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安全運航とステークホルダー

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全ての企業に社会的責任

海難が発生すると、責任の所在を問われることになりますが、その対象は当該船舶のステークホルダー(利害関係者)となります。

その責任とは、法的責任または社会的責任であり(またはその両方)、前者はその該当船舶の運航や管理に関し、各法で定められている法規上の責任、すなわち乗組員、船主、船舶管理者、また裸用船者等がこれにあたります。後者はそれ以外の組織であり、近年、海難発生時においては、特に運航者(用船者)の責任に関し議論されることが多くなっています。

そもそも組織は社会的責任(法的責任が無い)を負うべきなのか、という問いは今から20年以上前に整理されているのではないでしょうか。CSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)が広くわが国で言われるようになり、各企業は、CSRを如何に自身の会社に対応していくのか検討をしていきました。同時にISMコード(船陸一体の責任)やISO9001(顧客満足)という体系も整えてきました。このCSRの根底にあるコンセプトは、極端に言うならば「会社の存続は社会が決める」というものです。特にわが国では、企業の社会的責任は現在重要な規範であり、社会的な事件が起きると、その関係する大企業は直接法的関係が無くても糾弾される傾向にあります。そのCSRの延長上にSustainability (企業の継続性)があり、現在のSDGsにつながっていきます。

換言するならば、社会的責任を全うできない組織は、社会からフェーズアウトされる恐れもあるということです。

各組織が目指すもの

海運に話しを戻しますと、船舶の運航には多くのステークホルダーが関与し、それぞれのステークホルダーの多くは契約でつながっています。あるステークホルダーが、例えば船主(船舶管理会社)と契約した場合、契約内容により、その大小、深度は異なりますが、法的責任や社会的責任が発生します。この社会的責任を負う以上、その契約先組織の力量を当然知る必要がありますが、コスト優先でその会社と契約した、という理由は現在では通用しないでしょう。

海難後の社会的責任については、どのような範囲で、どのような責任を取るのか、という議論は契約形態により異なりますが、各社の大きな課題であり、これはその組織の判断としか言いようがなく、ここでは省きたいと思います。

海運の各ステークホルダーの究極の目的とは、契約した、あるいは関係する船舶の「安全運航」と言っても過言ではありません。従って各ステークホルダーは、自身の社会的責任を全うすることが、関係する船舶の「安全運航」につながり、結果的にその組織の評価になるのではないでしょうか。

何をすべきか

海難発生後、すなわち事故後における責任に関し、上記のとおり各ステークホルダーはある一定の責任を負いますが、運航中、すなわち事故発生前の事故防止、安全運航に関し、どのような立ち位置にあるのでしょうか。

船舶の事故後に社会的責任が発生するのであれば、その事故防止の為、船舶の運航中(事故前)の関わりについても、何らかの関わりを当然のことながら持ちたいと組織は考えるのが自然です。またその行為も社会的責任の一つであり、この関わり方というのは、それぞれの業態、組織、会社の方針により様々です。運航会社(用船者)によっては、会社独自の手法により、関係あるステークホルダー(例えば乗組員、船主や管理会社等)に対し、いくつかの活動をしています。例を挙げると、技術情報や安全情報の発信、船舶や管理会社(船主)への監査(検船)と助言、リスクアセスメントの実施等です。

これらの対応は法的に規定されているもので無く、あくまでも運航者側のいわばボランティアに近い対応であるため、管理会社(船主)の理解が必要となります。これらを実行するには、両者の日々のコミュニケーションが重要となります。ただ管理会社側からみても、このような活動には大きなメリットがあります。すなわち自社では入手できない情報の入手、第3社からみた自社船の状況把握などであり、これらを上手に受け入れることにより、自社船のパフォーマンスの向上に繋がります。

一方、結果的に自社の社会的責任を問われるならば、契約を締結する前にも、自社防衛の一つとして、その契約先のパフォーマンス等十分に検討する必要があります。船舶の大型化や環境問題の重要性に伴い、今後さらに事故における損害の巨大化が見込まれ、こういった対応が多く取られていくのではないでしょうか。

P & Iクラブの役割

P&Iクラブも海運のステークホルダーの一員であり、その役割とは、言うまでもなく「船主の責任や費用をてん補する目的」で設立されました。これは事故後の責任や費用に関し対応するというものですが、もう一つ大きなミッションがあります。それは船主の事故防止活動をサポートすることであり、その活動の結果により各ステークホルダーの損害をできるだけ抑え、よって海洋環境保全や海事社会に貢献するというものです。この活動を実施していくため、各クラブには、ロスプリベンション(事故防止)という部署が必ずあります。P&Iクラブのロスプリベンション活動は、その契約形態から直接船主(管理会社)に働きかけるものでは無く、Webや紙媒体でのクラブからの諸情報の発信がメインとなります。また、各クラブは、コンディションサーベイを実施し、クラブの特徴を生かして、船主の要望があればリスクアセスメント、乗組員や船主(管理会社)への教育活動や研修等を実施しています。このような活動により、海運のステークホルダーの一員として、その共通する目的「安全運航」に寄与していきたいと思っています。

各P&Iクラブのホームページをご覧いただければわかりますが、船舶が運航する上での重要情報、事故情報(予防のための教訓)等を発信しています。これらを是非参考にされて、船舶の安全運航に役立てていだければと思います。

ある日本の大学では「船舶管理概論」という講義があり、最後の講義は次の言葉で終わります。「船舶管理とは、本船を如何にサポートするか、である」

海運のそれぞれのステークホルダーは、この“船舶管理”という言葉の代わりに、自身の組織(業種名)を入れていただければと思います。海運の主役であり、最前線は“本船”(乗組員)であるからです。

以上

Captain Hiroshi Sekine

Senior Loss Prevention Director

Date2021/11/16