回覧11/20: Nord Stream 2およびTurkStream-米国制裁措置の最新情報

American flag on building

アウトライン

  • 本回覧は、Nord Stream 2およびTurkStreamパイプラインプロジェクトの建設やいずれかのプロジェクトに関連して船舶やサービスを提供する者を対象とした、米国制裁の強化について認識していただくためのものです。
  • 制裁は、主に2つの法律、すなわち、「敵対者に対する制裁措置法」(CAATSA: the Countering America's Adversaries Through Sanctions Act)および「欧州エネルギー保護法」(PEESA: the Protecting Europe's Energy Security Act)に基づいています。 本回覧では概要をまとめています。
  • メンバーの皆様は、いずれかのプロジェクトを支援する活動に船舶を使用することは、クラブの制裁にかかわる免責事項に該当する可能性が高いことをご承知おきください。

     

メンバー各位、

前書き

Nord Streamは、ロシアからドイツへの海底天然ガスパイプライン事業です。これには最初に敷設されたNord Stream(NS1)と呼ばれるVyborgからGreifswaldまでの2ラインと、Nord Stream 2(NS2)と呼ばれるUst-LugaからGreifswaldまでの2ラインがあります。 NS1は、Nord Stream AGが所有、運営しており、その大株主はロシア国営企業Gazpromです。NS2は、Gazpromの完全子会社であるNord Stream 2 AGが所有しており運営も行う予定です。

NS1は2012年10月8日に完成しており、NS2の設置作業は2018年から2019年にかけて行われましたが、米国の制裁措置で中断されました。米国の制裁が課される前は、2020年半ばに稼働が開始されると予想されていました。

TurkStreamは、ロシアからトルコまでを結ぶ天然ガスパイプラインです。 これは、ロシアのAnapa近郊のRusskaya圧縮ステーションから黒海を渡り、Kıyıköyの受入ターミナルまで敷設されています。 TurkStreamは2017年5月に建設が開始され、ブルガリアへのパイプラインによるガス供給は2020年1月1日に始まりました。

本回覧は、NS2およびTurkStreamパイプラインプロジェクトの建設と、いずれかのプロジェクトに関連して船舶やサービスを提供する者を対象とした制裁を強化する米国の取組みに関するものです。 最近の取組みは主に2つの法律、つまり「米国への敵対者に対する制裁法」(CAATSA: the Countering America's Adversaries Through Sanctions Act)および「欧州エネルギー安全保障法」(PEESA: the Protecting Europe's Energy Security Act)に集中しています。 CAATSAとPEESAの制裁権限の文言は異なりますが、どちらの法律も、米国籍以外の船主やその他海事関連業者(保険会社を含む)の活動に影響する可能性があります。 それぞれの法律の概要は以下の通りです。

CAATSA

米国議会は2017年にCAATSAを可決しました。CAATSA第232条には、主管庁がロシアのエネルギー輸出パイプラインの建設に関連する特定の高額投資またはその他取引を制裁の対象とすることを許可する (ただし、求めてはいない)という規定が含まれています。第232条は、米国国務省に、米国財務省と協議したうえで制裁を発動する権限を付与しています。

国務省は、CAATSAが施行された時点では、その裁量権を行使して、2017年8月2日以降にプロジェクト契約が締結されたロシアのエネルギー輸出パイプラインを対象としない方針を採用していました。 この方針により、NS2とTurkStreamは事実上、第232条の対象範囲から外されました。 2020年7月15日になり、国務省は、この方針の変更を公表し、第232条施行の目指すところは、より広い範囲でロシアの輸出エネルギーパイプラインを対象とすることを明確にしました。この方針の変更により、NS2とTurkStreamが含まれることとなりました。 方針の変更を発表する際に、国務省は、この制裁の目的は、国務省が、ロシアの「悪質な行為、つまり米国やその同盟国に対する攻撃的行動への報復」と断定したため、ロシアに対しコストを課すことであると述べています。

この方針変更に伴い、特に第232条(a)の適正市場価値の基準値を満たし、NS2またはTurkStreamの拡大、建設、近代化を直接また大幅に促進する、ロシア連邦の商品やサービスを販売、リースまたは提供等を行う者は、(米国による阻止を含む)制裁の対象となる可能性があります。この金額の基準値は、適正市場価格が100万米ドル以上、あるいは12か月間の総額が500万米ドル以上とされています。

現在、国務省は、第232条の規定を広く解釈して、NS2の建設に関連する幅広いサービスを網羅することを示唆しています。制裁対象となるサービスは、必ずしも第232条に該当するロシア連邦との直接契約に限られてはいません。 したがって、NS2またはTurkStreamに関連して使用されるあらゆる種類の船舶の提供、あるいはそのような船舶へのサービスの提供(例えば、管理、保険、港湾サービスなど)は、契約相手の身元に関係なく、米国以外の者に、第232条に基づく制裁措置の対象となる危険にさらす可能性があります。金額の基準値も考慮する必要がありますが、この基準値は幅広い解釈がされることもあり得ます。提供した船舶またはサービスの適正市場価値が、該当する契約で定められた価格にのみ限定されると考えるべきではありません。例えば、管理サービスの適正市場価値は、管理手数料だけに限らない場合もあるかもしれません。

