QCR Spring 2019-6: 船荷証券の所持人は、訴訟提起の権利を行使しなかったとしても、その滞船料の紛争について、仲裁を提起すべき義務を負うか?

SEA MASTER SHIPPING INC v ARAB BANK (SWITZERLAND) LTD (THE “SEA MASTER”) [2019] 1 Lloyd's Rep. 101 – 25th July 2018

事実

7000mtの大豆かすが、バルク積みにて、アルゼンチンのLorenzoにおいて、FOBによる買主であり、傭船者であるAgribusiness United DMCC社(「Agribusiness」),により、その後のCIFによる売買のため、「Sea Master」号に船積みされました。

Arab Bank (Switzerland) Limited銀行(「銀行」)は、貨物の購入のために融資を行い、船荷証券をその担保として取得しました。船荷証券は、ロンドン仲裁条項を含む傭船契約の条項を摂取していました。

事後の売買については、様々に、複雑な点が存在しました。そのため、本船は、何度も、異なる荷揚港への航行を指示されました。事後の売買の争いを解決するため、銀行は本船の船主(「船主」)との間で、異なる荷揚港での貨物の引渡しを可能にするため、「switch」船荷証券(「Switch Bill」)を発行することを合意しました。そこで、銀行が、船主に対し、元々の船荷証券をキャンセルのために交付し、新たなSwitch Billを担保として取得しました(左は、銀行の指示により行われました。)。

事後の売買の複雑さを解決しようとしている間、Agribusiness社は、傭船契約に基づき、相当な額の滞船料について責任を負うこととなり、それは結局、支払われませんでした。

銀行は、その後、本船上の他の貨物に関し、他の船荷証券に基づいて、船主に対し、仲裁手続を開始しました。船主は、これに対し、銀行に対して、Switch Billに基づき、滞船料と、貨物の引渡し遅延に基づき本船が抑留されたことに基づく損害賠償を請求しました。

銀行は、(i)Switch Billの当事者ではないこと、また、(ii)当該貨物について請求を行っていないから、1992年英国COGSA第3条に基づき、基本となる運送契約に基づく責任は負担しないこと、を根拠として、Switch Billとの関係において、仲裁の合意に拘束されない、と反論しました。

仲裁廷は、銀行は、船荷証券契約の当事者ではないと判断し、船主の銀行に対する請求について管轄権を有しない、と判示しました。船主は、1996年英国仲裁法第67条に基づいて、高等法院(訳者注:英国の第1審裁判所)に対して、上記の仲裁判断に異議を申し出ました。

判決

裁判官は、船主の第67条に基づく申立ては認められるべきであるとし、仲裁廷は、船主の請求について管轄権を有している、と判示しました。

裁判官は、仲裁の合意は、認定された複合的な契約とは別個の、独立した存在である、と判示しました。この独立可能性の理論における1つの側面は、紛争を発生させる複合的な契約が解除されたとしても、さらには、当初から無効であったとしても、仲裁人に対して管轄権が付与される、とする点です。紛争を解決する仲裁人の管轄権の基礎は、独立した仲裁合意にある、とされました。

裁判官は、1992年COGSA第2条と第3条の効果は、船荷証券中の仲裁条項を2つに分ける、つまり、第2条に基づき仲裁権限を付与するものと、第3条に基づき仲裁の義務を課すものとに区別するという議論を承認しませんでした。

裁判官は、一方当事者が仲裁の対象たりうる紛争について訴訟を提起する権限を有していながら、他方当事者がそれについて仲裁をなす権限や義務を有することは、紛争を仲裁に付すという合意の性質に反するものであろう、との見解を持ちました。

仲裁合意における当事者の権利、義務、又は、選択権は、相互的な、非独立したものです。一度、仲裁の対象たりうる紛争が生じた場合、いずれの当事者が紛争を仲裁人に付託したとしても、また、他の紛争解決機関に付託したとしても、それらが適用されることになります。

コメント

本判決は、船荷証券を担保として所持する者(通常、銀行)は、船荷証券中の、又は、それにより証される仲裁条項に基づく仲裁廷の管轄権に服すること、を明確にしました。これは、仮に、上記の当事者が証券中の権利の行使を試みなかったとしても、また、証券に基づく権利を取得したとしても、同様です。

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

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Date2019/05/21