事故の教訓:ガスオイル貨物のコンタミ事故

船種:タンカー
事故の概要
ナフサを揚荷後、本船はガスオイルを積載することになった。その準備として、すべての貨物タンクとパイプを清水で洗浄し、乾燥を行った。積載港に到着した時点で、荷送人が手配したサーベイヤーが貨物タンクの検査を実施した。タンク内は不活性化するため水滴を残すことを禁じていた。また、タンクの大気試験も行われ、炭化水素(ナフサ蒸気)の含有量は2%未満であったため、積荷開始に適合すると報告された。
貨物タンクから「First Foot (最初)」のサンプルを取るために船積みが中断されたが、分析の結果を待つことなく、用船者は積荷を続行するよう指示した。貨物の積載がかなり進んだ段階で初めて、サンプル分析で貨物の引火点が仕様最低値を下回っていることが判明したため、用船者は本船に積荷中止を命じた。その時点で積載された貨物の量が比較的多かったため、貨物をオンスペックに戻すための対応策に有効なものが無く、結果的に高額クレームとなった。
分析
陸上タンクと本船マニホールド内のサンプルはオンスペックであり、問題の原因は本船に限定された。貨物のコンタミの潜在的原因は2つに特定された。:
第1に、前の貨物の油混合水を貯留するスロップ・タンクの底部からとった、油と分離した清水を使用してタンク洗浄を行った。 第2に、蒸発したナフサの蒸気はタンク底層にたくさん溜まっていたが、これがガスサンプリング時には検出されなかったために、不活性化タンク内の炭化水素含有量が実際より少ないと思われてしまったと考えられる。
船主は、荷主が、通常行われている慣習に従って「first foot(最初のサンプル)」の分析結果が判明するまで、積荷作業を停止していれば、貨物の引火点を正常な仕様基準まで戻すための対応措置を取ることができた可能性があり、そうすれば、貨物価値の下落を減じることができたと主張した。
これは技術的には正しいが、法的なアドバイスとしては、ヘーグヴィスビールール(Hague Visby Rules)に基づく船主の最重要義務は、積載する貨物の引受けに適した状態で貨物タンクを提供することとされている。
事故の教訓
- 貨物タンクが汚染されてなく、積載する貨物に適した状態であるということを確実にするという究極の責任は、船主にある。
- 積載前のタンク検査に合格したということは、必ずしも貨物タンクが適合した状態であることを証明するものではない。
- タンククリーニング、あるいは積荷作業に関する用船者指示に疑問を感じたら、船長はすぐにその指示に異議を唱え、船舶管理会社に通知するべきである。
- 有資格サーベイヤーや貨物専門家を早い段階で介入させることで、問題解決あるいは大幅な損害の軽減につながることがある。
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