QCR Winter 2021: CMA CGM LIBRA

CMA CGM Containership

英国最高裁判所は、2021年11月10日の本件判決において、航海計画の不備によって船舶は堪航性を失う可能性があることを確認する下級裁判所の判決を支持しました。

UK P&Iクラブは以前、本件に係る高等裁判所および控訴院の判決について、2019年夏2020年夏のQuarterly Case Review(QCR)で報告してまいりました。 経緯は以下の通りです。

2011年5月18日、コンテナ船「CMA CGM Libra号」は、厦門(Xiamen)港を出港する際に、海図に記載のない浅瀬で座礁しました。本件では、共同海損(GA)が宣言されましたが、一部の貨物関係者は、海難事故の原因は航海計画の不備によって本船が不堪航であったためと主張し分担金の負担を拒否しました。

高等裁判所判事は、船舶の航海計画に不備があり、ブイの設置してある水路を外れるという船長の判断は、結果的に座礁事故を招く原因となり得たと判断しました。航海計画に関するIMOガイドラインは、航海計画にはすべての危険海域を記載することを要求しています。厦門へのアプローチには海図水深よりも浅い水深が存在することが、危険の原因となった訳ですが、本船の航海計画には、海図の修正を求める水路通報の情報が記載されていませんでした。航海計画策定時の過失は、へーグルールの第3条第1項に従い、船舶の堪航性を保持するためのデューデリジェンス(相当の注意)を払わなかったことが判明しました。不堪航性に関して船主に対し慎重な尋問がなされた結果(注1)、同判事は、慎重な船主であれば、航海の開始前に航海計画の不備を改善するよう要求したであろうと判断しました。同判事は、デューデリジェンスについて、航海計画策定中は、乗組員のすべての行動について船主に責任があると結論付けました。上記の高等裁判所の判決は、控訴院に支持されました。

船主は最高裁判所に次のように訴えました。

(i) へーグルールは、船舶を航行可能な状態とすることと、船長や乗組員が船舶を航行することは、明確に区別しています。前者は、第3条第1項に基づき、船舶の堪航性を保持することを運送人の義務としており、後者は、第4条第2項(a)の規定により、「航海上の過失」については免責となっています。

(ii) ヘーグルールの第3条第1項の下では、運送人は、有能な乗組員を含め、安全に航行するために必要なすべてのものを船舶に装備している限り、乗組員が船舶を安全に航行できなかったとしても、運送人によるデューデリジェンスの欠如ではないとしています。 その代わりに第4条第2項(a)の下で、運送人は「航海上の過失」について免責が認められています。

最高裁判所の判決

船主の第1の主張

裁判所は、船舶の「堪航性」と「航行または船舶の取扱」との間にはカテゴリーの区別があり、航海計画は、航海開始前の堪航性に影響を与えない「航行に関する判断」として分類されるべきであるという船主の主張を却下しました。裁判所は、船舶の「堪航性」と「航行または船舶の取扱」は相互に排他的ではないと判断しました。不注意による航行事故の大部分は、航海の開始前ではなく航海中に発生しますが、航海計画を含み、航海前に行われた不注意な航行の決定は、船舶の堪航性をなくす可能性があります。裁判所は、「堪航性かどうかの境界で」事故が発生する可能性があることは認識しているが、航海計画が船舶の安全性に影響する本件は、これに当たらないと判示しました。

船主の第2の主張

“Muncaster Castle号”(注2)に関する貴族院の判断に依拠する裁判所は、「デューデリジェンスとは有能な乗組員が適切な航海計画を準備するために必要な資料を船内保持し、適切なシステムを配置して、監査し、適切に実装されていることをしていることを確認するだけのものである」と主張するのは間違っていると判断しました。

実際に、船主は、航海計画中に実行される乗組員のすべての行為に責任があります。本件では、船長と二等航海士が航海計画を策定する際に合理的なスキルと相当な注意を払うことができなかったため、船主による相当の注意が払われませんでした。船長と二等航海士の過失は、「運送人の責任の軌道範囲」の外ではなく、運送人は、ヘーグルール第3条第1項に基づくデューデリジェンスの責任を、その使用人や代理人に委任するだけでは免れることはできません。

運送人は、船舶を堪航性のあるものにする任務を、委託した者によるデューデリジェンスの不履行について責任を負います。船舶を堪航性のあるものにするためにデューデリジェンスが実施されることは、運送人の契約上の責任であり、これを委任することで、その責任を負わずに契約することはできません。

コメント

最高裁判所は、「運送人は、ヘーグルール第3条第1項に基づき、航海者や船舶管理会社、技術者、修理業者などの使用人または代理人に委託することによって、その責任から逃れることはできない」と述べ、ヘーグルールに基づく、船舶を堪航性のあるものにするという運送人の義務は委任できないと繰り返しました。

しかし、運送人は、船舶や貨物の責任を負う以前に発生したデューデリジェンスの欠如について責任を負わない場合があります。デューデリジェンスの不履行が、例えば、運送人が船舶を取得する前の造船業者、あるいは運送人が貨物の取扱う権利を取得する前の荷送人の過失であった場合、運送人は責任を負いません。

不備が修復可能である事は、船舶は不耐航ではないことを意味する場合もあります。ただし、これは、船舶または貨物への危険が発生する前に、不備が修正可能と合理的に考察できるかどうかによる可能性があります。

船主は、船舶の堪航性を保持するためにデューデリジェンスを実施しなかったことから生じる、貨物の損傷または共同海損(GA)の費用負担のリスクは、船主とその保険者が負担するものであり、不注意な航海計画が、船舶の堪航性を失う可能性があるという判決は、今後、船主と保険者に対し、より多くの貨物損害やGAの負担につながるだろうと述べました。これは結果かもしれませんが、いずれにしても申立人は、航海計画の不備が船舶の堪航性を失うほど深刻であり、それが損失または損傷の原因であったことを証明する必要があります。

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(注1)As set out McFadden v Blue Star Line [1905] 1 KB 697, 706 namely “whether a prudent owner would have required the relevant defect, had he known of it, to be made good before sending his ship to sea” (“the prudent owner test”).

(注2)Riverstone Meat Co Pty Ltd v Lancashire Shipping Co Ltd (The Muncaster Castle) [1961] AC 807. The Court clarified that the obiter comments in the judgment of The Torepo [2002] EWHC 1481 (Admlty); [2002] 2 Ll L Rep 535 suggesting otherwise is not a correct statement of the law.

 

Jacqueline Tan

Legal Services Manager

Date2021/11/19