FIMBank Plc v KCH Shipping Co Ltd [2022] EWHC 2400

483855885

商事裁判所は、ヘーグ・ヴィスビー・ルール第3条第6項の出訴制限期間(time bar)の規定は、船舶から荷揚げされた後の貨物の誤配(misdelivery)に係る請求にも適用されることを明らかにしました。

はじめに

貨物の誤配は、海上の航海が短い場合、又は、今日の船舶の速力がより早くなった理由により、又は、譲渡可能証券が郵便や売買の過程において、若しくは、いくつかの銀行を経由する中で保持されるために、発生する可能性があります。

船長は、譲渡可能な船荷証券の原本の呈示によらない貨物の引渡しを行った場合、引渡を受ける者が貨物について正当な所有権を有しないリスクを負うことになります。UKクラブでは、譲渡可能な船荷証券の原本の呈示なしになされた貨物の引渡から生じるクレームについては、メンバー委員会(Members’ Committee)の裁量により認められた場合にのみ、補償を得ることができます(クラブ・ルール第2条但書(c))。従いまして、運送人は、引渡を求める当事者から、有効期間が無制限の、インターナショナル・グループ推奨の文言による補償状(LOI)を取得することとなるでしょう。英国法においては、原告は、一般に、契約違反、又は、不法行為に基づく訴訟を提起するための期間として6年が認められますが、その期間は、請求者が不正を知った時、又は、合理的な注意によって知りえた時からでないと、進行を開始しません。

LOIによる担保は、それを承認する者らによってのみ効力を生じます。当クラブは、受領したLOIに対して銀行が連署することを推奨していますが、多くの場合、LOIの発行者は抵抗を示し、発行者が船主と以前から取引のある傭船者である場合、船主は、無担保のLOIを受け入れるという商業的決定を下すことがあります。現在の世界経済の不確実性により、担保として今日は有効なLOIが、2年後、3年後にはそうではなくなる可能性があることを意味します。このような背景から、当クラブではこの判例の要約を提供することといたしました。

Alhani号事件判決([2018] 2 Llyod's Rep 563)における商事裁判所の判決が出るまで、ヘーグ・ヴィスビー・ルール(「HVR」)の第3条第6項の出訴制限期間が誤配のクレームに適用されるかどうか、に関する英国の先例は存在しませんでした。Alhani号事件の裁判所は、適用されると判断しましたが、同事件における誤配は、船から船への移動(ship-to-ship transfer)中に荷揚と同時に発生したものでした。貨物が荷揚された後に発生した誤配にも出訴制限期間が適用されるか否か、という問題は、裁判所によって未解決のまま残されていました。

FIMBank p.l.c.対KCH Shipping Co. Ltd.事件の商事裁判所は、この問題に肯定的な答えを出しました。

背景

  • 本船 Giant Ace号は、インドネシアから石炭をバルクで積み込み、LOI に基づいて、インドの JaigarhとDighiの港の備蓄庫に向け、貨物を輸送していました。13組の「to order」と記載された船荷証券が、船長(Master)のために、また船長の代理として、発行されました。
  • 運送人であるKCH Shipping Co., Ltd(「KCH」)が発行した引渡指示(delivery order)に従って、備蓄倉庫から貨物が誤って引渡された、と主張されました。
  • FIMBank p.l.c.(「FIMBank」)は、購入者のうちの1社の金融機関であり、すなわち、船荷証券の所持人でした。船荷証券は、HVRに従ったCongenbillの書式でした。船荷証券の第2条第(c)項は、「運送人は、いかなる場合にも、船舶への船積前及び荷揚後に生じた貨物の損失及び損害について、責任を負わないものとする...」と規定していました。
  • FIMBankは、商品の引渡または商品が引渡されるべきであった日から1年以上経過した後に、KCHに対し、仲裁通知を送達しました。
  • FIMBankは、HVRは海上貨物運送に対してのみ適用され、貨物の荷揚をもって終了する「責任期間」であるため、第3条第6項の1年の出訴制限期間は、荷揚後の誤配には適用されず、いずれにせよ、船荷証券の第2第第(c)項は、HVRの黙示の又は明示的な適用を妨げるものである、と主張しました。
  • 前提事項に係る判断において、仲裁廷は、上記の主張に同意せず、以下のように判示しました: (i) 荷揚後に発生した誤配に関する請求に対しては、原則として、HVRの出訴制限期間が適用されうる。(ii) Congenbill書式の第2条第(c)項は、荷揚後の期間への適用を排除していない。したがって、FIMBank の請求は、出訴制限期間により認められない。

