QCR Spring 2020-4: 荷送人からクリーンBLに署名するよう提示された船長は、船積みされた貨物が良好な状態であることを保証されたといえるか否か-ヘーグ・ルール第3条、第5条の考察
事実
Tai Prize号は、Noble Chartering Inc社(「Noble社」)に定期傭船に出され、さらに、Priminds Shipping (HK) Co Ltd社(「Priminds社」)に対し、ブラジルから中国への大豆の運送のため、航海傭船に供されました。荷送人の代理人は、以下の情報に基づき、船荷証券のドラフトを作成し、船長にそれに署名するよう求めました。
「ブラジル産大豆63,366.150Mt
良好な状態で船積
運賃前払い」
船荷証券は、船長のため代理人により、何らの留保もなく、作成された。そこには、貨物は「船積港において、外観上、良好な状態で、本船上に、荷揚港への運送のために、船積みされた。重量、体積、品質、容量、状態、内容、及び、その価値は、不知。」と記載されました。ヘーグ・ルールは、航海傭船契約同様、船荷証券にも摂取されました。
荷揚の際、貨物の一部が、熱と変形による損害を被った。荷受人は、船主に対して請求を提起し、中国の裁判所により、百万米ドルを超える額を認容する判決を取得しました。船主は、荷受人と和解し、その後、傭船契約の文言に基づき、Noble社に対して、その和解額の50%の求償を求めました。Noble社は、船主と和解し、その和解額、及び、関連する費用について、Priminds社から求償を得ることを求めました。航海傭船契約書においては、Noble社が依拠できる明文の条項はありませんでした。
仲裁人は、貨物は、既に損傷を受けた状態で船積みされた、との事実認定を行いました。損傷は、船積時に、船長により合理的に認識可能なものではありませんでした。しかしながら、荷送人は、合理的な方法で、豆の状態を発見することができた、と認定されました。
仲裁人は、一般的な黙示的義務としての求償義務に基づき、Priminds社から求償を得ることができる、というNoble社の主張を否定しましたが、以下の理由に基づき、Priminds社はNoble社に対して責任を負う、と判示しました。
(i) 荷送人は、Priminds社の代理人であったから、船荷証券中の貨物の状態に関する記述の正確性を黙示的に保証したものであり、また、そのような記述の不正確さの結果について、Noble社に弁償することを黙示的に合意したものといえる。そうでなければ、Noble社は、「傭船者の側にいる者の不始末」に対して、何も、回収する権限なしに放置されることになる。
(ii) 貨物の外観の状態に関する記述のある船荷証券に対して、船長にそのサインを求めることによって、Priminds社は、その代理人である荷送人により、貨物は、「外観上、良好な状態で、船積港において、船積された」ことを保証したものである。
(iii) 貨物の変色は、荷送人による合理的な検査で発見できていたはずであるから、たとえ、それが船積中、船長や船員、ステベ、又は、Priminds社の代理人に発見できないものであったとしても、「外観上、良好な状態で」船積されたものではなかった。
判決
高等法院は、上記の仲裁人による事実認定は受け入れざるを得なかったものの、以下の理由に基づいて、Priminds社の異議申し立てを認めました。
(i) ヘーグ・ルール第3条第3項は、荷送人が書面により通知した、貨物の特定に必要な記号や、貨物の包の数、個数、量、又は、重量、及び、貨物の外観上の状態を記載しなければならないことを規定している。
(ii) ヘーグ・ルール第3条第5項は、次のとおり、規定している。「荷送人は、運送人に対して、船積時において、通知した記号、数字、量、及び、重量の正確さを保証したものとみなす。荷送人は、そのような事項の不正確さの結果生じた全ての損失、損害、及び、費用について、運送人に対して弁償する。」つまり、貨物の外観上の状態については、補償がなされたものとはみなされない。
(iii) 貨物の外観上の状態は、運送人により、評価されるべきものである。船長に船荷証券に署名することを求めることは、荷送人は、船長に対して、貨物の外観上の状態についての船長の表かに従い、事実の表示を行うことを求めること以上のことは行っていない。
(iv) 船長は、自己の評価を行わなかったこと、又は、署名を求められたドラフトを提示されたことに基づく、黙示的な表示に基づいて行為したことは、仲裁人は認定していない。関連する欠陥は、船積中、船長や、Priminds社のその他の代理人にはそれを合理的に発見することはできなかったから、本件の船荷証券は、外観上の状態について不正確ではない事実の表示を記載するもの以上のものではない。
(v) Noble社は、回収する権限なしに放置されかねないという、仲裁人の心配については、裁判所は、この心配は、不適切である、とコメントしている。Noble社の責任は、「傭船者側の者」のいずれかの不始末により生じたものではないことを指摘した。それは、Noble社が、貨物の真の状態を示しながら請求に抗弁することなく、船主に対して和解金を支払うことを決定したことから生じたものだからである。
コメント
高等法院の裁判官は、船荷証券をクリーンなものとして発行したことは、ミスではない、と指摘しています。船積時には、損害は明確ではありませんでした。荷揚港において損害が発見されたとき、運送人はその請求を拒むことができました。本件において、船主はそうしましたが、成功しませんでした。
貨物の外観上の状態については、荷送人による弁償があるものと考えることはできません。ヘーグ・ルールが航海傭船契約に摂取されましたが、それは、傭船者に対して、それが通知した情報についてのみ、弁償の義務を課し、貨物の外観上の状態についての記載に関しては、それを課しません。
貨物の外観上の状態を評価し、船荷証券に記載する必要があるか否かを決定するのは、船長です。そのような決定をなす船長に適用されるべき基準は、「合理的な船長」に適用されるべき基準であり、専門家としてのサーベイヤーに適用されるべきそれではありません。もし、船長が船積時の貨物の状態を確認するため、補助を要する場合には、そのPIクラブが補助のためのサーベイヤーを選任することができます(「David Agnashenabeli」号事件([2003]1 Lloyd’s Rep 92))。
裁判官は、また、弁償(求償)のような規定を、専門家によりドラフトされ、交渉された契約の中に、黙示的に認定しようとすることについて、一般的に注意を与えました。文言を黙示的に認定することは、契約に商業的な有効性を付与するために必要な場合であるか、規定されたことが明白であるので、明文の文言を置かなかったような場合にのみ、行われるべきである。
以上
和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)
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