません。これはThe Bunga Saga Limaにおける判断と一致しています。

証拠の保存

45) 紛争さらには紛争の可能性がある場合、関係者は事象が生じた当時の証拠を早い時期に確保して自らの立場を保護することが重要です。その例として:

  • 初期の交信記録
  • 電話交信の記録
  • 成約書
  • 傭船契約
  • 乗組員や外部業者への指示
  • サーベイヤーの立ち合い
  • 抗議の記録
  • 清掃記録
  • 備忘録
  • 写真

結論

46) 結論として、次の行動を取ることが重要です:

  1. 傭船契約と成約書の契約条件は入念に検討すること;
  2. 傭船契約の諸条件に従うこと;
  3. 不確かな時は、直ちに助言を求めること; そして
  4. 証拠を全て保存すること

Andrew Gray
Director & Mariner

andrew@cjclaw.com

Campbell Johnston Clark

 

Andrew Gray

Director & Mariner, Campbell Johnston Clark

Date2021/04/09