PEESAおよびPEESA明確化法案

2019年12月、米国はPEESAを制定し、2019年12月の署名直後に発効しました。PEESAは、NS2およびTurkStreamに関連するパイプライン敷設に従事した船舶、またそれを知りながら、これら船舶を売却、リースあるいは提供した外国人またはそのようなプロジェクト建設のための船舶やこれらを提供するための詐欺的または計画的取引を援助した外国人に対して制裁を科すことを義務付けています。 PEESAにより承認された制裁の種類には、米国管轄内にある外国人の資産凍結、ビザの取消しや、外国人の会社役員および主要株主の米国への入国拒否などがあります。

PEESAに基づく制裁は不十分でありNS2の建設が継続していることに対し不満があるとして、上院および下院の議員グループが、最近PEESAの修正法案を提出しました。 上院法案3897および下院法案7361はそれぞれ、PEESA明確化法を通じてPEESAを強化し明確化することを提案しています。 これらの二法案は文言は多少異なりますが、どちらも強制的に制裁措置を科す必要のある活動の種類を拡大しようとしています。

どちらの法案も、パイプライン敷設船を対象とすることに加えて、PEESAの適用範囲を拡大し「パイプ敷設活動」に従事する船舶までも含めるようにしています。 この活動とは、「敷設用地の準備、溝掘り、測量、岩石配置、架線敷設、曲げ加工、溶接、塗装、パイプの下降、埋め戻し」などのパイプ敷設を支援するものとして定義されています。 どちらの法案も、文言は少し異なるものの、このような敷設活動に従事する船舶、あるいはそれらの販売、リース、提供を促進する者を対象としています。 さらに、両法案は、PEESAに記載されている船舶、たとえばパイプ敷設船またはパイプ敷設活動に従事している船舶、に対して保険引受サービスまたは保険または再保険を提供する者に制裁を科すことを要求する規定を提案しています。 現行法案では、保険引受人、保険会社、および/または再保険会社に対するデューデリジェンスに例外は認めていません。 さらに、上記で説明したCAATSAとは異なり、PEESA明確化法案には制裁を課すための金額的基準値は定められていません。

上記の二法案は、共和党と民主党、および連邦議会の両院で超党派の支持を得ていますが、それぞれの上院と下院の委員会を通過させようとしてます。 したがって、法案が調整、承認され、大統領に署名を求める決議が議会で可決されるかどうか、またそれがいつになるかは不明です。 法案が可決された場合、PEESA明確化法は、米国以外の船舶所有者およびオペレーター、ならびにその保険会社に重大な影響を与える可能性があります。 とりわけ、議会への報告書において、船舶が「パイプ敷設」活動に従事していると特定された場合、その船舶の保険会社も報告書で特定される可能性もあります。 報告書において企業が特定されると、PEESA明確化法が施行された場合に、その規定が最終的にどのように実施されるかはまだ不明ではありますが、厳密にいえば、PEESA明確化法の明確な条文の下で制裁が課せられることになります。

クラブカバーへの影響

メンバーにおかれては、違法および/またはクラブが制裁違反となる危険にさらすような活動に関与する船舶に対して保険カバーは無いことをご承知おきください。 CAATSAとPEESAによって保険会社にもたらされる直接的な制裁の脅威を考慮し、Nord Stream 2またはTurk Steam建設プロジェクトに関係、または関連するいかなる活動についても、クラブの保険カバーは適用されません。

したがって、すべてのメンバーにおかれては、Nord Stream 2またはTurk Steam建設プロジェクトに関連の契約を締結するリスクについて、評価し、軽減をすべく、制裁や執行措置を課されぬよう、最大限の注意を払っていただくことを強く要請いたします。

結 論

上記の事柄を考慮し、米国以外の船主、保険会社等にとりまして、より差し迫った問題はCAATSAの第232条です。 米国国務省は2020年7月15日に、NS2およびTurkStreamに第232条を適用することを明らかにしました。 そのため、NS2またはTurkStreamに関連して使用されている船舶を所有または運航している場合、またはそのような船舶にサービスを提供している場合は、その活動が第232条の制裁規定の適用に抵触するかどうかを検討する必要があります。

さらに、修正法案による制裁措置の義務化や強化の実態を踏まえ、PEESA明確化法案を取り巻く動向を監視することが重要です。

国際グループのすべてのクラブは、同様の回覧を発行しています。


UKP&Iクラブ 日本支店



国際グループは、本回覧の草案作成において、米国のFreehill, Hogan & Mahar LLP法律事務所のジーナ・ベネチア弁護士に感謝いたします。

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Staff Author

PI Club

Date2020/09/18