FIMBankは、以下の2つの争点について、1996年仲裁法第69条に基づく上訴を認められました;

  1. HVRの第3条第6項が、荷揚後の貨物の誤配に対する請求に適用されるか否か。
  2. Congenbill書式の第2条第(c)項が、荷揚後の期間におけるHVRの適用を妨げるか。

商事裁判所の判決(William Blair裁判官)

裁判所は、上記2つの争点に対する仲裁判断を支持し、FIMBankの上訴を棄却しました。裁判所の理由は以下に要約されます。

第1の争点について

第3条第6項の真の解釈によれば、これは荷揚後の貨物の誤配に対する請求にも適用される。裁判所は、ほとんどの引渡は、船のレールを越えて荷揚された後のある時点において行われ、運送人のコントロール外のさまざまな方法で行われる可能性があるという、仲裁廷の考察を承認する。そのため、いつ、どのように船荷証券を呈示し、陸上で商品を受け取るかをコントロールするのは受取人であるため、出訴制限期間の目的のための決定的な区別が、引渡しがどこで、どのように行われるか、に依存するとすると、それは奇妙なこととなる。第3条第6項を広く解釈することは、荷揚が終了した時点に関する細かい区別の必要性を回避し、最終的に船主がその帳簿(book)を清算できるようにするという、出訴制限期間の目的に合致している(Captain Gregos号事件判決([1990] 1 Lloyd's Rep. 310)におけるBingham裁判官の判示事項が引用されています。)。

裁判所は、上記の結論が誤りであったとしても、船荷証券には、当事者は引渡が行われるまでHVRの適用を延長することを意図した黙示の条項が含まれている、という仲裁廷の認定と相違することはない、と判断しています。このような可能性は、MSC Amsterdam号事件判決([2007] EWCA Civ 794)において控訴裁判所が認めていましたが、同裁判所は、当事者はそのような結果を意図していなかった、と結論づけています。

第2の争点について

裁判所は、Congenbill書式の第2条第(c)項は、HVRの荷揚後の期間への適用を排除しない、と判断し、異なる結論に至ったMSC Amsterdam号事件判決で検討された事実及び条項が、本件と区別可能である(distinguishable)との仲裁廷の意見に同意しました。

コメント

この決定は船主にとっては歓迎すべきものですが、メンバー各位におかれましては、英国法において、HVR第3条第6項の出訴制限期間が、荷揚時又は荷揚後に発生する誤配に関するクレームに適用されることが明らかになった一方で、その位置づけに関する国際的な合意はまだない、という点にご留意下さい。

結論としては、電子船荷証券("e-BL")が発行された場合、e-BLは物理的に移送する必要がないため、誤配の機会が減少することを指摘したく思います。また、電子船荷証券は、電子的な形式で安全に保管されるため、船積時に入手できなくなる可能性は極めて低いといえます。

Jacqueline Tan
リーガルサービスマネージャー
13/10/2022

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)

【訳者(弁護士田中庸介)コメント】

misdeliveryクレームにヘーグ・ヴィスビー条約の1年の出訴制限期間(time bar)(日本法上の消滅時効ないし除斥期間に類似。)の適用があるのかについては長年、英国判例上の不明点とされていましたので、その適用を肯定した点で、本判例は重要な意義を持ちます。船主としては、1年後は、提訴されるリスクがなくなることとなりますので、有利な判例といえます。但し、英国では、控訴がなされているようですので、控訴審の判断が待たれるところです。本判決は、「貨物の引渡日又は引渡されるべきであった日から1年」で出訴制限にかかる、と判示しています。

これに対し、日本法上は、misdeliveryにも1年の除斥期間(商法585条、国際海上物品運送法第15条)の適用があることは、広く承認され(東京地方裁判所平成16年4月26日判決)、その起算点は、当該貨物の荷揚作業が終了し、引渡が可能となったと認められる日(左の判決)、又は、本来の船荷証券所持人に貨物が引渡されるべき日(中村真澄(「注解・国際海上物品運送法」307頁))から1年、とされています。

Jacqueline Tan

Legal Services Manager

Date2022/10/13