AMSAによるPSC-ECDIS関連拘留

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ECDISの使用にあたり、航海者たちにとってどのような点が問題なのか、具体的に知る必要があると思います。現在世界中で運航している船舶の現状について、ECDISの使用に関する問題点を抽出したいと思います。

次に示すデータは、AMSA(Australian Maritime Safety Authority)によるPSC(Port State Control)検査の際に、重大な不備事項(deficiency)が指摘され、拘留(detention)された船舶の例です。

これは2017年から2019年の3年間に豪州で実施されたすべてのPSC検査の内、ECDISに関わる不備によって拘留された全船舶を示したもので、概要は次のとおりです。(ECDIS以外、複数のdeficiencyで拘留された船舶も含む)

 AMSA ECDIS関連拘留リスト(2017年-2019年)

  船種 欠陥(Deficiency)

拘留期間 

(日-時間-分)

 
拘留解除理由
2017   バルク 船橋チームは、ECDIS起動に関し精通していない 1-3-15  SMS監査実施
2018 ガス ECDISの安全手順が不十分であり、乗組員はECDISと海図に精通していない 0-5-0  追加SMS監査実施
  家畜運搬 ECDIS上での位置測得できず 3-14-30 追加SMS監査実施及び追加訓練
  バルク 乗組員はECDIS上で手動プロッティングができない 1-4-30 追加SMS監査実施
  一般貨物船 乗組員はECDISの諸機能及び重要な設定に精通していない、また、重要なECDIS設定に関する航海情報やその手順書に関し説明できない 7-0-50 追加SMS監査実施
  コンテナ ECDISの重要な安全に関わるパラメータを正しく設定できない、また、航海士はECDISの重要なアラームに関し起動できない 1-3-30 追加SMS監査実施
 2019 穀物 乗組員はECDISの安全水深に関する会社手順の違反(安全水深が喫水より小さい)、及びECDISの前方監視機能に精通していない 2-1-54 追加SMS監査実施
  家畜運搬 航海にECDISを使用せず、ECDISに最新の海図を使用していない。航海士は船上でのECDIS訓練をしていない 3-0-0 追加SMS監査実施
  バルク 航海士は、次航海のECDIS用ENC(電子海図)を説明できなかった 1-6-0 欠陥を修正
  バルク 航海計画がBerth/Berthでは無い、またECDISでの監視に精通していない 3-13-15 欠陥を修正
  バルク パイロットステーションからバースまで、ECDISあるいは、紙海図で位置測得せず 1-5-10 欠陥を修正
  バルク 該当航海に必要な全てのENCは、最新のものでは無く、いくつかは数週間前に期限切れである。また、航海に必要なデジタル水路書誌は、最新に改補されていない 2-10-30 追加SMS監査実施

  

①拘留隻数

 ECDIS関連での拘留隻数は、2017年/1隻、2018年/5隻、2019年/6隻であり、
年間の総拘留隻数(2017年/165隻、2018年/161隻、2019年/163隻)に比べると、非常に少ない数字となっています。

②欠陥(Deficiency)

欠陥事項は、大きく分けると下記のとおりですが、航海の基本ともいうべき、位置の測得がECDIS上でできないという指摘は、大変残念なことです。

  • ECDISの操作、機能に精通せず: 7件
  • 位置測得不可: 3件
  • 電子海図の操作: 5件

③拘留期間

拘留期間は、1日から3日程度となっており(1隻のみ7日)、船舶の運航上、船主や用船者にとって、大きな損失となっています。

④拘留解除理由

12隻中9隻は、追加SMS監査を実施し拘留が解除となっていますが、これは管理会社のDPA(Designated Person Ashore、SMS管理責任者)や訓練担当者が本船訪船の上、ECDIS教育、訓練を実施後にSMS監査を実施したというものです。

このように、ECDISの機能や操作については、まだまだ問題があり、紙海図を扱うのと同様に安全航海を達成するには、船長を含め全ての航海士は、ECDISに関し精通する必要があります。

こういったPSCの指摘は、航海者にとってはECDIS操作の重要性を認識する良い機会であり、結果としてECDIS関連事故を防止するきっかけになればと思います。

 

 

以上


<参考資料>

Staff Author

PI Club

Date2021/01/12