汚損貨物の海上投棄に関する考察

この記事は、国際的な海洋温暖化防止のための規制、損傷した船上貨物を海洋投棄することに関連し海運業界で行われている問題解決への取り組み、そしてこれらの問題に対する日本の対応を取り上げたものです。

Ⅰ.廃棄物処理に関する規定 

1. MARPOL

船舶の廃棄物は通常運航中に食事・生活及び運航に関連して発生するものであり、その処分方法等に就いては73/78MARPOL条約(正式名称:1973年の船舶による汚染の防止の為の国際条約に関する1978年の議定書)の選択付属書IV(船舶からの汚水による汚染の防止の為の規則)及び付属書V(船舶からの廃物による汚染の防止の為の規則)に規定されている(尚、同条約は本文および6つの付属書から構成される)。

現行の船舶からの廃棄物の海洋投棄に関する規定は2016年10月MEPC70(第70回海洋環境保護委員会)において付属書Vが改正(条約改正)され、2018年3月1日に発効された事に対応して国内法として海洋汚染防止法(同施行規則)も改正され、発効されている。

MEPC70において改正された付属書Vの骨子としては

1) 穀物を除くばら積み貨物について海洋環境に有害かどうかの基準が追加、

2) 荷送人は貨物が海洋環境に有害かどうかを船長に情報提供する事の2点となる(原料や製品の入出荷、廃棄物の運搬で船舶を使用する場合、事業活動に伴って生じた廃棄物の処理責任は船舶運航事業者である為、船舶輸送後に発生する貨物残渣に関しては船舶運航事業者が排出事業者となる)。

又、前回のMEPC62において改正された2011年7月付属書V(2013年1月1日に発効)では海洋環境に有害(Harmful to the marine Environment <HME>)でないと認められる一部の廃棄物を除き、船内廃棄物の海洋投棄は原則禁止となっている。

同改正付属書Vにおいて規制される廃棄物は貨物残渣、洗浄水中の洗剤・添加物、ダンネージ・ライニング、動物の死体、全てのプラスチック、食べ物くず、料理湯、漁具、日常生活廃棄物、その他の通常廃棄物である。上記廃棄物の内、今回の改正後、規制が追加された貨物残渣と洗浄水中の洗剤・添加物は夫々海洋環境に有害でないもののみ12海里以遠で排出可及び海洋環境に有害でないもののみ排出可であると規定されている。

2. ロンドンダンピング条約

陸上で発生した廃棄物を船舶等から海洋に投棄することは、「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(Convention on the Prevention of Marine Pollution by Dumping of Wastes and Other Matter,1972;通称ロンドンダンピング条約)」により規制されている。

船舶、海洋施設、航空機からの陸上発生廃棄物の海洋投棄や洋上での焼却処分を規制し海洋汚染を防止するための国際条約で、1972年11月13日に採択され、1975年8月30日に発効した。わが国は1980年10月15日に批准し、同11月15日より効力を生じている。

さらに、1996年11月7日には、現在の72年条約に代わるものとして、より規制を強化した1996年議定書が採択された。この条約の最も重要な変革点は、precautionary approachと呼ばれる手法を取り入れたことであり、廃棄物その他の物が海洋投棄された時に害を及ぼす可能性があると信じる理由がある場合、その因果関係を証明する明確な証拠が無い場合であっても「適切な防御措置」を採ることを要求している。また、72年条約では、ある一定条件の下で海洋投棄が認められていたのに対し、一切の海洋投棄を禁じる物質を列挙した「ブラックリスト」が策定された。

この72年条約は2018年11月現在87ヶ国が締結し、96年ロンドン議定書(その後、3度に亘って改正)には51ヶ国が締結している(尚、1996年議定書及び2006年改正議定書については発行済である)。又、米国は同条約を締結しているが、同議定書については未締結である。 

汚損貨物の海上投棄の対応

1. 汚損貨物の海上投棄の現状

汚損貨物の処理に関しては関連条約には具体的な記載はなく、現行のMARPOL条約(国内法では海洋汚染防止法)やロンドン・ダンピング条約(廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約、国内法では「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)」、以下、ダンピング条約とする)を厳密に解釈すると積載貨物は船内生活若しくは船舶の運航に関連して発生した廃棄物ではなく(端的に言えば、不要物という範疇に分類)、同法に準ずると原則海洋投棄は出来ないと解釈される。

又、同貨物を船舶の運航活動によって生じた廃棄物であると解釈して海洋投棄を行なう場合、MARPOL条約(及び海洋汚染防止法)が適用される事となるが、MEPC62(第62回海洋環境保護委員会)において海洋環境に有害(Harmful to the Marine Environment<HME>)でないと認められる一部の廃棄物を除き、船内廃棄物の海洋投棄は原則禁止とされており、一方、同改正MARPOL付属書Vには海洋環境に有害でない貨物残渣は12海里以遠で排出可と記載されている事から、個別の貨物ごとの判断となると考えられる。尚、上記海洋環境に有害な貨物残渣の基準は「急性毒性、慢性毒性、長期健康毒性」の有無となるが、同貨物の内容把握は現在義務付けられておらず、当面の努力義務目標とされている。

2. 汚損貨物の海上投棄の対応

汚損貨物を船内発生の破棄物として海洋投棄を行なう事が困難である場合、陸揚げを行なうしかないが、バーゼル条約により、基本的に廃棄物の輸入・輸出が規制されている事から、廃棄物としての陸揚げは困難であり、又、ダンピング条約により、陸上発生の廃棄物の船舶等からの海洋投棄も規制されており、原則海洋投棄も難しいという事になる。

従って、本邦において汚損貨物を処理するには原則有価物(廃棄物としてではなく)として陸揚げした後、陸上で廃棄処分するか、緊急事態と判断される(大規模)海難として、「海洋汚染防止法第10条第2項6号」を適用し、環境大臣の許可のもと、海洋投棄する措置を取る必要があると思われる。

結論としては関係官庁・関係者と協議し、十分にコンセンサスを取りながら、手順を踏んで、廃棄物の処理を行なっていく必要がある。

Mitsuru Ishibashi

PI Club

Date2021/02/10