船陸コミュニケーション

Seafarer on bridge in dark

船舶の安全運航、安全管理には、コミュニケーションは欠かせませんが、そのコミュニケーションは船内だけにとどまらず、当然のことながら、船陸コミュニケーションも非常に重要なものとなっています。

船橋チームのコミュニケーションは近年注目され、1970年代からBTM/BRM訓練が実施されてします。その後多くの海事教育機関や、海運会社で研究がなされており、その有効性は明らかであり、現在ではBTM/BRM訓練は船長、航海士の必須要件となっています。STCW条約においても、モデルコースが提示され訓練要目など、定型化されています。

一方、船陸コミュニケーション、すなわち船舶管理会社(船主)と船舶とのコミュニケーションはどうでしょうか。各会社の管理規定、手順の中に定められてはいますが、その内容は当然各社異なります。では、どのように船陸コミュニケーションをとることが、安全運航、安全管理に寄与するのでしょうか。

Court rules on passage planning

本年3月、英控訴裁判所では、陸上マネジメントと船舶間との関係に関し、注目すべき判決が言い渡されました。この事件は、船舶が出港後座礁したのですが、出港前に作成した船舶の航海計画が不適切であり、これは出港前に堪航性が無かったということを示すものである、としました。そして、航海計画が不適切なのは、船舶の堪航性を維持するため、船主がデユーデリジェンス (適切な注意義務及び努力)を行使する義務に違反しているからであると判断されました。換言するならば、本船の航海計画不備は、航海過失ではなく、船主(管理会社)の管理責任である、というものです。

(注:本件詳細は拙稿「航海計画作成と堪航性」参照 )

確かに、船舶の事故は当然のことながら、管理会社の管理責任を取られますが、航海計画策定の管理にまで及ぶというのは違和感を感じる人もいることと思います。本件は現在最高裁に控訴されましたが、航海計画策定の重要性については論を待ちません。この事件が示すのは、船舶管理会社(船主)が本船にSMSマニュアルを提供し、本船がそれを実行するというだけでは、航海の安全は担保されず、管理会社(船主)のさらなる本船への関わりを要求するものと思われます。

Other communications

では、陸上マネジメントと船舶はどのようなコミュニケーション、あるいは関わりが必要なのでしょうか。ISMコードには、陸上マネジメントと船舶との関係する規定は多くありますが、それをいかに読み解き、自社及び管理船舶に適用していくかにあります。船陸コミュニケーンを密にし、かつそれを安全運航への有効な手段となるツールの例を次に示したいと思います。

各社では、規則上、あるは会社の規定により既に実施していることも多いと思いますが、重要なことは、これらは船舶の陸上からの管理手法ではなく、コミュニケーション・ツールである、と認識することでしょう。

内部監査(ISMコード-12)

如何にマネジメントから独立できるか、そして詳細な内容、指摘事項のPDCA化をできるかで、その成果が大きく左右されます。

船長によるマネジメントレビューと経営者への報告(ISMコード-5)

どのようなインターバル、内容にするか、また経営側の応答が重要です。

訪船活動及び報告

船舶の不具合点を指摘する、という活動が多くみられますが、これは陸上担当者と本船との重要なコミュニケーション・ツールとしてとらえ、訪船報告書のフォーマットなど考慮することが重要です。

情報提供

技術、安全、事故情報など会社は管理船に種々情報を提供していますが、これらのフィードバックを必ず本船に求め、それにより本船のパフォーマンス向上を図ります。

ニュースレター

月毎、あるいは、あるインターバルで、種々情報を提供するツールとし、その中には、各船、各人のgood practiceなども紹介し、陸上と本船の距離感を短くするととともに、本船のモチベーションの向上も図れます。

ここに示したのは一例ですが、現状のコミュニケーション・ツールをいかに有効利用するかにより、船陸間の距離は短くなり両者間の理解が深まります。このような活動により、陸上マネジメントは本船パフォーマンスを理解するとともに、両者のパフォーマンスの向上が期待できるでしょう。

以上

Captain Hiroshi Sekine

Senior Loss Prevention Director

Date2020/11/30