貨物船と漁船の衝突

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はじめに

わが国近海では、漁船が多く操業しており、その結果貨物船と漁船の衝突は後を絶ちません。今年に入ってからも、次のような痛ましい事故が発生しました。

2021年5月26日 漁船・貨物船衝突

北海道紋別市の沖合で毛ガニ漁船「第八北幸丸」がロシア船籍の運搬船と衝突して転覆し乗組員3人が死亡した事故が発生しました。海上保安部は当時の状況から運搬船が止まって操業していた漁船に気付かずに航行した可能性もあるとみて、調べを進めることにしています。第八北幸丸の乗組員5人のうち3人が死亡、2人が軽いけがをしました。

写真:NHK 2021年5月27日

本稿では、わが国の貨物船と漁船の衝突事故に関する、最新のデータを示すことにより、漁船との衝突事故をどのように避けるべきかを考えたいと思います。

海難審判所データ

わが国の海難審判所では多くの海難事故を扱っていますが、その中で衝突事故が最も多い海難と言われています。2019年における海難審判所で採決された事件は304件ですが、そのうち衝突事故は最も多く114件(全体の38%)となっています。また、その衝突事故に関与した船舶は237隻となり、それらの船種を見ますと次のようになります。

表-1 衝突事故における船種別隻数(2019年)

上表からわかるとおり、漁船が関わる衝突事故がもっとも多くなっています。(上記データには、漁船が貨物船以外の船舶、構造物に衝突した事故も含む)

次に2019年及び2020年に発生した貨物船と漁船の衝突事故の全データ(概要)を示します。(運輸安全委員会資料)

表-2 貨物船・漁船衝突事故概要(2019年~2020年)

これらデータを概観すると、貨物船及び漁船両者の避航や見張りが不十分であることがわかります。

また、2019年の漁船の海難原因は、表-3のとおりであり、表-2に示す事故概要からもわかるとおり、主な原因(上位)は、見張り不十分や居眠りであるということがわかります。

表-3 漁船海難における原因

漁船と遭遇したら

貨物船が漁船と遭遇した場合、どのように対応すれば良いでしょうか。当然のことながら、海上衝突予防規則(COLREGs)の航法の遵守です。また、輻輳する漁船群に遭遇した場合は、次の事項も重要となります。

  • 避航する場合、早期かつ大胆な回避行動(第8条)
  • 適切な当直体制をしき、厳重な警戒、見張り(第5条)
  • 減速や手動操舵を考慮(第6条)
  • 警告信号(第34条)

一方、表-3に示す漁船海難の原因をみると、上位5原因の内、「船位不確認」を除く4原因(115件、全体の73%)が示すものは、何等かの理由により、漁船側の避航に期待ができないというものです。

従って、漁船に遭遇した場合、状況が許すならば(時間や距離、周囲の状況等)、海上衝突予防規則第7条「衝突のおそれ」が発生する前に、早期に行動を取り、自船の操船によって、漁船を避航することが肝要と思われます。

以上

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1Data sourced from The Japan Marine Accident Tribunal Annual Report 2020, https://www.mlit.go.jp/jmat/kankoubutsu/report2020/report2020.pdf (NB this report is in Japanese only)

 2Table taken from the website of the Japan Transport Safety Board

https://www.mlit.go.jp/jtsb/english.html

3Data sourced from The Japan Marine Accident Tribunal Annual Report 2020, https://www.mlit.go.jp/jmat/kankoubutsu/report2020/report2020.pdf (NB this report is in Japanese only)

Captain Hiroshi Sekine

Senior Loss Prevention Director

Date2021/07/16